サステナブル

記事公開:2023.6.14

サステナブル建築の概要と木造住宅

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近年「サステナブル」や「SDGs」が注目を集める中で、環境への配慮やサステナビリティを重視した住宅を建てたいと思う方は多いのではないでしょうか。

そこで本記事では下記の内容を解説します。

  • サステナブル建築の定義とサステナブル建築の実例
  • サステナブル建築を木造住宅で実現するときの考え方(サステナブル住宅・エコハウス)の紹介
  • サステナブル住宅・エコハウスの実例

これからのライフスタイルのスタンダードになるであろう「サステナブル」な建築や住まいを考えていきましょう。

サステナブル建築とは

サステナブル建築とは、設計、施工、運用から解体に至るまでの各段階において地球環境や生態系、さらには地域の景観や文化等に配慮することにより、その建物そのものがSustainable(持続可能)であるとともに、持続可能な社会を構成するのに資する建築行為全般のことを指します。

その具体的な方向性や指針については、一般社団法人日本建設業連合会が2011年に示した「サステナブル建築を実現するための設計指針」が参考になります。なお、この日本建設業連合会とは、建設分野を代表する業界団体です。

サステナブル建築を実現するための設計指針全体像

サステナブル建築を実現するための設計指針においては、まず「サステナブルな社会とは何か?」という問いに答えるために、環境について「何に配慮すべきか」という「環境設計配慮項目」が3つの視点で示されています。そのうえでどのように持続可能な建築を建築設計していくのか、具体的な「設計指針」を示しています。これらについて順を追ってみていきましょう。

地球視点での環境設計配慮項目

地球に対しては、下記の6項目が挙げられます。

  • 節電対策・二酸化炭素削減対策:化石燃料の消費を極力抑える設計と運用、使用電力量の削減など
  • 再生可能エネルギー:太陽光や風力といった再生可能エネルギーの活用を推進する設計および運用
  • 長期利用可能な建築設計:環境負荷を低減するための建築の長寿命化に向けた設計および運用
  • エコマテリアルの利用推進:二酸化炭素の排出や、環境負荷が少ない「エコマテリアル」と呼ばれる材料の利用推進
  • ライフサイクルマネジメント:設計から施工、運用や改修、そして廃棄に至るまで、建築全体のプロセスを通じて、一貫したライフサイクルマネジメント
  • 世界的な基準への対応:LEEDやEnergy Starなど、世界的な性能評価基準への対応

地域視点での環境設計配慮項目

地域や周辺環境に対しては、下記の6項目が挙げられます。

  • ヒートアイランド対策:ヒートアイランド現象に対する、屋上庭園や打ち水などの配慮
  • 生物多様性への配慮:既存の動植物などの生態系ネットワークへの配慮
  • 自然、歴史、文化への配慮:地域の歴史や景観、文化やコミュニティへの配慮
  • 地域や近隣への環境影響の配慮:土壌や大気、水質などを汚染しないこと、交通量への配慮、日陰や騒音、振動や廃棄物といった近隣住民や近隣利用者の生活環境への配慮
  • エネルギーのネットワーク化:CEMSやスマートグリッドなど地域に最適なエネルギーのネットワーク化の推進
  • 地域防災、地域BCP:自然災害への備えやライフラインの確保等、事業継続性計画(BCP)への配慮

生活視点での環境設計配慮項目

人々の生活環境に対しては、下記の6項目が挙げられます。

  • 安全性:防犯や事故防止といった平常時の安全性に加えて、地震や台風など災害非常時の安全性への配慮
  • 健康性:二酸化炭素濃度や化学汚染物質、感染症などが人体の健康に与える影響への配慮
  • 快適性:輻射空調等、人が過ごすうえでの温熱や光、音などの環境の快適性への配慮
  • 利便性:エレベーターやエスカレーターの待ち時間、ネットワーク環境に配慮した建物の設計および運用
  • 空間性:眺望や広さ、色彩や触感、コミュニティ、緑化に配慮した建物の設計および運用
  • 更新性:可変性、拡張性、冗長性、回遊性、収納性などに優れた建物の設計および運用

参考:サステナブル建築を実現するための設計指針|日本建設業連合会

サステナブル建築の設計指針

3つの環境配慮の視点を踏まえたうえで、建築の設計指針を紹介します。

日本建設業連合会が発表している「サステナブル建築を実現するための設計指針」において、設計指針を「ライフサイクルに対する5つの説明責任」という視点で示しています。

  • 建物に対して:設計から解体までの各段階においてライフサイクルマネジメントの視点で一貫した方針を設定し、それを設計に反映するための説明責任
  • 事業に対して:事業性について可能な限り数値化、指標化し、設計者としての事業価値への説明責任
  • 人に対して:居住者および利用者にとって快適で豊かな空間性能を有するための基準を想定すること、また居住環境性能を数値化、指標化することによる、設計者としての説明責任
  • 社会に対して:建築は私的財産であると同時に社会的財産であることを踏まえ、歴史性、文化性、景観性等、広義の社会性に対する設計者としての説明責任
  • 造り方に対して:建てるときも建てたあとも一貫して環境、サステナブル性に配慮し、構工法やユニット化など生産段階の工夫を取り込んだ、施工実現度の高い環境設計をする説明責任

参考:サステナブル建築を実現するための設計指針|日本建設業連合会

日本でのサステナブル建築の実例

サステナブル建築の定義づけについてみてきたところで、ここでは国内における実際のサステナブル建築の実例をみていきましょう。

阪神甲子園球場

1924年にオープンした阪神甲子園球場は2010年に「100年を超えて愛されるサステナブルな球場」を目指しリニューアルしました。

リニューアルにおいては、既存樹木の再利用や壁面緑化(ツタ)の再生など、生物環境の保全と創出に配慮したほか、「銀傘」と呼ばれる内野席を覆う屋根や天然芝、黒土といった誰もが「甲子園球場」としての親しみと伝統を感じる景観の継承に配慮しました。

また、球場のリニューアルに加えて、戦前から日本の野球文化を支えてきた「甲子園」の価値をさらに高めるために、野球文化の振興を目的とする甲子園歴史館の創設や、戦火で崩壊した野球塔の再建等も行いました。

参考:阪神甲子園球場|日本建設業連合会

みなとみらいセンタービル

みなとみらいセンタービルは、2010年に竣工したみなとみらい駅に直結した複合業務ビルです。「横浜・みなとみらい」らしさを表現する白と青が美しいファサードデザイン、太陽光採光システム「T-soleil」の導入などによる事業性と環境性能が両立する画期的な建築として評価されています。

さらに、TASMO-HD(免震+制振構造)による日射遮蔽効果、Low-EペアガラスによるPAL値の低減などによる建物への熱負荷の抑制や、雨水利用や節水型機器の採用による水資源保護、そして屋上緑化や夏の卓越風に配慮した配置など、総合的な環境性能が高いのが特徴です。

参考:みなとみらいセンタービル|日本建設業連合会

箱根ラリック美術館

箱根ラリック美術館は2004年に竣工した自然と建物が一体となった環境と人にやさしい庭園型リゾートミュージアムです。

外構緑化、建築緑化や地域の植生への配慮、生態系への配慮など生物環境の保全と創出、さらには建物配置や形態など、まちなみとの調和や歴史の継承などに配慮されています。

特に、建物配置や形態については、箱根仙石原のほぼ中心に位置するという地域の自然の特徴を最大限に活かしながら、美術館棟、ショップ棟、レストラン棟の3棟を敷地を囲むようにバランスよく配置し、中庭のような設計にすることで、どの建物からも季節や時間、光と翳の変化を楽しめる施設となっています。

参考:箱根ラリック美術館|日本建設業連合会

六花の森プロジェクト

六花の森は北海道帯広市に工場を建設した六花亭製菓が、2007年に「六花の森」としてオープンさせたプロジェクトです。

工場周辺をとりまくランドスケープを、地域の自然環境を活かし、地域の自然環境に溶け込むものにしたいと計画されました。

広大な河畔林景観の中に位置するお菓子工場、古民家を再生した美術館が配置され、環境・建築・復元・修景・文化芸術など様々な分野が融合して成立したランドスケープとなっています。

特に、野生の小動物の生息域を確保するためのエコロジカルネットワークの強化や、地域の希少な山野草の保全、さらには地域の景観や周辺緑地の稜線に配慮した建築物の配置や高さなどが設計にあたり重視され、六花亭の代名詞といえる花柄包装紙に描かれたような、草花でいっぱいの森をつくりたいという同社の想いが表現されています。

参考:六花の森プロジェクト|日本建設業連合会

奥村記念館

奥村記念館は、株式会社奥村組が2007年に創業100周年を記念して開館した奥村組の歴史と技術を広く紹介する施設です。

館内では奥村組の100年の歴史を展示するとともに、様々な建築技術を見学、体験することができます。軒の深い屋根勾配や焼杉や瓦、しっくいといった日本古来の素材を外装に多用するとともに、設備システムの高効率化と、庇の深い外装、プリントフィルムなどによる建物の熱負荷の抑制により、古都奈良の景観と、省エネ性に配慮したデザインとなっているのが特徴です。

さらに、館内には観光案内所および休憩所を併設し、一般開放することで地域や住民へも広く開かれた施設となっています。

参考:奥村記念館 | 日本建設業連合会

サステナブル建築の視点を住宅に

サステナブル建築の実例として大規模建築や商業施設をみてきましたが、これらのサステナブルに向けた建築の考え方は、個人の住宅においても重要になってきます。

特に、木造住宅は「ライフサイクルCO2(生産から廃棄までの一連の過程で排出されるCO2の量)」が他の工法(鉄筋コンクリート造や鉄骨造)に比べて少ないので、環境に配慮した工法であるといえます。

この章では、サステナブルの視点を取り入れた暮らし方や住宅建築の考え方として、環境省が示している「エコハウス」について紹介し、その実例についてもみていきたいと思います。

エコハウスとは

環境省が示すエコハウスの考え方は、4つの柱を基本としています。

  • 環境基本性能の確保:環境負荷を最小限にするために有するべき住宅の基本性能として、「断熱」「気密」「日射遮蔽」「日射導入」「蓄熱」「通風」「換気」「自然素材」を示しています。これらを十分に理解し、住宅の設計に取り入れることが重要です。
  • 自然、再生可能エネルギーの活用:上記に示した基本的な環境性能を有したうえで、必要となるエネルギーには自然エネルギーや再生可能エネルギーを最大限活用し、化石燃料に頼らない生活ができることがエコハウスに求められています。
  • エコライフスタイルと住まい方:エコハウスの実践にはハード面だけでなく、住むひとのライフスタイルも重要になります。日よけのために草木を植えたり、自然の風を住まいに取り入れたり、寒いときは一枚羽織るなど、サステナブルを実現する意識や行動も大切です。
  • 地域らしさ:サステナブル建築でも示されていたように、住宅は個人の資産であると同時に社会の資産でもあります。周辺環境、材料、工法やデザインなど、地域の特色を生かし、長くその地域の気候風土や文化になじむ住まいであることが大切です。

参考:環境省|エコハウス 21世紀環境共生型住宅のモデル整備による建設促進事業|エコハウスとは

エコハウスの実例「ここから」

最後に、エコハウスの実例として、「日本エコハウス大賞」にて表彰されている設計実例を紹介します。日本エコハウス大賞は、脱炭素時代の美しい住宅を表彰する設計実例コンテストとして2015年にスタートしました。

日本を代表する建築家を審査員として、下記の8つの評価項目について審査されます。

<日本エコハウス大賞における8つの評価項目>

  1. 脱炭素時代の省エネ住宅の提案
  2. 地域、周辺環境にあわせたパッシブ設計
  3. 自然エネルギーを活用した創エネルギーの提案
  4. 新しい試みや挑戦
  5. 心地よさ、暮らしやすさを考慮したプラン
  6. 安心して住み続けられる耐震性の確保
  7. 公共に配慮した普遍的な美しさ
  8. 長持ちするための工夫や維持管理の提案

「風土とともに育つ家」

はじめに、日本エコハウス大賞2022のグランプリを獲得した実例を紹介します。

こちらの住まいは、緑豊かな住宅街にあり、高台の南西向きと眺望抜群の好条件ではあるものの、道路側に2mのコンクリート擁壁があり、道路から住まいまで大きな高低差があることがネックでした。そこで、この2mの高低差を逆手に取り、道路から住まいまであえてS字を描き、住まいに向かう一歩一歩が山を登り自然の中に入っていく感覚になるようなアプローチを形成しました。

また、建物そのものは断熱性能・気密性能ともに優れており、空調計画も含めてレベルの高い温熱環境が実現されていることにより、二階リビングの窓は大きく、気兼ねなく開放できるようになっています。これらにより、住まいの内と外はもちろん、その先のまちなみ、風景との調和が特に美しい実例となっています。

参考:パッシブデザインプラス | 日本エコハウス大賞2023

「軽井沢 六花荘」

次に紹介するのは日本エコハウス大賞2022の新築部門からです。軽井沢への移住希望者に省エネ性能の高い住まいを提供し、自然豊かな軽井沢での快適な暮らしの第一歩を踏み出してほしいとの思いから建てられた木造賃貸住宅です。可能な限り県産材料を用い、地元の大工によって建てられることにこだわりました。

各住戸の南もしくは西面には専用の庭があり、そこに大きな窓を設けることでキッチンやリビングにいても外で遊ぶ子どもたちに目が届くような設計となっており、遊び盛りの子どもがいても安心して住まうことができるつくりとなっています。

また、敷地内の樹木は最大限残し、伐採した木の数と同じ数の苗を敷地内に植えることで、建物と周囲の森との調和がより一層図られています。

参考:暮らしと建築社 | 日本エコハウス大賞2023

「南馬込古民家改修」

最後に紹介するのは日本エコハウス大賞2022のエコリノベ部門から、東京都大田区にある築140年の古民家のリノベーションの実例です。

リノベーションとは、住まい全体を一新し、性能を向上させたりデザインや間取りを変更したりすることで、既存の空間を「再設計」することを指します。クロスの張替えや設備の取替え、外壁塗装や耐震補強など、住まいを新築に近い状態に「回復・修復」することを目指すリフォームとは、その目的や規模が大きく異なります。

こちらの南馬込古民家の実例では、構造、仕上げのすべてに良質な国産材などの自然素材を用いつつ、Low-E複層ガラスにより国内最高レベルの断熱性能を有する樹脂サッシ「APW330」や高性能断熱材ネオマフォームを採用、かつての風情をそのままに残しながら、現代に必要な性能を備えるように設計施工しました。

また、床下エアコンのみで冬場の恒温室内環境(常時ほぼ20℃)を実現しつつ、屋根に設置された太陽熱パネルにより太陽光で給湯を行うことで、創エネルギーも確保。築140年の古民家をまさに「再設計」した実例となりました。

まとめ

サステナブルな建築は大型商業施設だけでなく、個人の住宅においても重要な考え方です。未来世代のために住宅というハード面はもちろん、暮らし方、ライフスタイルもあわせて考えることで、全体としてサステナブルな社会が形成されると思います。ぜひこの記事を参考に、ひとりひとりが取り入れられるサステナブルを考えるきっかけにしていただければと思います。

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