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森林は非常に多くの動植物の生息地となっており、生物多様性の保全に重要な役割を果たしています。
普段実感することはないかもしれませんが、人の生活にはなくてはならないのが「生物多様性」です。
本記事では、切り離しては考えられない森林と生物多様性の関係を解説し、保全のための取り組みや推奨される行動などを紹介します。
生物多様性がもたらす恩恵や、わたしたちとの関わりについて、理解を深めていきましょう。
目次
森林には、次に示す8つの多面的機能があり、そのうちの一つが「生物多様性の保存」です。
地球上に存在する生物種は3,000万種類以上ともいわれており、それぞれに違いを持っています。
それぞれの違い、異なる点を含めた多様さを「生物多様性」といいます。
多数の生物種を抱える森林を適切に管理することが、生物多様性の保全につながるのです。
高木・亜高木・低木・草本・シダ類・コケ類などが、上層から下層に連なる垂直の階層構造が森林の特徴です。この構造は、農地や草地では見られません。
階層構造を構成する多様な植物相に支えられ、昆虫類・鳥類・哺乳類などの生物相も豊かになり、森林には多様な生物が生息できるのです。
森林が世界の陸地面積に占める割合はわずか3割ですが、陸上生物種の約8割が森林に生育・生息しているといわれています。
国土の7割を森林が占めている日本は特に、生物多様性保全において森林の重要性が高いのです。
参考:生物多様性に配慮した森林管理テキスト 関東・中部板|国立研究開発法人森林研究・整備機構 森林総合研究所
生物多様性は、3つのレベルに大別できます。
それぞれ具体的に解説していきます。
遺伝子の多様性とは、特定の場所の生物種内における、それぞれの個体の遺伝的な変異のことです。
さまざまな遺伝的特徴を持った個体が存在する集団は、気候の変動や病気の流行などの環境変化に多様な反応が可能となります。
例えば、気温が低くなる環境変化が起こった場合、種内に寒さに強い個体と暑さに強い個体がいれば、寒さに強い個体が生き残ることで主として存続できます。
遺伝子の多様性は、環境への適応や種の進化に欠かせません。
特定の生態系を構成する生物種の数の多少が、種の多様性です。生態系には、微生物から動植物までさまざまな生き物が存在します。
種の多様性が大きい生態系は、環境変動や人為的撹乱に対して柔軟性や抵抗力が高いとされています。
生物種の数が多いほど、食物連鎖の網が複雑になるからです。
何らかの原因で餌となる生物が一部減少しても別の食物網でカバーできるため、生態系全体としては大きく機能を損なうことなく、徐々に元の状態に戻れるのです。
地球上における、環境や生物が作り出すさまざまなシステムの存在が、生態系の多様性です。森林、農地、草原、河川、海洋などのように、景観として捉えることもできます。
それぞれの生態系は異なる機能を有しており、森林生態系は、二酸化炭素を吸収して酸素を供給し、湿地生態系は水を浄化します。
これら多様な機能が融合することで、地域や地球全体の環境が維持されているのです。
生物多様性を守るために、国は次のような取り組みを行っています。
それぞれ具体的に見ていきましょう。
日本では、国有林野のうち生物多様性の核となる森林が「保護林」に設定されています。
対象は、屋久島・白神山地・知床などの世界自然遺産をはじめとして、原生的な天然林や希少な野生生物が生育・生息する森林です。
保護林では、自然環境の維持、野生生物の保護、遺伝資源の保護などを目的に、森林生態系や野生生物等の状況変化をモニタリング・評価し、必要であれば保護・管理方針や区域の見直しなどを行っています。
参考:保護林|林野庁
野生生物の移動経路を確保するために設定されているのが、保護林をつなぐ「緑の回廊」です。
知床半島・奥羽山脈・富士山・大隅半島など、全国24カ所(令和4年4月1日時点)におよびます。
生物多様性保全のためには、野生生物が自由に移動し、広範囲で生育・生息、相互に交流できることが欠かせないからです。
緑の回廊によるネットワークの形成によって、個々の保護林で行われる以上に広範囲で効果的な森林生態系の保護が可能になります。
参考:緑の回廊|林野庁
希少な野生生物を保護する取り組みが、「絶滅のおそれのある野生動植物の種の保存に関する法律」に基づいて行われています。
対象となる生物は、知床のシマフクロウ・白神山地のイヌワシ・西表島のイリオモテヤマネコなどです。
研究機関・地方公共団体・地域住民・環境関連のNPOなどが連携して、野生生物の生育・生息状況のモニタリング、高山植物の盗採掘防止のための巡視などに取り組んでいます。
生物多様性に支えられた生態系が生み出す恵みを、人が持続的に受けるためには、森林施業における生物多様性への配慮が欠かせません。
同齢単一樹種の人工林における、高い木材生産効率の追求は、生物多様性の保全と相反します。
木材生産と生物多様性保全を両立させるためには、樹木の成長や事業の効率性、安全性などを考慮した上で、生物多様性への配慮も求められるのです。
生物多様性が特に重要な地域や木材生産に適さない地域では、保全に比重を置き、一般的な人工林では木材生産を主体にしつつ、可能な範囲で生物多様性に配慮するなどの視点が必要とされています。
生物多様性の主流化とは、生物多様性の保全と持続可能な利用の重要性が、国・地方自治体・事業者・国民などのさまざまな主体に広く認識され、それぞれの行動に反映されるようにする取り組みのことです。
例えば、ヤシノミ洗剤で知られる「SARAYA」が行っている下記のような活動が挙げられます。
日常の暮らしや社会経済活動の中で、生物多様性に配慮した行動が自然に取られることを目指すのが、生物多様性の主流化です。
「生物多様性にふれて身近に感じることが、生物多様性を守るための第一歩」という考えがあります。
「2030生物多様性枠組実現日本会議」は、一人一人が生物多様性のためにできる取り組みを5つの「MY行動宣言」として掲げて行動を促しています。
どのような行動を指すのか、解説していきます。
「Act1 たべよう」は、地元で採れたものを食べること、旬を味わうことを指しています。
生産地が近い食材を選ぶことは、輸送に伴う環境負荷を減らし、地域の食文化や自然環境にも関心を持ちやすいです。
また、生産に使うエネルギーや資源が少なく済む旬の食材は、価格も安価でおいしいというメリットがあります。
「Act2 ふれよう」は、山・海・川などで生の自然を体験したり、動植物園で生き物や植物にふれることを指しています。
特別なイベントだけではなく、近所の公園を散歩することも含まれます。
自然の中に身を置くことで、自然や生き物にふれる面白さを実感でき、生物多様性の深い理解につながるでしょう。
「Act3 つたえよう」は、自然の中で感動したことや感じたことを、記録したり周りの人に伝えたりすることを指しています。
身近な自然を意識して観察することで、自然の豊かさや季節の移ろいに気付くようになるでしょう。
写真・絵・文章などあなたが伝えようとするものなら何でも構いません。
「Act4 まもろう」は、自然や生き物の観察・調査・保全などの活動に参加して、生きものや自然、人や郷土とのつながりを守ることを指しています。
地域で開催されている「秋の味覚を探すイベント」や「自然保護活動を行うNGOやNPO への寄付」などのイベントへの参加を検討してみてください。
気軽に参加できる活動で、自身を取り巻く「きずな」を感じましょう。
「Act5 えらぼう」は、生物多様性に配慮した商品・サービスを選んで購入しようということを指しています。
生物多様性に配慮した商品やサービスとは「生態系への配慮が行き届いた森林から生産されたもの」や「水産資源や海洋環境を守って獲られた水産物」のことです。
生物多様性に配慮した消費者の選択は、それらを作る生産者や事業者を応援することにつながります。
さらに、自然との共生を当たり前に考える経済社会の実現に大きく貢献できるでしょう。
森林は生物多様性の宝庫であり、それを保全する大切な役割を担っています。
わたしたちの生活は、生物多様性が生み出す恩恵なしでは成り立ちません。
世界的にも生物多様性の保全は欠かせないものと認識されており、そのための取り組みを各国も行っています。
合わせて、商品やサービスの選び方や自然との触れ合いなど、個人が気軽に取り組める保全活動も身近に溢れています。
森林内の調査や希少生物の保護活動といった専門的・組織的な取り組みに関心を持ちつつ、一人でもきる活動を通して、生物多様性の保全に参加していきましょう。
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