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記事公開:2023.3.9

SDGs時代の林業の使命ー次世代の森林の在り方は?

藤原敬

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一般社団法人持続可能な森林フォーラム 代表 藤原敬

持続可能な森林フォーラムが作成している「持続可能な森林経営のための勉強部屋」というサイトで、森未来さんと連携して連続セミナーを行なっており、今年度第4回を1月14日に開催しました。

ゲストには、東京大学名誉教授・FSCジャパン代表太田猛彦さんを迎え「SDGs時代の林業の使命ー次世代の森林の在り方は?」というお話を伺い、議論をしました。

太田猛彦さん登場の経緯

「森林飽和ー国土の変容を考える」という著作(NHKブックスでこの10年一番売れた本なのだそうです)があり、日本学術会議の会員で森林の多面的機能の評価などをリードしてきた実績(地球環境・人間生活にかかわる農業及び森林の多面的な機能の評価について(答申))のある太田さんの登場!

太田猛彦:森林飽和 国土の変貌を考える,NHK出版(2012)

太田さんは、私と大学時代から知り合いで、勉強部屋ニュースの配信先。FSCジャパンの会長をしているため、森林認証の話を伺いたい、という思いでコンタクトを始めたのですが・・・。

準備のためにお話をしている中で、森林の管理に関する方策だけではなく、森林と地球・人間の関係の長い歴史を踏まえて森林と人間の関係がどうあるべきかを考えたい、という熱い思いが伝わってきたため、タイトルを「SDGs時代における林業の使命-次世代の森林の在り方は?」に変更してお迎えしました。

日本の森林の変遷ー過去の日本の森林は荒れ地だったのが激変

冒頭、昔の日本の森林は荒れ山であった、とご紹介がありました。「森林飽和」という本の題名の由来です。

太田先生の発表スライドより
太田先生の発表スライドより

太田先生の発表スライドより

上の図は、写真に見るはげ山だらけの(明治時代の)日本。

そして下の図は、(江戸時代の)広重の絵です。

太田先生の発表スライドより
太田先生の発表スライドより
太田先生の発表スライドより
  • 左:山腹にはマツ林「養分の少ない土地の証拠」
  • 中:津軽・白神山地から伐り出された木材「すさまじい江戸時代の木材消費」
  • 右:関ヶ原の合戦図「この時代から日本の森は貧弱だった」

つまり、日本列島の森林状態は住民の生活によって左右され、また、住民の生活に影響を与えているという歴史がある!ということです。

一方、現在は地下資源に頼る生活に変わったために、森林への負荷が一時的に減っている状態にあります。

さあこれから、どうする?

森林と人間に関する「森林の原理」と森林の多面的機能をしっかり踏まえて

「森林の多面的機能」という言葉はよく聞きますよね。木材生産だけではなく、生物多様性の保全、土砂災害の防止、水源のかん養、保健休養の場の提供など。
今では誰でも知っているこの言葉を最初に皆に提起したのが、日本学術会議の2001年「地球環境・人間生活にかかわる農業及び森林の多面的な機能の評価について」という答申で、森林分野の責任者は太田先生。その作成過程と内容の重要性を説明されました。

太田先生の発表スライドより
太田先生の発表スライドより

太田さんの提唱により、森林の機能を記載するときに、森林の原理に立脚して記述するべきとして、3つの原理と8つの機能(上図)が整理されました。

森林の持つ多面的機能と三つの原理

  1. 環境原理:地球環境保全、生物多様性保全、土砂災害防止・土壌保全、水源涵養、快適環境形成
  2. 文化原理:保健・レクリエーション、文化
  3. 物質利用原理:物質生産

地球環境史と人類文明の発展を比較して現代の森林管理を考える

森林の多面的機能に関して、なぜ「生物多様性保全」や「地球温暖化防止」が最初に掲げられているのか・・・考えたことがありますか?

【農耕社会と現代社会を比較すると

地球環境問題を分解すると、以下の二つの要素があります。

  1. 土地と水の利用の問題 → 生物多様性の創出
  2. 地下資源の利用の問題 → 温暖化問題

この二つの問題を検討するために、農耕社会と現代社会を比較してみましょう。

太田先生の発表スライドより

農耕社会は「現太陽エネルギー依存社会」で、太陽エネルギーによって固定された食料や燃料を皆で共有します。

それに対して現代社会は「地下資源依存社会」であり「古太陽エネルギー依存社会」です。

地下資源を使う意味を考えるー地上の資源・エネルギーを使う必要性がわかります

A. 人類文明発祥以前の森林環境史

  1. 森林は徐々に大陸の内部に拡大し、気候を安定させた
  2. 森林は大量絶滅を乗り越え、生物多様性を増大させた
  3. 森林は炭素を固定し、それを地下に閉じ込めた

B. 人類文明発祥以後、特に、産業革命後の森林(地球)環境史

  1. 人類は森林は徐々に縮小させた
  2. 人類は生物多様性を減少させた
  3. 人類は化石燃料やその他の地下資源を再び地上に戻した → 地球表面に二酸化炭素と廃棄物 (自然物でない) が蓄積
太田先生の発表スライドより

特に産業革命後の世界は、地球環境系の共進化の方向に逆行しています。

【新しい森林原理に従って】

そこで、下の図のように、持続可能な範囲で森林を積極的に利用することが、持続可能な社会づくりに貢献します。

太田先生の発表スライドより

総括すると、以下のように言えます。

  • 「木材を生産すること」そのものが“公益的”な機能(字義どおりの意味の)の発揮である
  • 「森林管理」の公益的機能(従来の意味の、すなわち外部経済性という意味の)の一つが木材生産=林業である
  • つまり、林業は森林の多面的機能の一つなのである
  • 森林・林業基本法第2条の表現(森林整備の第一目的は“森林の多面的機能の持続的発揮”である)は適切である
  • 公益的であるためには、他の多面的機能を阻害してはいけない

FSCの活動とは

最後に、FSCジャパン会長としてのメッセージをいただきました。

木材利用を積極的に図ることが持続可能な社会づくりに貢献し、それが他の多面的機能を阻害してはいけないということは、森林の管理と利用における重要なコンセプトです。そして、そのコンセプトを保証するのが「FSCなどの森林認証」です。FSC「など」ですから、PEFCも入っています。

それでは、FSCと他のシステム(PEFCなど)との違いは?という文脈で、FSCの活動の特徴を示されました(下図)。

太田先生の発表スライドより
太田先生の発表スライドより
太田先生の発表スライドより

他のシステムがやっておらずFSCがやっていることは、アトラジンなど水質汚染を誘発する(米国では認可されているが欧州では禁止されている)農薬の禁止、先住民の慣習法の保護、私有林でも審査結果の公表などです。

以上、森林と人間との関係の変遷をたどり、地球と私たちの営みに持続的な森林管理がいかに欠かせないものであるかを改めて考える機会になりました。

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