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記事公開:2025.10.10

ビーバー社員の雑”木”談│Vol. 001 アカギ

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ビーバー社員の雑”木”談

 今月から「ビーバー社員の雑”木”談」というテーマで新連載が始まります!

 木に魅せられ行く先々で木材を集めてしまう人々は、ビーバーが木を溜めこんでダムを作る習性になぞらえ、自分たちのことを「ビーバー隊」と呼んでいます。このコラムでは、そんなビーバー隊の弊社社員が、普段は”雑木”としてまとめられ、日の目を見ることがない多種多様な木々の知られざる魅力にフォーカスします!普段の生活との意外なつながりから、生態系・歴史・神話に至るまで、1つ1つの木々を様々な角度から掘り下げます。木のことをあまり知らない方も、ぜひお気軽に覗いてみてください!

 記念すべき第一回は、南西諸島に分布する「アカギ(コミカンソウ科アカギ属)」。本州の方や建材をメインに扱われている方には馴染みが薄いかもしれませんが、琉球や奄美では生活に欠かせない木材として利用されてきました。今回はその一面をご紹介したいと思います。

人々を引き付ける赤い材

 アカギの最大の魅力は、その名の由来でもある心材の鮮やかな赤色です。緻密に詰まった木目は硬質で、高級感を纏っています。切削はしやすく加工面も滑らかに仕上がります。一方で、乾燥時の狂いや割れの制御は難しく、キクイムシ対策で水中保存しなければならないうえ、変色する可能性があることなど取り扱いの注意点も多い樹種です。こうした気難しさを乗り越えて供給された真紅のアカギは、南国の宝物といえるでしょう。

本当に宝になっていた!

 「宝物」と表現したのは比喩ではありません。伊勢神宮に納められている神宝の一つ、須賀利御太刀(すがりのおんたち)という刀の柄の部分は、このアカギで作られています。伊勢神宮の714種1576点に及ぶ神宝は、社殿の式年遷宮と共に造り替えられるので、アカギの柄の須賀利御太刀も20年に1度作られます。1929年の式年遷宮の際には、首里城に生えていたアカギを製材して使ったという記録もあるようです。

古代では高い位の証にも

 また、正倉院には巻物の軸に赤木を利用した経典も収蔵されています。かつて、天皇が位を授けるときに渡す文書(位記)では、位によって軸に何を使うかが決められており、親王位(天皇の直系子孫)は軸がアカギだったといいます。ちなみに、神位記三位以上は黄楊細工で有名なツゲ、五位以上は厚朴すなわちホオノキだったそうです。こうした品々は、現在の九州にあたる地域が南西諸島との交易で手に入れ、それを中央への贈り物として送っていたものが多く、他にもアカギの机や倭琴の脚、櫛などが送られていたといいます。まだ流通が困難ばかりだった時代は、今よりも南国の産品が物珍しかったのでしょうね。

森未来にアカギの問い合わせが?

 実は先日、このアカギの問い合わせが森未来に舞い込んできました。なんでも仏像彫刻の素材を探していらっしゃるとのこと。人づてに「あの人なら持っているかも」という人を何度も紹介してもらい、何とか調達することができました。

 仏像と言えば、ヒノキやカヤなど針葉樹で明るい色の材を使うイメージですが、実は飛鳥時代以前はクスノキが主流だったほか、出雲地域のホオノキ、飛騨高山のイチイ(一位一刀彫)など、色の濃い材が使われる事例も散見されます。今回のアカギを用いる事例は初めて聞きましたが、あの赤い材から作られるのであれば、さぞ神々しい仏像ができるのではと想像が膨らみます。

文化と暮らしに根差したアカギ

 硬さと重さを兼ね備えたアカギは、暮らしの中でも重宝されてきました。 例えば、南西諸島では一般的にシイやリュウキュウマツが臼に利用されますが、「アカギの臼が最も良い」と伝わっています。また、沖縄の伝統的織物「宮古上布」の製造工程には、アカギが欠かせません。最終仕上げである「砧打ち(きぬたうち)」において、布を叩いて艶を出すための台「砧台」にアカギが使われます。アカギよりもうひとまわり硬いイスノキの木槌で叩かれることで、布に独特の光沢が生まれるのです。

 この組み合わせは、硬いもの同士でありながら、アカギとイスノキのわずかな性質の違いが、布の風合いを最大限に引き出すための絶妙な相性となっています(このほか砧台にはリュウキュウマツ、木槌にはシャリンバイが使われることもあります)。さらにアカギの樹皮はミンサー織りの染料としても使われます。淡く控えめな赤色が上品で涼しげな風合いを醸し出してくれます。

元気すぎるアカギ

 アカギを語る上で、その驚異的な生命力は特筆すべき一面です。「一年放置した丸太から芽が出た」という逸話があるほど、そのエネルギーは強力です。しかし、その元気すぎる特性が地域によっては軋轢を生んでいます。他の植物の成長を妨げる「アレロパシー」という性質と、鳥散布種子の特性が相まって、小笠原諸島では生態系を脅かす外来種として駆除の対象となっています。

 しかし、悪いことばかりではありません。駆除対象として伐採されたアカギの有効利用の研究が進み、優れた音響特性が認められ、リコーダーなどの楽器材として利用される例が出てきました。

 さらに2025年9月22日、小笠原で環境保全や施設管理を行っている会社が、駆除対象となったアカギを小笠原のブランドにしようというプレスリリースが発表されました(なんというタイミング!)。これは、環境課題の解決と、木材の新たな価値創造を結びつける、意義深い取り組みといえるでしょう。

終わりに

 いかがでしたでしょうか?初めて名前を聞く方も多かったと思いますが、そんなアカギでも生活や文化に根付いた用途がありました。

 森未来ではこうした樹木に紐づいたストーリーも付加価値として、皆様にお届けできればと考えております!では、次回もお楽しみに!

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