業界レポート

記事公開:2022.12.7

令和5年度林野庁関係予算概算要求にみる主な施策

向井千勝

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林野庁はこのほど、令和5年度予算概算要求を公表しました。

予算要求総額は3505億9300万円、令和4年度当初予算額対比で17.8%増です。要求額なので満額で承認されるものではありませんが、森林・林業・木材産業への林野庁の支援が年々充実していると感じます。

これとは別に令和4年度補正予算概要も示されており、林野庁関係は1162億円が計上されています。これらの予算について概要を見ていきます。

令和5年度予算要求 令和5年度林野庁予算概算要求の概要:林野庁 (maff.go.jp)
令和4年度補正予算 令和4年度林野関係補正予算について:林野庁 (maff.go.jp)

林野庁令和5年度予算要求の概要

林野庁の令和5年度予算要求総額は3505億9300万円です。
内訳は
・公共事業費が2315億7200万円(同17.4%増)
・非公共事業費が1190億2100万円(同18.4%増)
です。

公共事業費の内訳は
・一般公共事業費2212億3000万円(同18.4%増)
・災害復旧等事業費103億4200万円(同変わらず)

一般公共事業費の内訳は
・治山事業費734億4000万円(同18.4%増)
・森林整備事業費1477億9000万円(同18.4%増)
となっております。

また、「防災・減災、国土強靭化のための5か年加速化対策」に係る経費、「総合的なTPP等関連政策大綱」を踏まえた農林水産分野における経費、食料安全保障に向けた対応に係る経費については、事項要求として提出され、予算編成過程で検討されます。

非公共事業、特に川下対策に関する事業は「カーボンニュートラル実現に向けた森林・林業・木材産業によるグリーン成長」に集約されています。
2050年カーボンニュートラル実現という国の国際公約が令和4年度事業から本格化しており、林野庁関係にとどまらず、各省庁の事業でも重要施策として位置づけられており、特に林業にかかわる分野はカーボンニュートラル実現において大変重要な役割を果たすことから、多様な事業が計画されています。森林・林業の活性化、国産材を主体とした木材の積極的な活用がかねて国の成長戦略となっていることはご承知の通りです。

予算要求の重点事業について

令和5年度予算要求は「カーボンニュートラル実現に向けた森林・林業・木材産業によるグリーン成長」と銘打ち、

  • ①森林・林業・木材産業グリーン成長総合対策等(予算要求額155億円)
  • ②林業デジタル・イノベーション総合対策(同32億円)
  • ③林業・木材産業における「人への投資」総合対策(複数予算にまたがる)
  • ④森林・山村地域振興対策(15億円)
  • ⑤花粉発生源対策推進事業(2億円)
  • ⑥森林整備事業(公共、1478億円)
  • ⑦治山事業(公共、734億円)
  • ⑧農山漁村地域整備交付金(公共、913億円)

の8つに分かれています。

最も予算措置の大きな⑥の「森林整備事業(公共)」は、森林吸収量の確保・強化や国土強靭化、林業の持続的発展等のため、間伐の着実な実施に加え、主伐後の再造林、幹線となる林道の開設・改良等を推進するものです。
森林整備と間伐促進は林野庁の最も重要な支援事業です。戦後植林された針葉樹人工林を有効に活用するうえで、欠かせない措置といえ、これまでに数兆円の予算が投じられています。こうした施策に対し、その効果と森林組合との関係性などで疑問の声がないわけではありませんが、何もしなければ戦後植林された針葉樹人工林は手入れをされずに荒廃する恐れがあり、国が進めるしかない事業です。

今後の課題はこれらの戦後植林された針葉樹人工林の多くが主伐期を迎えていることに対し、いかにして持続可能で山元に還元できるよう付加価値を高め、供給安定性を重視した効率的な素材生産ができるか、これが実現してはじめて本物の国産材時代が到来します。何としても主伐、再造林という循環可能な素材生産体制を構築する必要があります。

間伐支援のような公的助成を主伐にまで広げることには問題があります。ただ、再造林を促進するための苗木づくり、路網開設や植林、獣害対策、森林手入れ等の公的支援は必要になります。現実的に主伐、再造林をパッケージした補助事業は開始されており、地方公共団体が主体となって、国庫を元に独自の再造林支援を行うケースも増えています。

川上から川下までの取り組み総合支援「森林・林業・木材産業グリーン成長総合対策等」

公共事業も含まれますが、非公共事業の主体となる施策は前記した「カーボンニュートラル実現に向けた森林・林業・木材産業によるグリーン成長」にまとめられています。このうち①の「森林・林業・木材産業グリーン成長総合対策等」は、国の公約であるカーボンニュートラルを見据えた森林・林業・木材産業によるグリーン成長を実現するため、川上から川下までの取り組みを総合的に支援するものです。

背景には気候変動問題への対策において森林の二酸化炭素吸収源という役割の重要性が一段と明確になってきたこと、また構造用製材をはじめ各種木質建築材料を使い続けることで、建築物に使用される木材内部に炭素として長期固定されます。国は森林が二酸化炭素吸収源としての機能を持続することで、木材製品が廃棄されてもカーボンオフセットされるという立場です。

このように木材は素材生産から製品製造、流通、施工、廃棄までの各段階(ライフサイクル)における二酸化炭素の排出が極めて少なく、この点でも鉄やコンクリートに比べ大変優れていると思います。こうした観点からも木材に活用が世界的に重要視されているのです。また、輸送途上の二酸化炭素排出という点で輸送距離の短い国産材は優等生です。

森林は成長過程の早い段階で最も大気中の二酸化炭素を活発に吸収し、成熟すると吸収力が低下することから、継続した伐採と再造林が大切になります。

「森林・林業・木材産業グリーン成長総合対策等」では5つの施策が示されています。

  • ㋐林業・木材産業循環成長対策(予算要求額118億円)
  • ㋑建築用木材供給・利用強化対策(同16億円)
  • ㋒木材需要の創出・輸出力強化対策(同6億円)
  • ㋓「新しい林業」に向けた林業経営育成対策(同6億円)
  • ㋔カーボンニュートラル実現に向けた国民運動展開対策(同3億円)

です。

㋐と㋑の概要は下記です。

㋐林業・木材産業循環成長対策・・・
国産材供給体制の強化と森林資源の循環利用の確立に向け、木材加工流通施設の整備、路網の整備と機能強化、高性能林業機械の導入、搬出間伐の実施、造林に係る新規参入者等の多様な担い手の育成、再造林の低コスト化、エリートツリー等の苗木の安定供給推進に関する施策となります。

㋑建築用木材供給・利用強化対策・・・
いわゆる需要拡大に向けた出口政策です。林野庁がこれまでも取り組んできたJAS構造材実証支援事業(実施主体は一般社団法人全国木材組合連合会)、外構部の木質化対策支援事業(同)、CLT活用建築物等実証支援事業(実施主体は公益財団法人日本住宅・木材技術センター)の3つが引き続き、中心となる見通しです。

これらの事業についてはこのほど発表された令和4年度補正予算でも継続方針が示されており、予算化されるものと考えられます。令和4年度に実施されたこれらの事業概要は下記の通りです。多少の変更はあると思いますが、おおむね同様の事業内容になるものと予想されます。

公募要領・申請書類 実証支援事業 JAS構造材実証支援事業 (jas-kouzouzai.jp)
外構実証型事業 外構部の木質化対策支援事業 (kinohei.jp)
令和4年度 補助制度の概要|CLT活用建築物等実証事業 (cltjisshou.org)

下表は令和4年度補正予算のうち、川下施策についての全体像です。

㋒の概要は下記の通りです。

㋒の木材需要の創出・輸出力強化対策・・・
非住宅等の木質化に向けた木の効果の見える化、工務店等の技術サポート、木質バイオマスのエネルギー利用、木材製品の輸出促進、特用林産物(キノコなどです)の需要拡大・生産性向上、合法伐採木材の利用の促進等を支援するものです。

林野庁は林産物(特用林産物も含む)の輸出促進に力を入れています。

また、下グラフは22年9月累計の主要林産物輸出実績ですが、急激な円安の進行で輸出経済環境はかなり良くなっています。ただ、要求予算額は1億円にとどまり、ここでは主に、産地協議会の設置やセミナー開催等による木材輸出産地の育成、企業間の連携によるモデル的な輸出の取り組み、海外における木造技術講習会の開催などを支援していきます。

林産物の輸出動向→統計情報:林野庁 (maff.go.jp)

㋑にもかかるものですが、非住宅建築物における木造、木質化は林野庁だけでなく、国土交通省など省庁横断で取り組まれる重要施策です。非住宅木造・木質化建築物は上記したように、建物として長期にわたり炭素を貯蔵することから、先進国に共通してこの取り組みを推進しています。

㋒における「非住宅建築物等木材利用促進事業」自体は予算要求額が1億4500万円と大きくなく、ここでは当該情報発信を主に計画しています。非住宅木造建築に関する補助事業は国土交通省でも「サステナブル建築物等先導事業」に代表的ですが大型予算を組んでおります。

住宅:サステナブル建築物等先導事業 – 国土交通省 (mlit.go.jp)

デジタル技術活用の戦略拠点構築支援「林業デジタル・イノベーション総合対策」

林業デジタル・イノベーション総合対策は、林業機械の自動化、遠隔操作化、森林資源情報のデジタル化、ICT(情報通信技術)等を活用した生産管理の効率化、地域と一体となってデジタル技術をフル活用する戦略拠点の構築等の支援が中心となります。ICT林業は急速に技術開発が進んでおり、一貫作業による造林作業の低コスト化、地上計測・航空機・ドローンなどを駆使したレーザー計測等による森林資源情報のデジタル化を推進していきます。
下に最新の林業用無人ヘリ、林業用ドローン、また自動枝打ち機を紹介します。

戦略的技術開発・実証事業では、林業機械の自動化、木質系新素材の開発・実証を支援します。木質系新素材とは、木の成分を活用した新素材の開発・実証で、例えばセルロース、リグニン等の工業用素材への利用を推進していくものです。

ご一読いただきありがとうございました。
あくまで概算要求を元に記載してまいりましたが、「林野庁が今後どこに注力しようとしているのか」など皆様のご参考になれば幸いです。

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