業界レポート

記事公開:2022.12.26

木材製品市場を知っていますか?(前編)-市場の成り立ちとこれから-

向井千勝

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はじめに

関係者以外、入ることができない流通施設って結構ありますよね。食品流通は「卸売市場法」が制定されており、市場への入場が厳格に規定されています。木材市場(いちば)も基本的には登録した買い方以外の入場は厳しく制限されており、登録買い方でない人が木材市場で直接買い付けることはほぼ不可能です。

ただ、近年、木材製品市場会社のなかには新たな顧客開拓を目指し、登録買い方との同行セールを実施するところもあります。

盛り上がる優良材のセリ売り

私たち株式会社森未来は首都圏の木材製品市場と懇意にし、実際に施主様をお連れして実地で材料を見てもらうことがあります。また、私どもが主催して、市場会社の一角をお借りし、木材製品展示販売会もやらせていただいたこともございます。

木材市場会社の悩みは既存流通の縮小です。木材製品市場の主要な販売先は地域の木材販売店で、ここから地域の工務店等に納材されていきます。しかしながら、地域の木材販売店は規模が小さく、経営者の高齢化や後継者難といった課題を抱え、さらに既存流通を経由しない商流比率の台頭により往時に比べ著しく取扱高が減少しています。こうしたこともあり、木材製品市場会社は既存流通以外の新規の需要家を懸命に開拓しているのです。

それでは「木材製品市場(いちば)」とはどのようなものか、どのような機能、利点があるのか、どのような課題を抱えているのか、これからの可能性などについてまとめてみました。
百聞は一見に如かず。ぜひ、実際に木材製品市場にお越しください。多種多様な木材製品が林場に立ち並ぶ光景は圧巻です。お声がけいただければ私どもがお連れいたします。本物の木を見て、触れて、香りをかいでみてください。

左:高級和食店舗内装用に探していたタモの糠目材を発見。右:変木床床柱。

木材製品市売とは何か

木材流通の方法は様々です。その一つに、市売(いちうり)という方法があります。木材市場に各地の木材が集荷し、毎月の決まった日時に「セリ売り」という方式で販売していくものです。鮮魚や青果のセリ売りと似ています。最も高値を付けた買い方に競り落とされます。セリ売りの基本は透明性です。誰がいくらで競り落としたか衆目の元にさらされます。

こうした木材のセリ売りを行うのが市売市場会社で、丸太をセリ売りするのが原木市場、主に製材、建材等の製品をセリ売りするのが製品市場です。原木をセリまたは入札で販売するものとしては都道府県の森林組合連合会が運営する木材共販所もあります。

関東屈指のケヤキ原木市場に参集する買い方

ここでは木材製品をセリ売りする市売市場会社を中心に紹介します。
全国各地の製材事業所は、仕入れた丸太・半製品を原材料に、製材を行い、出来上がった木材製品を販売していくわけですが、組織だった営業販売力を持たない多くの製材事業所は製品販売を代行してくれる存在として市場会社の市売市場を活用します。

市売市場には単式市場複式市場があります。

  • 単式市場・・・出荷主からの製材等集荷、市場での販売、買い方への代金集金、製材事業所への支払といった一切の業務を市売市場会社が行います。
  • 複式市場・・・集荷、販売業務を市売市場に加盟している市売問屋が行い、市売市場会社は場所・設備の提供、集金、計算、荷渡し等の業務を受け持ちます。

複式市場に所属する市売問屋は市売市場会社の業務に対し一定の手数料他を支払い、これが複式市場会社の主な収入となります。

木材市売りの歴史

木材市売の歴史は古く、天正11年(1583年)、豊臣秀吉が大阪城築城で大量の木材を集荷したころに遡り、ここで木材商が登場し、江戸期にはこれらの木材商が売りさばきを迅速なものとするため、当時大量の木材を大阪に出荷していた土佐藩が幕府に願い出て立売堀(いたちぼり)に木材市場を開く許可を得たのが木材市売の始まりといわれます。

昭和15年(1940年)、大阪にいくつかあった木材市売が一体化し大阪木材市場が設立されます。戦中統制を経て昭和22年(1947年)、大阪で木材市売が再開され一気に発展していきます。

首都圏での木材製品市売の誕生は昭和25年(1950年)、鶴見駅構内に市売木材(現在のナイス)が誕生してからといわれますが、大阪で木材市売ノウハウを蓄積した木材商も続々と首都圏に参入し、昭和28年(1953年)には東京都内だけでも24の木材製品市売会社が設立されました。現在、首都圏の木材製品市売会社は整理統合が進み大幅に数を減らしていますが、引き続き木材製品流通の一翼を担う存在です。

紀州産杉、桧一枚板展示

似たような機能を持つ流通形態として「木材センター」があります。これは複数の木材問屋が1カ所の敷地に集まり、いつでも自由に木材製品を販売するもので、登録買い方は必要な木材製品をセンターの各問屋で調達し工務店等に納材します。

木材製品市売は特定の市日に集荷した木材製品をセリ売りしますが、木材センターはセリ売りではなく相対でいつでも買える点に特徴があり、取扱品目も製材等にとどまらず、合板、石膏ボード、断熱材、各種建材等を幅広く在庫し小口で販売しています。

木材製品市売の利点

荷主(製材事業者等)の利点

まず、荷主(製材事業者等)が市売を活用する利点です。
製材事業者に営業力、販売力が乏しくても市場が販売を代行してくれます。特に大都市圏は旺盛な木材需要があり、ここで販売することは多くの製材事業者にとって大変重要です。大都市圏の市売市場には多くの買い方が参集するため、ここで販売できれば効率的です。

市売を活用すれば自ら大都市圏でまとまった製材在庫を置く必要がありません。買い手の購買数量が小口でも市売市場には不特定多数の買い方が大勢参集するので、製材事業所はある程度まとまった数量を市売市場に出荷しても捌くことができます。

買い方に対する信用調査は市場会社が行い、市売りで販売された製品の代金は市場会社を通じて必ず支払ってくれることから、製材事業者が自ら代金回収する必要がなく、与信面で大変安心できます。

市売市場には多様な製材を求める買い方が参集することから、製材工場で生産された様々な製材を捌くことができます。また、大都市圏の需要動向や競合他社情報を的確に収集することができ、その情報を製材生産に反映することでニーズに適した製材を生産出荷することができます。

セリ前に現物下調べの様子。

買い方の利点

次に買い方が市売を活用する利点です。
買い方は大量の木材製品を在庫することができません。市売市場であれば必要な寸法、格付けの木材製品を必要とする数量で買うことができます。産地の製材事業所から出品された現品をその場で見て、適材だけを購買することができます。

地方の製材事業所から購買するのではないため、輸送面の面倒ごとを考慮する必要はありません。製材事業所がある産地まで出向く必要もありません。ただし、木材市売は基本的に配送をしません。買い方が市場で引き取ることになります。

木材製品の市売市場会社は日時を定めて市を開催します。市では様々な企画が盛り込まれ、全国のブランド産地と連携して開催される市では産地の製材事業者も参集し、買い方との交流を深めます。また、市売会社の創立や買い方組織の結成といった大型市では数百人もの買い方が参集し、熱いセリが展開されます。産地と市場を結ぶ存在として市売会社の役割は大きく、産地ブランド形成でも重要な役割を果たしてきました。

高級一枚板

木材製品市売の低迷

往時には東京都下だけでも24あった木材製品市売市場・木材センターは現在、整理統合され、その数を大幅に減らしています。

現在、首都圏の主要木材製品市売会社は、東京木材市場、東京銘木協同組合、丸宇木材市売、東京新宿木材市場、東京木材相互市場、ミトモク、茨城木材相互市場、宇都宮総合木材市場、吉貞、東京中央木材市場、千葉県木材市場協同組合、新東京木材商業協同組合、横浜連合木材、相模原木材センター、ナイスです。

上記の各社は市売・センター兼営のケースもあります。また、一つの木材製品市売会社で複数の市場を運営しているところが大半なので、市場数はこれよりも多くなります。

木材製品市売の業容は決して良好ではありません。一番の原因は木材製品商流の変化です。構造材、羽柄材を中心に木材製品の流通は機械プレカットに席巻され、プレカット会社が商流の主軸になったためです。新設される木造軸組住宅の柱や梁・桁・土台といった基本構造材加工の90%以上が機械プレカットに依存しており、工務店は直接、プレカット会社に構造用となる木材製品を発注するケースがほとんどとなっています。

市売市場会社の主な販売先である小売店、工務店が経営者の高齢化、後継者難などで淘汰されていったこともじわじわと業容の減退に影響しています。特に直接的な買い方である地場販売店の地盤沈下は深刻です。ここでもプレカット流通の影響が大きく、構造材にとどまらず、羽柄材、合板等の構造用パネルもプレカットから調達することが一般的となり、木材販売店の出番は薄れていきました。

紫檀、黒檀の床柱:和室の激減で著しく需要が減退。

木造軸組住宅に使用される構造材等の木質材料変化も影響しています。すなわち、グリーン材からKD・集成材等のエンジニアードウッド(EW)への移行です。機械プレカット設備にとって適切に乾燥処理された高精度の木材製品であることは最も重要です。

住宅部材の工業製品化は、造作・建具といった内装仕上げ材分野でも顕著で、無垢の木材から工業化された建材類への移行が急速に進みました。また、住宅の洋風化が進み、かつてのような畳の和室がほとんどなくなり、敷鴨居をはじめとした伝統的な造作材の出番が少なくなりました。これら無垢材を原材料とした造作・建具材販売は市売市場会社の最も得意とするところでしたから、その打撃は極めて大きいと言わざるを得ません。

ゴールデンポプラの一枚板

新たな需要創造に向けて

幸いなことに我が国における木材活用の動きが本格化しています。戦後植林された針葉樹人工林資源の活用、さらに森林や木材製品が気候変動問題への切り札になるとの評価が背景にあります。これまで住宅需要一本できたこの木材業界ですが、国が主導して非住宅建築の木造・木質化を推進するようになり、新たな事業機会が生まれています。

こうした潮流に市売関係者も参入を目指しています。特に無垢の木材を活用する提案は得意とするところで、木材市売市場会社が中心になり、木材供給を担う産地、施工を受け持つ地域工務店との水平連携ができる点は最大の強みです。

非住宅建築の木質化を軸に、新たな需要家との接点を持つ取り組みも活発になっています。デザイナー、設計といったクリエーターとの結びつきです。彼らの全く新しい感性を原動力として本物の木の魅力を引き出していくという新たな価値観創造活動に木材市売市場会社も動き始めました。

日本全国、さらには海外産地から多様な木材製品が一カ所に集結する木材製品市売市場を訪れることは日ごろ、木材に接する機会の少ないクリエーターにとって新たな経験になるでしょう。現地で実際に木を見て、触れることで、きっと新たなインスピレーションを引き出してくれると確信しています。

桧の平角材

市売という手法を通じて形成されてきた毛細血管のような顧客網、全国製材産地との緊密な結びつき、これこそが木材製品市売の最も重要な価値だと思います。
私たちもこのたぐいまれな機能を新たな商流創造の原動力にできればと考えます。

【後編に続く】
→ 木材製品市場を知っていますか?(後編)-東京中央木材市場が新装開設-

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