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環境負荷の高い従来の経済活動が限界を迎えようとしている昨今、サーキュラーエコノミーへの転換は世界共通の目標になりつつあります。
先進的な企業はすでに具体的な取り組みを始めており、これからは、どのようなビジネスも無関心ではいられないでしょう。
そこで今回は、サーキュラーエコノミーの概要や課題、ビジネスモデルなどを解説します。今後の事業展開を考える上で欠かせない知識なので、ぜひ最後までお付き合いください。
目次
大量生産・大量消費を前提とする産業革命以降の経済システムは、資源の枯渇や地球温暖化、生態系の破壊などの深刻な環境問題を引き起こし、限界を迎えつつあります。
エネルギーを使って商品を製造し、消費し、最後には破棄する一方通行の「リニアエコノミー」に替わる、持続可能な経済成長・発展を目指す新しい経済システムの概念が「サーキュラーエコノミー(循環経済)」です。
現在、リニアエコノミーからサーキュラーエコノミーへの転換が世界の潮流となっています。
世界規模でサーキュラーエコノミーを推進する組織「エレン・マッカーサー財団」は、指針とするべき「サーキュラーエコノミーの3原則」として以下を挙げています。
・廃棄物と汚染をなくす
・製品や素材の価値を保って循環させる
・自然を再生する
また、同財団は、3原則を実践するための概念図として、「生物的サイクル」と「技術的サイクル」から成る「バタフライ・ダイアグラム」を示しています。
参考:環境省|平成28年度環境白書 第3章 自然の循環と経済社会システムの循環の調和に向けて
上記に出てくる図の左側「生物的サイクル」は、木材・綿・食品などの再生可能資源の循環を、右側の「技術的サイクル」は、石油・石炭・金属・プラスチックなどの枯渇性資源の循環を示しており、サーキュラーエコノミーでは内側に描かれる循環ほど優先するべきとされています。
参考:The Ellen MacArthur Foundation|What is a circular economy?
日本はこれまでも、資源の枯渇や廃棄物増加の問題に対処するために、リデュース・リユース・リサイクルの3Rに取り組んできました。
3Rを基本としたリサイクリングエコノミーとサーキュラーエコノミーの違いは、廃棄物の概念が有るか無いかです。
リサイクルエコノミーでは、使用後に再利用できるものはリサイクルに回しますが、それ以外は廃棄物となります。サーキュラーエコノミーは、商品・サービスを生み出す時点で廃棄物を出さない設計が求められるので、そもそも廃棄物の概念が存在しないのです。
サーキュラーエコノミーの歴史はまだ浅く、いくつかの課題が指摘されて議論も続いています。
どのような課題があるのか、主なものを解説します。
比較的新しいサーキュラーエコノミーの概念では、循環性の指標に問題があるとされることがあります。循環性の指標は、経済システムが排出した資源のうち、循環させて再びインプットできた割合とされがちです。
「量」に注目した指標なので、資源の「質」や、製品の長寿命化やシェアリングによる無駄のない利用といった要素は反映されない点が問題と考えられているのです。
また、資源のアウトプットに対するインプット「割合」のみを循環性の指標としてしまうと、市場規模が拡大した場合、バージン資源投入の絶対量が増えても数値上は見過ごされやすい、という問題も抱えています。
廃棄物を製品に再生する場合、廃棄物が資源になるとの考えから廃棄が常態化したり、廃棄物に安定した供給・品質が求められるようになる可能性があります。
そうなると、結果的に「質のよい廃棄物」に需要が集中することが想定され、本来はサーキュラーエコノミー実現の“手段”であった「廃棄物の資源としての利用」が“目的”になります。
環境負荷の増大や生物多様性の喪失など、根本的な負の外部性を解消できなくなるかもしれません。
サーキュラーエコノミーの実践で、場合によって個々の対応が矛盾してしまう問題を、2つの例で説明します。
まずは、製品の長寿命化とイノベーションの対立です。
化石燃料車を使い続けるより、電気自動車に切り替えた方が長期的には環境負荷が小さいという例が挙げられます。
旧製品を使い続けること(製品の長寿命化)が、常に環境負荷を軽くするとは限らないのです。
もう一つは、製品の耐久性・機能性向上とリサイクルのしやすさの対立です。
製品の耐久性や機能性を向上させるために複数の原料を組み合わせる設計が、リサイクルのしやすさを阻むことがあるのです。例として、コットンとポリエステルを混合した衣料が挙げられます。
製品の耐久性を上げて物理的に長寿命化しても、「飽きた」「流行遅れだ」といった理由で捨てられる、情緒的耐久性の短さもまた、サーキュラーエコノミーの課題です。
情緒的耐久性の低さはアパレル業界では珍しくない現象です。まだ着られる服を処分して、新しいものを購入した経験がある人は少なくないでしょう。
飽きのこないデザインの採用や、商品開発ストーリーの訴求など、製品に愛着を持ってもらい情緒的耐久性を高める取り組みが鍵になりそうです。
戦略コンサルティングファームのアクセンチュア社は、著書「Waste to Wealth(無駄を富に変える)」で、サーキュラーエコノミーのビジネスモデルを5つ提唱しています。
これら5つのビジネスモデルは、それぞれが独立して存在するのではなく、製品が循環するそれぞれのステージだと捉えることが大切です。
どれか一つを選択するのではなく、複数あるいは全てを満たす製品・サービスによって、サーキュラーエコノミーが実現できます。
5つのビジネスモデルを、詳しくみていきましょう。
再生可能な原材料の利用によって、調達コストの削減や安定した供給、環境負荷の低減を図ります。
製品の使用後は「回収とリサイクル」に繋げる仕組みを、製品の設計段階でデザインしておく必要があります。
カーシェアや民泊などが例として挙げられるシェアリング・プラットフォームは、稼働率の低い製品を共同利用することで、無駄なく使い切ろうという考え方に基づいています。
「シェアリング・プラットフォーム」と次に説明する「サービスとしての製品」は、商品の所有権を消費者ではなくメーカーが持っている点が、一回売り切り型のビジネスモデルと異なる点です。
消費者は製品を所有せず、利用した分だけ料金を払うシステムです。「サービスとしての製品」でメーカーが売るのは、製品ではなく製品の利用で得られる価値になります。
一例が、大手タイヤメーカーである「ミシュラン」のビジネスモデルです。
ミシュランは、トラック向けのタイヤに関して、タイヤを売らず、走行距離に応じた料金を請求するビジネスを展開しています。
この方法は、製品の製造に始まり、使用済み製品の回収・再製品化まで、サプライチェーン全体に関わりやすい点が特徴です。
また、継続的なタイヤの修理・メンテナンスなどを通じて、顧客との長期的関係を築けるため、売り切り型のビジネス以上の利益を上げられる可能性もあります。
修理やアップグレード、二次利用による再販売などによって、製品を長期間使えるようにし、継続的な価値を生み出すビジネスモデルです。
製品寿命を延ばすことで顧客との接点も継続的になるため、ブランドロイヤリティーが向上したり、製品についてより多くのフィードバックを得られたりします。
寿命が切れた製品を回収し、質の高い原材料として再び製造サイクルに投入することで、より高い付加価値を生み出します。
製品・サービスの設計・製造段階で、回収・リサイクルまでを考慮したデザインをすることが求められます。
ここからは、サーキュラーエコノミーに取り組む、国内の企業2社の事例を紹介します。
Sanuは、自然の中のセカンドホームを提供するサブスクリプションサービス「SANU 2nd Home」において、環境負荷を最小化するサーキュラー建築を実践しています。
セカンドホームとして建設する「SANU CABIN」は、100%国産材を使い、建材の再利用を見据えて釘の使用を最小限にとどめ、土壌に負担のかからない高床式を採用するなど、建築のライフスタイル全体での循環を実現しています。
さらに、収益の一部で植林を行い、多様性のある天然林に近い森林の育成も手掛けています。
山翠舎は、解体される古民家の古木を廃棄せず、収集・備蓄・整備し、次の使い手に対して設計・施工まで行う「古民家・古木サーキュラーエコノミー」に取り組んでいます。
現在失われつつある仕口・継手や、斧・鉞・釿による手仕事といった、伝統的な職人技を保存・継承していくことにも貢献しています。
一連の事業は、廃棄される古木がもったいないという気持ちから始まったそうです。そして、古木の有効活用から、伝統建築技術の保存・継承、古民家の空き家問題・倒壊問題への対応まで、幅広い事象の問題を解決できる仕組みへと成長しています。
大量生産・大量消費・大量廃棄を前提としたリニアエコノミーから脱却し、持続可能な発展を実現するためのサーキュラーエコノミーへ転換しようとする流れは、今後も止まることはないでしょう。
サーキュラーエコノミーへの取り組みは、企業にとって決してマイナスなものではなく、新たなビジネスチャンスが生まれる可能性を秘めています。いち早く取り組むことで、将来にわたって発展できる体制を築けるのではないでしょうか。
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