[eTREE TALK vol.3] Part 1 /「これは本物だ」奇跡の杉との出会い

2020年7月09日

オンライン開催

7/9(木)、eTREE TALK vol.3「木を空間で使うクリエイターの裏話」をオンラインにて開催いたしました。トークセッションの様子を全三回に分けてお送りいたします。

ゲストにお迎えしたのは、株式会社乃村工藝社の鈴木恵千代様と、有限会社加藤木材 加藤政実社長。なんと尾鷲香杉の製造元、畦地製材所の畦地様も飛び入り参加! 香りを持つ木の魅力や木材への熱い思いをお話しいただきました。( 進行:株式会社森未来 代表取締役 / 浅野純平)

「これは本物だ」 奇跡の杉との出会い

司会・浅野: 私が最初に加藤さん、恵千代さんのことを知るきっかけになったのは、三菱地所さんのコミュニティセンター「3×3 Lab Future(さんさんらぼ フューチャー)」です。以前、一般ユーザーとしてこの施設を利用する機会があり、木材がたくさん使われていることが強く印象に残っていました。そんな中、農林中央金庫さんの読み物「MOKU LOVE DESIGN ~木質空間デザイン・アプローチブック~」の記事にお二人が取り上げられているのを拝見し、加藤さんと恵千代さんが関わっていらしたと知りました。御二方がタッグを組んだのは、この3×3 Lab Futureが最初の仕事ですか?

3×3 Lab Future

「3×3 Lab Future」施設紹介
詳しくはコチラ
>>> https://www.ecozzeria.jp/about/facil
>>> https://www.33lab-future.jp/

鈴木恵千代さん(以下、鈴木): その前に、2008年くらいにご一緒に仕事をしました。2010年に開催された日本APECの展示会場です。

浅野: 結構前ですね。

鈴木: その時に、環境について改めて考えたんです。元々、2005年に3×3 Lab Futureの前身である「大手町カフェ」の仕事をした時に、環境について考える機会がありました。しかし、その後2008年のリーマンショックを経て、社会ではリサイクルマテリアルが少なくなってしまったんです。それっていったい何だったのか、環境問題について一から出直して考えようと思いました。海、河川とさかのぼって考えるうちに、最終的に森に行きつきました。その時に「奇跡の杉」という相当面白い本を読んだんです。それがAPECの仕事につながり、日本の木のもてなしは奇跡の杉でやるのが一番良いのではないかと考えました。

「奇跡の杉―「金のなる木」を作った男 」船瀬俊介/三五館 2009
>>>http://amzn.asia/e7Ex7X5

鈴木: 本の中で、印象に残っているエピソードがあります。尾鷲ではスギのことを草と呼ぶそうです。ある日、親父が息子に、そんな草使ってどうすんの、木はヒノキだろ、と言ったそうです。息子は反発して、草が大事だと。スギが使われない最大の理由は乾燥が難しいことなんですね。そこで息子は「愛工房」という低温乾燥機を導入して、低温で木の養分、成分を保ち、木を生かしたまま乾燥させることに成功しました。こうすることで木の香りも失われません。この奇跡の杉、つまり尾鷲香杉のように香りのついている木は、世界中になかなかないのです。

これは本物なんじゃないの、と思ったんです。コマーシャルにないから。そこで直接電話してみようということで、尾鷲香杉の製造元である畦地製材所の畦地さんに電話したら、木についていろいろお話して話が合いまして、関東で畦地さんの木を扱う材木店は加藤木材さんだと教えていただきました。

浅野: APECの会場は、反響はいかがでしたか?

鈴木: 特に、反響は聞いてないな。

浅野: そうですか。やっぱりすごく香りはしそうですよね。海外の方は意外に思われるんじゃないでしょうか。

鈴木: なぜ畦地さんの尾鷲香杉なのかというと、僕もそんなに材について知っているわけではないので、加藤さんとお話したときに聞いたのですが、超仕上げをしているからだと。超仕上げはカンナをかける機械です。よく使われているのはプレーナーを使ったあとサンダーで磨くやり方ばかりで、今は超仕上げの機械を持っているところ自体が少ないようです。超仕上げをやると木の表面がつるつるになります。加藤さんは黒味のマグロの刺身みたいと表現されますが。日本の刃物の技術で木の表面をスパッと切ると表面がものすごく良い状態になる。だから塗装する必要がない。無塗装の状態で汚れがあまりつかないことが普通の木の扱い方と違う。これで単なる材木を使うってレベルじゃなくて、仕上げをどうするんだという新しい話が出てきていることが分かり始めたという感じですかね。

浅野: 加藤さん、百年杉、尾鷲香杉は杉の中でもやっぱり違うのでしょうか。

加藤政実さん(以下、加藤): スギって仕上がらないんですよ。料理される方が包丁を使うと分かると思うのですが、硬いのも困るけど、豆腐やトマトのような柔らかいものは刃物が鋭利じゃないとだめでしょう。その証拠に、石器時代に杉は使われていなくて栗など硬いものを使っていました。刃物がそう切れないので。だから超仕上げが重要なんです。

尾鷲香杉を専門的にやる前まで、スギばかりやっていましたが、悲しいまで油が抜けたミイラみたいな木ばかりでした。それで樹齢に勝る水分が豊富で水分保持に尽力する木を目指して畦地くんとやり始めたんです。ありそうでなかったと言いますか、その頃はもっと仕上げのクオリティを高めれば木材が売れるはずだと、一気にシフトが変わって、価値ある木材ではなくて大量に均一な木材を生産すれば売れるはずだと戦略が変わってきた時でした。そんな中、世の中に逆行するように手間暇をかけてクオリティの高いスギを目指していましたが、それが使っていただけました。

すぐに捨ててしまうなら、かわいい娘は出せない

浅野: APECのおもてなしはスギだと鈴木さんおっしゃいましたが、オーナーさんの意向はどうだったんですか。コンセプトから恵千代さんが考えたんですか?

鈴木: コンセプトはおもてなしの空間ということで、APECの展示空間は各国の記者団が来てギャザリングする場所なので、つまりコミュニケーションする場所といえば、縁側しかないでしょと。縁側でお茶すすってもらうしかない。その縁側を何で作るか。それは座れる木、日本の木材しかないでしょと。その木で断トツ一番手なのはスギです。たまたま奇跡の杉の本を読んでいたこともありましたし。そういうふうに話が進んでいって、誰も否定できなかったですよ。

鈴木: そのとき、展示会の会場にするなら木は売れないと畦地さんが言ったんですよね。後で捨ててしまうものにかわいい木は出せないと。

浅野: 畦地さん、こんなにいい仕事をお断りになったんですか。

畦地製材所 畦地秀行さん(以下、畦地): あはは、そうですね。私としては自分の商品は娘を嫁がせるつもりで出しているので、それを短期間の2週間3週間だけ使って廃棄処分になってしまうならお断りさせていただきますと言いました。その時はまだ私、乃村工藝社さんの会社の規模とかそういったことは知らなかったんですよ。恵千代さんが偉いデザイナーの方だとも知らずに断ったんですが、今思い返せばよくあんなことを、若造が失礼なことを言って恵千代さんはよく怒られなかったなと思います。今お話を伺って、ああ、エコマテリアルのリサイクルのこととかをやっていたから僕の気持ちを理解してくださったんだな、と感じました。

浅野: 実際にお断りになられてからどういう経緯があったんですか? 実際に使われたんですよね。

畦地: 再利用の方法を考えてくださいとお願いしました。きちっと再利用して、私の木材は百年杉とも呼ばれる百年の木なので、できれば百年使っていただくと。でも百年使うのは建築材でも難しいと思うので、なるべく何十年か、20年30年でも使っていただける形で再利用していただけるのであれば、APECの会場に出す材料として考えさせていただきますとお話させていただきました。鈴木さんに検討させてくださいと言っていただいて、一週間ほどでお電話いただきました。「そうそう、畦地さん、私の友達が設計をしている物件があるんだけどそれに使うならどうですか」とね。間違いなく建築に使っていただけるなら嬉しい話なので、一気に話が進みました。

浅野: APECが終わった後は他の物件に再利用するということで、現在もどこかに使われているんですね。

畦地: そうですね。恵千代さんのお友達の物件で、私の娘が良い働きをしていると思います。

浅野: 息子じゃないんですね

畦地: 娘なんですよ。かわいいので。

加藤: 恵千代さんは真理を探究する方なんです。もちろん、値段や納期などいろんな問題は出てくるし、それもやるんだけど、ものの真理を探究する方です。僕は後にも先にもそういうデザイナーにお会いしたことがなく、刺激的でした。畦地さんの娘もとってもいいとこ行ったな、と思います。

浅野: その物件もぜひ見てみたいですね。

畦地さん、いきなり登場したので解説させていただきますと、尾鷲香杉の製造元でいらっしゃいます。三重県の尾鷲で製材していらっしゃる方で、パートナーとして加藤さんと一緒にやってらっしゃるという解釈でよろしいでしょうか。

畦地: はい。

浅野: となると、トライアングル的に加藤さんと畦地さんもそのくらいからの付き合いになるんですか?

畦地: 私が加藤さんと初めてお会いしたのは、15年前くらいですかね。私がまだ製品市場をやめて家に戻ってそこそこの時にお会いしたことがあるので。

浅野: なるほど。APECの会場にお使いになったのが、恵千代さんと畦地さん、加藤さんの最初のきっかけだったということですね。

加藤: そうですね。

・有限会社加藤木材
代表取締役 / 加藤政実

北海道生まれ。高校卒業後、木材製品市場にて修行する中、日本中の杉や桧に触れて木の「目利き」の基礎を学ぶ。現在は埼玉県狭山市を拠点に、「百年杉」を専門的に扱う加藤木材の代表取締役を務める。杉の建築や杉の家具しかつくらない、百年杉屋。

・株式会社乃村工藝社
統括エグゼクティブクリエイティブディレクター / 鈴木恵千代

1956年生まれ。乃村工藝社にて、エキシビジョン、企業PR施設、商業施設、ミュージアムなど広範にわたるデザインとアートディレクションおよびプロデュースに携わる。ディスプレイデザイン賞最優秀賞・通商産業大臣賞・グッドデザイン賞金賞など受賞歴多数。日本空間デザイン協会会長。加藤木材さんから木材の供給を受けて、3×3Lab Futureをデザイン。木質デザイン界の第一人者。

■PART1「「これは本物だ」奇跡の杉との出会い」はこちら

■PART2「木の特性を理解してデザインに落とす」はこちら

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