業界レポート

記事公開:2022.10.5

木質バイオマスエネルギー利用の懐疑論をめぐって

藤原敬

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一般社団法人持続可能な森林フォーラム 代表 藤原敬

はじめに

持続可能な森林フォーラムが運営している「持続可能な森林経営のための勉強部屋」のサイトで、森未来さんと連携して連続セミナーを開催しています。今年度、第一回を7月30日に開催しました。ゲストには、元林野庁長官、(一社)日本木質バイオマスエネルギー協会JWBA顧問加藤鐵夫氏をむかえて「木質バイオマスのカーボンニュートラルに関する問題」につい意見交換をしました。

開催までの経緯

再生可能エネルギーを原料にした電力の拡大を図るため、再生可能電力を消費者に高く買ってもらうという固定価格買取制度FITシステムがあります。その中に木質バイオマス原料を組み込んだのはよいんですが、海外からの輸入原料に頼る発電所がたくさん認定され、バイオマス燃料を燃焼させた場合に発生する二酸化炭素の評価方法など、議論が錯綜し、石炭より悪い輸入木質バイオマス??などとわれています。そこで、最近加藤さんは、議論の整理が必要だ!としてバイオマスエネルギー協会のサイトに「木質バイオマスエネルギー利用に関する懐疑論について」といった論説を公表してきました。

それをネタに議論しよう・・・とお願いして実現しました。

木質バイオマスとは

林野庁のサイトに、「「バイオマス」とは、生物資源(bio)の量(mass)を表す言葉であり、「再生可能な、生物由来の有機性資源(化石燃料は除く)」のことで・・・、そのなかで、木材からなるバイオマスのことを「木質バイオマス」と呼びます」とあります。生物由来でない木材はないので、木質バイオマスは「再生可能な木材由来の(木材からなる)資源」ですね。建築用に使われる木材は木質バイオマスといわれることがないので、木材そのものでなく「木材由来の」、すなわち、木材生産過程の未利用の(いままで捨てられていた)木質部材や利用した木材を再利用した「資源」(生産活動のもととなるもの)です。最近この言葉が使われるようになったのは、再生可能エネルギー資源の一つの選択肢として行政的な支援をうけるようになったからです(FIT(固定価格買取制度)。

木質バイオマスの種類

木質バイオマスをその由来から分類すると

①樹木の伐採や造材のときに発生した枝、葉などの林地残材
②製材工場などから発生する樹皮やのこ屑など
③住宅の解体材や街路樹の剪定枝など

となります。また林野庁のサイトでそれぞれの発生状況や利用状況が示されています。

木質バイオマスエネルギー利用方法

化石資源に代わって使われていなかった木質バイオマスをエネルギーに変えて使うのは大切な取り組みで、発電用に使う方法と熱利用で使う方法の二つがあります。注目されることになったのは、前述のように発電利用ですが、木質バイオマスの特性から熱利用がより重要です。

木質バイオマスエネルギー利用の問題点について

前述のように、輸入木質バイオマスは石炭より悪い、といった議論がされていますが、「その基になった」といわれる報告書を読んで、このイベントで報告しました。題名は:The use of woody biomass for energy production in the EU(EUにおける木質バイオマスを利用したエネルギー生産)―(Joint Research Center (JTC)、EU共同研究センターの報告 です

その内容の総括表が下の図です。

引用:The use of woody biomass for energy production in the EU, JRC Publications Repository
URL:https://publications.jrc.ec.europa.eu/repository/handle/JRC122719

縦軸は、Carbon Emissions Mitigation(炭素の排出緩和(回収))(上が短期に回収される良い例、下が回収が長期間にわたる悪い例)、横軸は、Biodiversity & Ecosystems’ Condisitons Assessment(生物多様性と生態系条件の評価)(左が生態系管理に貢献する良い例、右が生態系を悪化させる悪い例)。この平面に3つのカテゴリー(●伐採残渣の除去、〇(薄橙色)植林、〇(水色)人工林への展開)にわけた、24の取組を、生物多様性環境システム、炭素の排出の回収期間の二つの側面から評価。左上がどちらも◎、右下がどちらもxx。例えば、左上の●5番は、伐採跡地で小さな木くづを小規模に集めてバイオマス燃料とするケースです。跡地の森林の再生は順調で、環境に耐える影響もすくなくて、◎。右下隅の21番は、原生林を伐採してバイオマス燃料として跡地を人工林にするケースです。

バイオマスを利用して吸収!と意図したけど、あまり効果がないのが半分より下の9個、環境的側面で問題あるのが、半分より右の18個。気を付けて、というものです。そんなことが実際行われているの?というのもありますが、学術関係者が論文からデータが拾えて分析できるケースを拾い上げたものです。ですので数が多い少ないは実際おこなわれている事例とは関係ありません。「こういう可能性があるので、そんな時は気をつけて!」ということですね。

もう一点、・ティモシー・D・サーチンジャーの「石炭より悪い輸入木質バイオマス~森林保全による炭素固定の重要性」を論点を見てみましょう。

①木材を燃やして発電すると単位発電量当たり化石資源よりたくさんCO2が出る
②それは森林が回復すると吸収されるが時間がかかる
③木質バイオマス燃料資源を製造し、輸送する過程でたくさんのGHGがでる(輸入バイオマスは特にたくさん)
④バイオマスは「(米国では)森林が増えているのでカーボンニュートラルだ」というが伐らない方が固定量が多いので、CNといわないように。
⑤CNはIPCCがバイオマス由来のエネルギーをGHGゼロカウントしていることが根拠となっているが、それは伐採した時点でGHGとしているからであって、それを根拠にするのはあやまり。

木質バイオマスエネルギー利用を考える上でおさえる点

木質バイオマスのエネルギー利用を懐疑的にみている論文を議論をみてきましたが、しっかり私たちが頭に入れておきたいことは・・・

バイオマス発電は気候変動対策のためにやっていることですが、伐採をしたり、伐採地で未利用材をつかったり、いろんなやり方によって、生物多様性などの環境問題に影響をあたえたり、GHGの出方、回復の仕方など注意しなければならないことがたくさんある。みんな真剣になっているのでしっかり議論ができるように。ということでしょうか。

沢山の人が森林に関心を持って議論し始めたことは大切なこと。よく話を聞き、議論が必要です。

ただ、議論する場合、「長期的視点で考えること」が大切というのが加藤さんのメッセージの中で心に残りました。何億年前に吸収して固定してあった化石資源を燃焼させて大気中に放出して地球環境問題に。この問題を解決するために、最近吸収したバイオマスを替わりに燃焼させることは重要な選択肢であることは間違えありません。だから木質バイオマスはカーボンニュートラルと言い始めたんだと思います。持続可能な木質バイオマスの供給で循環社会を形成しよう!化石燃料の大量消費社会から循環社会への転換をはかるための、木質バイオマスの発電事業なんで、仮に、次世代の人が使えないような形態の木質バイオマスが大量に日本に投入されるといったことがあるとすると、避ける必要がありますね。長期的視点にたった判断を。

まとめ

いずれにしても、木質バイオマスを燃料にしてエネルギー利用するときに、GHGが排出することはしっかり押さえておきましょう。CN2050に向けてみんながGHG実質ゼロといって、真剣に考えていることなので、バイオマス発電はいいことやっているんだからいいんだ、とならないように。

特に輸入が拡大することは気をつけて。欧州が環境リスクを考えて買わなくなって余ったバイオマスをみんな日本が買っていったことのないように。また、バイオマスエネルギーのために森林を伐採するときは、よく注意しましょう。もちろんバイオマスのために新しい森林を創ることは選択肢にはあるんだ

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