
サステナブル
長らくお待たせいたしました。「ビーバー社員の雑”木”談」第三回をお届けいたします。
木を愛する「ビーバー隊」が、普段は見過ごされがちな”雑木”の魅力に迫るこのコラム。
ビーバーが木を積み上げるように、気ままな不定期更新となっております。
今回ご紹介するのは、ムクロジ科カエデ属の「ハナノキ」です。
木枯らしが吹き、木々の枝ぶりが寒空に映える季節となりました。 冬の静寂の中で、来るべき春の訪れを静かに待つ一本の木に、想いを馳せてみませんか。
今回紹介する樹木は「ハナノキ」。 愛知県の「県の木」にも指定されており、春には鮮烈な紅色の花を、秋には燃えるような紅葉を見せてくれます。そして、その魅力は季節の彩りだけではありません。なぜこの木が愛知県のシンボルに選ばれるほど特別な存在なのでしょうか?

その答えは、この木が持っている壮大な地球規模の歴史にあります。実は数百万年前、彼らの共通祖先は北半球全体に広がっていました。しかし、その後の氷河期や乾燥化によって多くの仲間が絶滅しました。現在は日本の東海地方に「ハナノキ」と、北米大陸の東部に近縁種「アメリカハナノキ」が分布しており、遠く離れた二ヶ所だけが生き残りの地となりました。
つまりハナノキは、氷河期を生き抜いた「生きた化石」だったのです。
ハナノキは現在、環境省のレッドリスト(絶滅危惧種Ⅱ類)に名を連ねる希少種。 自生地は極めて局所的で、岐阜・愛知・長野の県境の湿地帯に偏っています。ハナノキが自生する「東海丘陵」は、太古の植物が生き残った「レフュジア(逃避地)」として知られています。
ちなみに、5月に雪が積もったような白い花を咲かせる「なんじゃもんじゃの木」でお馴染みの「ヒトツバタゴ」も、ハナノキと同様の理由でこの地域に残った希少な樹木なんです!

なぜ、ハナノキは世界中で「東海地方」を選んだのでしょうか? その答えは、足元の「土」と、かつて存在した「幻の湖」にあります。
自生地である東濃地方の地下に広がるのは、「東海層群」と呼ばれる粘土や砂礫の地層。これは数百万年前に存在した巨大な淡水湖「東海湖」の底に溜まった泥が由来です。きめ細かい粘土層は、いわば天然の防水シート。雨水を地中深くに逃さず、豊富な湧き水として地表へ送り続けます。
一般的なカエデと違い、常に水がある「湧水湿地」を好むハナノキ。 太古の湖が残した地質こそが、数百万年にわたり彼らを守り抜いた「命のゆりかご」だったのです。
湿地を好むハナノキですが、近年の研究で「ある矛盾」を抱えていることが分かってきました。大人の木は湿地という安定した環境に適応していますが、その種から育つ実生(みしょう)は、光の降り注ぐ「明るい更地」でしか生き残ることができません。
本来、ハナノキは土砂崩れや洪水といった「自然の撹乱(かくらん)」によってできた明るい更地を利用して世代交代してきました。ところが調査によって、意外な事実が判明しました。宅地造成などの「人工的な法面(のりめん)」に、多くの若木が定着していたのです。
湿地という「安定」を求める一方で、生き残るためには大地の「撹乱」も欠かせません。単に囲って穏やかに守るだけでは、世代交代や進化を止めてしまうでしょう。この絶妙なバランスの上に、ハナノキの命は成り立っているのです。
彼らが根を下ろす土には太古の湖の記憶が宿り、その特異な生存戦略には、ダイナミックな大地の変動が刻まれています。春先に湿地を赤く染める花は、変化し続ける環境で生き抜く「しなやかな強さ」の象徴でもあります。
樹木が厳しい自然界を生き抜いてきた「理由」を知ることは、私たちが自然とどう向き合い、未来をどうデザインしていくか。その問いへの大きなヒントになるはずです。
今回は、ハナノキが「生きた化石」と呼ばれる背景について解説しました。もしどこかで見かけたら、美しさの背景にある、途方もなく長い時間の積み重ねに思いを馳せてみてください。
森未来ではこうした樹木に紐づいたストーリーも付加価値として、皆様にお届けできればと考えております!では、次回もお楽しみに!
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