業界レポート

記事公開:2023.3.14

建築法制度改正ポイント①|すべての新築住宅・非住宅で省エネ基準適合を義務付け

向井千勝

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建築物、特に木造を取り巻く法制度が目まぐるしく変わってきており、その変化に取り残される地域の工務店にとっては大変厳しい状況が訪れようとしています。一方で、本格的に非住宅建築物の木造・木質化を推し進めようという流れも公共・民間問わず見受けられるようになりました。

この木造法制度の変化は、建築法制度への理解と適切な対応を認識する契機、ひいては工務店が主体となって新たな木造建築需要を取り込んでいく好機となりうる可能性を秘めています。

そんな重要な建築法制度改正について、ここでは押さえるべきポイントについて詳しく解説します。

はじめに

建築基準法」、「建築物省エネ法」、「建築士法」などが2025年を一つのゴールとして大きく変化してきます。残念ながら多くの地域工務店はこうした建築法制度の改正についての理解が遅れている現状にあります。

また、ある大手木造軸組プレカット会社の経営者は「危機感が低いと感じる。見方を変えると建築需要の減少や経営者の高齢化、慢性的な人手不足などで地域工務店の淘汰が進む中、こうした変化に適合できるところだけが生き残る。工務店を主要な顧客としているだけに無関係ではいられない。私たちも適切な情報提供、変化に適合できるような支援体制を組んでいく必要がある」と語っていました。これらの背景には、4号特例の見直しに伴った壁量計算、構造計算に対応しなければならないことが関係してきます。

ここでは主な建築法制度の改正について何回かに分けてみていきますが、建築産業を取り巻く法制度面の変化は建築法制度だけではありません。見逃せないのが、2024年問題と言われる自動車運転者の労働時間等の改善のための基準改正告示です。

トラック業界の「2024年問題」とはなにか

2024年4月から適用されますが、トラック運転者は1年の拘束時間が原則3300時間(現行3516時間)、1か月の拘束時間が原則284時間・最大310時間(同原則293時間・最大320時間)、1日の拘束時間が13時間以内、連続運転時間が4時間以内というように、休息等を含めて詳細が盛り込まれています。

労働時間現行制度2024年4月法律改正制度
1年3516時間原則3300時間
1か月293時間(最大320時間)原則284時間(最大310時間)

ガソリン価格の上昇もあり運送コストは続伸していますが、24年4月以降、建築資材運送はさらに規制が強化され、当然ながらコストの上昇に反映してきます。近年、毎年のように年末になると運送市場がひっ迫し物流手段の確保に汲々していますが、こうした状況が日常化することも考えられます。

参考:厚生労働省労働基準局

小規模事業には大きな影響が「インボイス制度の導入」

本題に入る前にもう一つ。国税庁はインボイス制度を23年10月から導入します。インボイス制度(適格請求書等保存方式)とは「インボイス」(適格請求書)と呼ばれる一定の記載事項を満たした請求書等を交付し、保存する新しい制度です。詳細は割愛しますが、特に建築にかかわる小規模事業者は影響が大きく、全建総連をはじめ導入には今もって批判の声が少なくありません。

参考:政府広報オンライン

すべての新築住宅・非住宅で省エネ基準適合を義務付け

ここでは複数回に分けて建築法制度の主な改正点をみていきます。1回目のポイントは「すべての新築住宅・非住宅で省エネ基準適合を義務付け」についてです。

引用:国土交通省

2022年6月に公布された「脱炭素社会の実現に資するための建築物のエネルギー省性性能の向上に関する法律の一部を改正する法律」に基づき、建築物省エネ法が改正され、原則すべての建築物について省エネ基準への適合が義務付けられます。2025年4月の施行を予定しています。

木材活用の促進も盛り込む

国土交通省はその背景として、国の公約である2050年カーボンニュートラルの実現、2030年度温室効果ガス46%排出削減(2013年度比)の実現に向け、エネルギー消費量の約3割を占める建築物分野における取組が急務となっているとしています。

また、温室効果ガスの吸収源対策の強化を図るうえで、木材需要の約4割を占める建築物分野における取組が求められており、当該分野における木材利用のさらなる促進に資する規制の合理化などを講じることも盛り込まれました。

この項目が意味するところは、建築物の木造化を推進することで、木材製品内部に吸収された炭素を長期に渡って固定する機能を重視したものです。また、大規模建築物について、大断面材を活用した建築物全体の木造化や、防火区画を活用した部分的な木造化を可能とするといった施策も併行して進められます。 

義務化では高い省エネ性能も求められる

同法では省エネ対策の加速、木材利用の促進を大きな骨格としています。省エネ対策の加速では、省エネ性能の底上げ・より高い省エネ性能への誘導を掲げています。具体的には全ての新築住宅・非住宅に省エネ基準適合義務付けることを筆頭に、トップランナー制度(大手事業者による段階的な性能向上)の拡充、販売・賃貸時における省エネ性能表示の推進を目指します。トップランナー制度に関しては、ZEH、ZEB水準へ誘導を目指します。

建築物の販売・賃貸時の省エネ性能の表示ルールについて(概要)は23年3月3日、とりまとめが公表されました。

参照:国土交通省

建築物の省エネ基準とは、建築物が備えるべき省エネ性能の確保のために必要な建築物の構造及び設備に関する基準であり、一次エネルギー消費量基準と外皮基準からなります。

新たに義務化対象となる建築物については現行の省エネ基準が適用されますが、住宅性能表示制度における省エネ性能に係る上位等級(任意)が創設され、22年4月から一時消費エネルギー消費量等級6、22年10月から断熱等性能等級6、7(戸建て住宅)が創設されており、これとの関係が重要になります。

25年4月の省エネ基準への適合義務化を契機に、一次エネルギー消費量等級及び断熱等性能等級の構成が抜本的に変更されるといわれています。性能表示制度は任意制度ですが、当然、関係してきます。

一次エネルギー消費量等級は現行の等級4を新たな等級1(BEI:Building Energy Index=1.0以下)に、上位等級として等級2(現行の等級5、低炭素基準、BEI=0.9以下)、等級3(現行の等級6、ZEH基準、BEI=0.8以下)になり、現行の等級1~3はなくなる見通しです。

断熱等性能等級は現行の等級4を新たな等級1(Ua値0.87、平成28年度基準)に、上位等級として等級2(現行の等級5、Ua値0.60、ZEH基準相当)、等級3(現行の等級6、Ua値0.46、HEAT20 のGⅡ基準相当)、等級4(現行の等級7、Ua値0.26、HEAT20 のGⅢ基準相当)になり、現行の等級1~3はなくなる見通しです。

つまり、省エネ基準適合義務化では、現行の一次エネルギー消費量等級4以上、断熱等性能等級の4以上が要求されます。前述したように、トップランナー制度においてはZEH、ZEBへの誘導を目指しています。

省エネ適判の流れ

省エネ基準への適合性審査は建築確認手続きのなかで行われます。省エネ基準へ適合しない場合や必要な手続き・書面の整備等を怠った場合は、確認済証検査済証が発行されず、着工、使用開始が遅延する恐れがあります。

引用:国土交通省

建築主は、建築主事または指定確認検査機関に建築確認申請を提出します。これは建築基準法に基づく従来通りの手続きですが、省エネ基準適合性判定が追加されます。建築主が所管行政庁または登録省エネ判定機関に対し「省エネ性能確保計画」を提出、所管行政庁または登録省エネ判定機関で省エネ適判が行われ、適合すれば「適合判定通知書」が建築主事または指定確認検査機関に送付されます。

この手続きを経て建築主事または指定確認検査機関は確認審査とともに省エネ基準適合確認を行い、建築主が確認済証として受領し着工となります。

建築基準法に基づき建築主は竣工後、建築主事または指定確認検査機関に対し完了検査申請をしますが、ここでも省エネ基準適合の検査が行われ、建築主は建築主事または指定確認検査機関による検査済証を受領後、住宅として使用することになります。なお、仕様基準を用いるなど審査が比較的容易な場合は省エネ適合性判定を要しないこともあります。

支援制度について

省エネ適合義務化では支援制度も多数あります。

【例:住宅の新築】

補助事業:住宅・建築物カーボンニュートラル総合推進事業(地域型住宅グリーン化事業(ZEH・Nearly ZEH、認定低炭素住宅、ZEH Oriented))

補助事業:サステナブル建築物等先導事業(省CO2先導型)

補助事業:サステナブル建築物等先導事業(気候風土適応型)

補助事業:住宅・建築物カーボンニュートラル総合推進事業(LCCM住宅整備推進事業)

融資:フラット35S

このほか、複数の税制面の支援があります。

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