サステナブル

記事公開:2024.7.9

持続可能な森林維持が鍵となる!GX(グリーントランスフォーメーション)について解説

eTREE編集室

記事を全て見る

会員登録して
ウッドレポートの記事を全て見る

会員登録はこちら ログインする

地球環境保護を目的としたさまざまな取り組みの中で、近年「GX」という言葉が取り上げられています。
GX(グリーントランスフォーメーション)は、脱炭素やエネルギーの転換ということだけでなく、社会構造やシステムにまでメスを入れる大きな潮流です。

本記事では、GXの概要や背景、政府や企業が行っている具体的な取り組みについて紹介します。

GXとは「化石燃料を使わない社会への変革」

GX(グリーントランスフォーメーション)とは、化石燃料を使わずクリーンなエネルギーを活用するための、社会とシステムの変革やその実現に向けた活動のことを指します。
実現には、社会システムの変革を経済成長の機会と捉え、競争力の向上を目指すことが必要です。
新たな市場と需要を作り、日本の産業競争力を強化することで経済成長、雇用や所得の拡大につなげることが重要となるでしょう。

参考:知っておきたい経済の基礎知識~GXって何?
参考:我が国のグリーントランスフォーメーション政策|経済産業省

GXへの取り組みが求められている背景

今、GXへの取り組みが求められている背景には、次のような理由があります。

  • 地球温暖化が進行している
  • 世界的に脱炭素の動きが加速している
  • ESG投資が拡大している
  • 日本が重点的に投資している

それぞれ詳しく解説します。

地球温暖化が進行している

世界の平均気温は1891年の統計開始以降、徐々に上昇しており、2000年を越えてからの上げ幅はさらに拡大しています。
2023年には平均気温の基準値との偏差が0.54℃と、統計開始以来、最も高い数値を観測しました。
その結果、世界的にも豪雨や巨大台風、水不足などの異常気象が頻繁に発生しています。
今後さらに海面上昇、洪水、食料不足などのさまざまなリスクが懸念されています。

参考:世界の年平均気温偏差の経年変化(1891〜2023年)|気象庁

世界的に脱炭素の動きが加速している

日本を始め、多くの国が2050年までのカーボンニュートラルの実現を宣言しており、世界中で脱炭素の動きが加速しているのも理由の一つです。
カーボンニュートラルとは、温室効果ガスの排出量を社会全体としてゼロにするという取り組みです。
例えばイギリスでは、1,300社を超える企業に気候関連の非財務情報開示が義務づけられました。
これまで削減に消極的だった、アメリカや中国も削減に向けた協議を進めています。

参考:GX(グリーントランスフォーメーション)とは|docomobusiness
参考:脱炭素に向けた潮流|経済産業省資源エネルギー庁

ESG投資が拡大している

近年、世界中の投資市場でESG関連の企業が注目を集めています。
ESG投資とは、環境や社会に配慮した適切な企業統治が行われている企業に投資しようとする考え方のことです。
ESGは「環境(Environment)」「社会(Social)」「ガバナンス(Governance)」の3つの頭文字をとった略語です。
これら3つの要素は、これからの企業の持続的な成長に欠かせない要素と考えられています。
各企業のGXへの取り組みが投資家の判断基準として重要性を増しています。

参考:GX(グリーントランスフォーメーション)とは|docomobusiness

日本が重点的に投資している

2022年6月、日本では内閣に設置された「新しい資本主義事業会議」によってGXへの投資が決定しました。
下記4つに対して重点的な投資を行うことが宣言されています。

  • 科学技術・イノベーション
  • スタートアップ
  • GX及びDX

上記の場合の「投資」とは、株や投資信託ではなく、GXを行うための活動へ費用を使うという意味です。
今後10年間でGXに対して150兆円を超える投資を実施する予定としています。
新たな制度の創設や「GX経済移行債」の発行などを通じて、国として長期的に複数年度に渡る投資の促進を目指しています。

参考:令和5年度補正予算におけるGX支援対策費関係事業|経済産業省
GX投資を支援する仕組みを創設|財務省
新しい資本主義のグランドデザイン及び実行計画|内閣官房

GXと森林・林業・木材との関わり

GXをめぐる議論では、化石燃料を主体としたエネルギーの変革に注目が集まっています。

その中で、森林・林業・木材の活用も無関係ではありません。

現在、再生可能な生物由来の有機性資源の一つである「木質バイオマス」を新たな素材として利用する研究が進められています。

木質バイオマスの具体例としては、樹木の伐採や造材のときに発生した枝・葉や製材工場で出る樹皮やのこ屑などです。

製材工場から発生する「残材」を、燃料や家畜敷料として使用したり解体現場で発生する木材を木質ボードの原料にしたりするのは木質バイオマス活用の一例です。

その他、木材を燃料にして発電や熱供給をする「木質バイオマスエネルギー」の活用などもGXの投資促進対象となっています。

住宅の省エネ化や、木材利用の増加に伴う森林維持なども、森林・林業・木材にかかわるGXの取り組みです。

森林の持続的な管理や建築物の木造化によって、木材の持つ炭素固定能力が増加すると考えられます。

継続的な取り組みが、木材関連産業に関する直近の重要な課題となるでしょう。

参考:森林・林業・木材におけるSDGsによるGX|公益社団法人応用物理学会

GXにかかわる日本政府の取り組み

ここからはGXに対して日本政府が行っている取り組みについて解説します。
現在、行われている具体的な取り組みは下記の3点です。

  • GX(グリーントランスフォーメーション)実行会議
  • GX(グリーントランスフォーメーション)リーグ
  • 100ヵ所の脱炭素先行地域の設定

GX(グリーントランスフォーメーション)実行会議

GX実行会議とは、GXの実行に必要な施策を検討するための会議です。
2022年7月に第1回が実施され、2024年5月までに11回の会議が開催されています。
2023年2月には「GX実現に向けた基本方針」が閣議決定され、その中で今後10年を見据えたGXへの取り組みのロードマップが公表されました。
今後の対応策として、徹底した省エネルギーの推進や再生可能エネルギーの主力電力化と並んで、住宅・建築物における木材利用促進が盛り込まれています。

参考:GX実行会議|内閣官房
参考:GX 実現に向けた基本方針~今後 10 年を見据えたロードマップ~|内閣官房

GX(グリーントランスフォーメーション)リーグ

GXリーグとは企業と行政、大学・研究機関が協働して、カーボンニュートラルの実現や社会の変革に備える場のことです。
主に下記の4つの活動を通じて、GXへの挑戦を行っています。

  • 排出量取引制度(GX-ETS)
  • ルール形成を通じたグリーン市場の創造(市場ルール形成WG)
  • ビジネス機会創発 (スタートアップ連携等)
  • 企業間交流の促進 (GXスタジオ)

2024年4月時点で700を超える企業が参画し、参画企業が排出する二酸化炭素量は日本全体の5割以上となっています。

参考:GXリーグ

100ヵ所の脱炭素先行地域の設定

環境省では、2050年のカーボンニュートラル実現に向けて、2025年までに100ヵ所の脱炭素先行地域の設定と全国での重点的対策の実施を決めています。
脱炭素先行地域とは、地域特性に応じた取り組みで、脱炭素を実現するためのモデルとなる地域のことです。
結果をもとに、都市部だけでなく、農山漁村、離島なども含めた多様な地域で課題を解決しながら、カーボンニュートラル実現に向けて動きを強めていくことでしょう。

参考:脱炭素先行地域|環境省

GXに向けた日本の事業体の取り組み

GXは企業の永続的な発展を考えたときに、コスト面だけでなく、企業イメージや投資判断にも良い影響をもたらせるという点でも、大きなメリットがある取り組みと言えるでしょう。

ここからは、GXに向けた下記3つの企業や事業体の取り組みについて紹介します。

  • 環境保全に向けた取り組み|恩加島木材工業株式会社
  • 演習林のGXへの挑戦|東京大学
  • GX研究開発センター|王子ホールディングス株式会社

環境保全に向けた取り組み|恩加島木材工業株式会社

恩加島木材工業株式会社では、GXに向けた取り組みの一環として下記の活動を行っています。

  • 国産材・地域材の利用
  • 間伐材の利用
  • 自社工場での自然エネルギー活用

特に主力製品の一つである「人工突板」の開発・製造は間伐材を用いて行われています。
積極的な間伐材の活用は、森の活性化や林業の利益向上、廃棄物の削減などにつながる、持続可能な取り組みと言えるでしょう。

参考:グリーントランスフォーメーション(GX)と建築|定義や方法をわかりやすく解説|恩加島木材

演習林のGXへの挑戦|東京大学

東京大学では、日本各地にある「演習林」において「100年以上に渡って蓄積されたデータ」と「地域社会と連携した教育研究」の強みを生かして、GXに挑戦しています。
演習林とは、現在全国7ヵ所に設置されている、森林や樹木、林業に関する研究を行う目的で設置された森林です。
演習林を通じて実施している研究は下記のようなものです。

  • 持続可能な木材生産の研究
  • 高齢人工林の炭素吸収量に関する研究
  • 奥地の人工林を天然林に転換する研究
  • スギやヒノキに替わる早生樹の造林に関する研究 など

これらの研究をもとに、新しい技術の開発や人材育成、地域との協創のような形で、森林・林産業でのGX推進を目指しています。

参考:演習林のGXへの挑戦|東京大学

GX研究開発センター|王子ホールディングス株式会社

王子ホールディングス株式会社は、2023年7月にGX研究開発センターを創立しました。
GX研究開発センターは、植林木や天然材に関するパルプ適性の知見や評価、紙製造プロセスでの水処理に関する技術革新を促進するための研究施設です。
現在新たに検討している研究物質には、二酸化炭素を固定化できる土壌改良剤である「バイオ炭」やボイラーの燃料として使用できる「クラフトリグニン」などがあります。

その中でもクラフトリグニンは、エネルギー含有量が高く生産コストが低いため、活用方法によっては石油代替材料となる可能性がある物質です。
木材の新たなバイオマス活用における技術の一つとして注目を集めています。

参考:GX研究開発センター|王子ホールディングス株式会社

まとめ

GXとは、クリーンなエネルギーをできるだけ活用していくための取り組みのことです。
実現には、社会全体の仕組みやシステム、さらには国民の意識をも変革する必要があります。
現在、GXの取り組みの中では、エネルギーの変革に注目が集まることがほとんどです。

しかし、森林・林業・木材がかかわる取り組みは二酸化炭素の吸収や固定という部分でGXの実現に対して、大きく寄与できる分野です。

今後のさらなる木材の活用によって、森林が適切に維持・管理され、林産業が健全に循環していくことが重要な課題となることでしょう。

この記事をシェアする

おすすめの記事

おすすめキーワード

eTREEに情報を掲載しませんか?

eTREEでは、木材関連の情報をご提供していただける
木材事業者様、自治体様を募集しています。

現在募集中の情報はこちら