業界レポート

記事公開:2023.6.27

建築法制度改正のポイント③|構造規制の合理化と建築物の規模の見直し(4号特例の見直しほか)

向井千勝

記事を全て見る

会員登録して
ウッドレポートの記事を全て見る

会員登録はこちら ログインする

この連載の1回目で、「脱炭素社会の実現に資するための建築物のエネルギー消費性能の向上に関する法律等の一部を改正する法律」に基づき、2025年4月から、原則すべての新築住宅・非住宅に省エネ基準への適合が義務付けられることについて解説してきました。

▷第1回はこちら

▷第2回はこちら

建築基準法は、建築物の安全性と耐久性を確保するために定められた法律です。この法律では、原則すべての建築物を対象に、工事着手前の建築確認や工事完了後の完了検査など必要な手続きを設けています。しかし、木造建築物については、一定の条件を満たす場合、建築確認や検査が免除される「審査省略制度」が設けられています。

この改正では、この審査省略制度の対象を見直し、木造建築物でも非木造建築物と同様の規模の建築物については、建築確認や検査が必要となります。これは、すべての建築物に義務付けられる省エネ基準への適合省エネ化に伴った建築物の重量化に対応するためです。また、構造安全性の基準に適合するかどうかを、審査をする過程で確実に担保することで、消費者が安心できる環境を整備するためでもあります。

引用:建築確認・検査の対象となる建築物の規模等の見直し|国土交通省

4号特例の見直し

4号特例が見直しとなります。

引用:脱炭素社会の実現に資するための建築物のエネルギー消費性能の向上に関する法律等の一部を改正する法律(令和4年法律第69号)について|国土交通省

4号特例とは審査省略制度のことで上記表を参照してください。建築基準法第6条の4に基づき、建築確認の対象となる小規模建築物(4号建築物)において、建築士が設計を行う場合には構造関係規定等の審査が省略されます。

具体的には、木造で延床面積500㎡以下の2階建て・平屋建てで、高さ13m、軒高9mの一般建築物、非木造で延床面積200㎡以下が4号建築物として審査省略制度の対象となります。ただし、都市計画区域内に建築する際には建築確認・検査が必要です。

4号建築物は「新2号建築物」と「新3号建築物」に分類

建築基準法の4号特例は、1983年に設けられました。高度成長期に伴って多くの住宅が建築された時代で、役所の審査が追い付かなかったためです。この特例により、2階建て以下の木造建築物については、建築確認や検査が免除されました。

しかし、この特例措置により、住宅壁量計算偽装問題構造強度不足問題が表面化しました。日本弁護士連合会は、「4号特例により、構造計算書等の任意の資料提出がない限り資料の取得が困難となり、被害者の立証を阻んできた」と指摘し、廃止を求めていました。

そして、この改正によって4号特例は廃止され、新2号建築物新3号建築物に分類されます。新2号建築物とは、2階建て以上の木造建築物または平屋建てで延床面積200㎡超の建築物です。この建築物については、すべての地域で建築確認・検査(大規模な修繕・模様替えを含む)が必要となります。また、確認申請の際に確認申請書・図書に加え、新たに構造関係規定等図書省エネ関連図書の提出も必要となります。

新3号建築物とは、平屋建てで延床面積200㎡以下の建築物です。この建築物については、審査省略制度の対象となります。ただし、都市計画区域内に建築する際は建築確認・検査が必要となります。新3号建築物の申請に必要な書類は、確認申請書・図書になります。ただし、現行の規定と同様に、一部の図書は省略することができます。23年秋ごろに改正される建築基準法施行規則において、申請に必要な図書の種類と明示すべき事項が規定される予定です。

この改正は、建築確認検査や審査省略制度の対象を見直し、木造・非木造を統一することで、建築物の安全性や品質を向上させるためのものです。

構造安全性の検証法の合理化

構造安全性の検証法が合理化されます。

高度な構造計算までは求めない簡易な構造計算(許容応力度計算)で建築できる範囲を高さ16m以下まで拡大するとともに、構造計算が必要となる規模を延床面積300㎡超に拡大します。あわせて二級建築士の業務範囲を階数3階以下かつ高さ16m以下に変更します。これにより、二級建築士がより多くの建築物の構造安全性検証を行うことができるようになります。

引用:脱炭素社会の実現に資するための建築物のエネルギー消費性能の向上に関する法律等の一部を改正する法律(令和4年法律第69号)について|国土交通省

構造安全性の検証法の主な改正点

主な改正点は次の通りです。

  • 階数1~2、高さ16m以下、延床面積300㎡以下は仕様規定
  • 階数1~3、高さ16m以下、延床面積300㎡超は簡易な構造計算(許容応力度計算)
  • 階数4以上、高さ16m以下は延床面積にかかわらず高度な構造計算(許容応力度計算、保有水平耐力計算、限界耐力計算等)が必要
  • 高さ16m超60m以下は階数・延床面積にかかわらず高度な構造計算が必要
  • 高さ60m超は階数・延床面積にかかわらず時刻歴応答解析が必要

改正により多くの木造住宅に当てはまる木造建築物が階数1~2、16m以下、延床面積300㎡以下ついては仕様規定で対応できる高さが13mから16mに緩和されています。

一方、延床面積については仕様規定で対応できる面積が500㎡から300㎡に制限され、300㎡超は簡易な構造計算が必要となります。また、高さ16m以下であっても階数4以上は高度な構造計算が必要になります。特に非住宅木造建築の多くは延床面積300㎡超となることから何らかの構造計算が求められます。

二級建築士の業務範囲の見直し

建築基準法が改正され、3階建て木造建築物のうち、簡易な構造計算によって構造安全性を確かめることが可能な範囲が、現行の「高さ13m以下かつ軒高9m以下」から、「高さ16m以下」に見直されます。そのため、簡易な構造計算の対象となる建築物の範囲として定められている二級建築士の業務範囲についても見直されます。

具体的には、二級建築士は、高さ16m以下かつ延床面積300㎡以下の木造建築物の構造計算を行うことができるようになります。

引用:脱炭素社会の実現に資するための建築物のエネルギー消費性能の向上に関する法律等の一部を改正する法律(令和4年法律第69号)について|国土交通省

建築士登録状況(令和4年4月1日時点)は、一級建築士事務所が7万3,036、二級建築士事務所が2万4,700、木造建築士事務所が185、合計9万7,921です。建築士数は、合計117万1,334人、うち一級建築士が37万5,084人、二級建築士が77万7,670人、木造建築士が1万8,580人となっています。

参考:建築士登録状況(令和4年4月1日時点)|国土交通省

中大規模建築物の木造化を促進する防火規定の合理化

3,000㎡超の大規模木造建築物において、構造部材の木材をそのまま見せる「あらわし」による設計が可能な新たな構造方法が導入されます。これにより、木造建築物における木の良さを実感しやすく、また、設計上の制約も小さくなります。

現行では、3,000㎡超の大規模木造建築物においては、壁や柱を耐火構造、あるいは3,000㎡ごとに耐火構造体で区画しなければなりません。しかし、この改正により、燃えしろ設計法(大断面構造材を使用)や防火区画の強化などにより延焼を抑制することで、これらの規制が緩和されます。

また、階数に応じて要求される耐火性能基準も合理化されます。現行では、最上階から階数4以内は1時間の耐火性能、最上階から階数5以上14以内は2時間の耐火性能、最上階から階数15以上は3時間の耐火性能が要求されています。しかし、この改正により、階数に応じて要求される耐火性能基準が合理化され、木造建築物の耐火設計がより容易になります。

引用:脱炭素社会の実現に資するための建築物のエネルギー消費性能の向上に関する法律等の一部を改正する法律(令和4年法律第69号)について|国土交通省

部分的な木造化を促進する防火規定の合理化

耐火性能が要求される大規模建築物においても、壁や床で防火上区画された範囲内で部分的な木造化が可能となりました(政令以下で規定する防火上・避難上支障がない範囲で壁・床で防火上区画され、当該区画外に火災の影響を及ぼさない範囲)。これは、壁や床で防火上区画された部分は、火災が発生した場合でも他の部分に延焼する可能性が低いためです。

これにより、大規模建築物においても木材を部分的に使用できるようになり、木材利用の促進が期待されます。具体的には、壁や床で防火上区画された部分に、中間床や壁・柱、屋根や柱・梁などの木材を使用することが可能となります。

また、防火上分棟的に区画された高層・低層部分をそれぞれ防火規定上の別棟として扱うことで、低層部分の木造化を可能とし、大規模建築物への木材利用の促進を図ります。

現行では、低層部(例:階数3)についても高層部(例:階数4以上)と一体的に防火規制を適用し、建築物全体に耐火性能が要求されています。しかし、改正後は高い耐火性能の壁等や十分な離隔距離を有する渡り廊下で分棟的に区画された高層部・低層部をそれぞれ防火規定上の別棟として扱うことで、低層部分の木造化を可能とします。

こうした別棟解釈はこれまでも用いられてきましたが、改正により明確化されたといえます。具体的には、高層部と低層部を分離する壁の耐火性能を一定以上としたり、高層部と低層部の間に十分な離隔距離を確保したりすることで、低層部分を木造で建築することができるようになります。

引用:脱炭素社会の実現に資するための建築物のエネルギー消費性能の向上に関する法律等の一部を改正する法律(令和4年法律第69号)について|国土交通省

壁や柱などの構造部材に被覆等の防火措置がなされていない(耐火建築物や準耐火建築物ではない)木造建築物については、火災時の延焼の急拡大を防止するため、1,000㎡ごとに防火壁を設置することとされています。しかし、非耐火木造部分と一体で鉄筋コンクリート造や耐火被覆木造などの耐火構造部分を計画する場合、耐火構造部分にも非耐火木造部分と同様に1,000㎡ごとに防火壁の設置が求められており、これは不合理であるという指摘がありました。

この改正により、他の部分と防火壁で区画された耐火構造等の部分には、防火壁の設置は要らないこととなります。

具体的には、木造部分と一体で耐火構造又は準耐火構造の部分を計画する場合、耐火・準耐火構造部分にも防火壁の設置が求められていますが、他の部分と防火壁で区画された1,000㎡超の耐火・準耐火構造部分には防火壁の設置は要らないこととなります。

引用:脱炭素社会の実現に資するための建築物のエネルギー消費性能の向上に関する法律等の一部を改正する法律(令和4年法律第69号)について|国土交通省

この記事をシェアする

おすすめの記事

おすすめキーワード

eTREEに商品や情報を掲載しませんか?

eTREEでは、木材商品や木材事業所情報をご提供していただける
木材事業者様、自治体様を募集しています。

eTREE情報掲載ご相談はこちら