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記事公開:2024.9.18

TNFDをわかりやすく解説|自然資本リスクの開示フレームワーク

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自然環境の保護が世界的な課題となる中、企業の環境への取り組みがますます重要になっています。そんな背景から注目を集めているのが、「TNFD(自然関連財務情報開示タスクフォース)」です。TNFDは、企業が自然環境との関わりをどのように認識し、対応しているかを開示するための国際的な枠組みです。

今回は、気候変動に特化したTNFDについて、その概要と重要性をわかりやすく解説します。

TNFDとは「環境へのリスクや機会を開示するための枠組み」

TNFDは「自然関連財務情報開示タスクフォース」の略称で、企業が自然資本と生物多様性に関するリスクと機会を評価・開示するための国際的枠組みです。4つの柱に沿った枠組みの中で、リスクに関連する情報を開示します。開示することで、企業活動と自然環境との相互作用の透明性を高めることに加え、企業の意思決定に自然資本への配慮を加えることが主な目的です。企業による、生物多様性に関するリスク管理への注力と持続的な活動への取り組みが期待されています。

参考:LEAP/TNFDの解説|環境省
参考:TNFDとは?|株式会社エスプールブルードットグリーン

TNFDが重要視される背景

企業が活動を行う際、活動のほとんどは自然環境が生み出す生物多様性に依存しています。TNFDが重要視される背景には、企業による経済活動によって生物多様性が失われていることとエネルギーや鉱物などの自然資本が急速に消費されていることがあります。森林破壊や生態系の破壊が進行することによって、結果的に企業活動への影響が大きくなることが懸念されているのです。また、投資家によるESG投資への関心の高まりも背景の一つです。ESGとは「環境(Environment)」「社会(Social)」「企業統治(Governance)」の3つの頭文字をとった言葉です。企業が永続的に成長するためには、この3つの観点が重要な要素となるという考え方に基づいて、ESGに配慮した企業に投資するのがESG投資です。国際的な環境規制やSDGsの推進が叫ばれる中、企業の自然環境保護に対する積極的な姿勢やリスクへの取り組みの透明化が求められています。

参考:TNFDとは?|株式会社エスプールブルードットグリーン

TNFDとTCFDの共通点

TCFD(気候関連財務情報開示タスクフォース)とは、気候変動が社会にどう影響するかを知るためのフレームワークです。TNFDと並び、非財務情報開示を目的としています。どちらも下記4つの項目に基づいて、自然関連の「依存・影響・リスク・機会」に関する情報を開示するよう求められています。

  • ガバナンス:組織のガバナンス(目標に向けて行動するための仕組み)を開示する
  • 戦略:組織のビジネスモデルや戦略、財務計画に大きな影響がある場合に開示する
  • リスクと影響の管理:組織が特定するリスクをどのように評価、管理しているかを説明する
  • 指標と目標:管理に必要な指標と目標を開示する

参考:TNFDとは?背景やTCFDとの違い、対応事例について知ろう|富士通グループ
参考:TNFDとは?|株式会社エスプールブルードットグリーン

TNFDとTCFDの相違点

TNFDとTCFDの主な相違点は、下記2点です。

  • 焦点を当てる「課題」
  • 検討が必要な「対象場所の範囲」

TNFDが生物多様性と自然資本全般を対象とするのに対し、TCFDは気候変動に特化しています。そのため、TNFDの評価はTCFDよりも複雑で多面的です。地域性や生態系の特性を考慮する必要があるため、使用される指標も単一のものではありません。影響の範囲や時間軸も異なり、TNFDでは企業活動のあらゆる場面で発生するリスクや機会について検討する必要があります。TNFDを開示するには、リスクだけでなく組織としての依存状況や組織活動が与える影響、機会の管理まで要求されるため、実施する体制の整備から始める必要があるでしょう。

参考:TNFDとは?背景やTCFDとの違い、対応事例について知ろう|富士通グループ
参考:TNFDとは?|株式会社エスプールブルードットグリーン

TNFDの開示に必要なLEAPアプローチ

TNFDの開示に推奨されているのがLEAPアプローチです。LEAPアプローチは、体系的な自然関連リスクと機会の分析を可能にする手法で、4つのアプローチを繰り返すことで評価が可能になるとされています。LEAPアプローチを実施する際には、準備段階を含めた次のような順番で行います。

  • <準備>スコーピング
  • <1>Locate(発見)
  • <2>Evaluate(診断)
  • <3>Assess(評価)
  • <4>Prepare(準備)

ここからはそれぞれの内容について簡単に説明します。

<準備>スコーピング

組織の自然関連の依存、インパクト、リスク、機会に関する仮説を立て、LEAP評価の範囲を定義するのがスコーピングです。経営層と評価チームで目標とスケジュールを確認し、内部・外部のデータを調査します。LEAPアプローチの第一段階である「Locate」に進む前に「作業仮説を立てる」ことと「目標とリソースを調整する」ことが重要です。

参考:LEAP/TNFDの解説|環境省

①Locate:発見

Locateフェーズでは、自社の組織活動が自然環境や生物多様性に与える影響が大きい「場所」を特定し、資金・資源配分の優先順位をつけることが推奨されています。「場所」を特定するためには、次の3つのフィルターを用いて選別します。

  • セクター:企業の部門を表す
  • バリューチェーン:一つの企業価値を生み出すために関連する部署を表す
  • 実際の地理的位置

自然関連のアプローチにおいては、依存関係、インパクト、リスク、機会が場所特有のものであるため、立地が重要です。

参考:LEAP/TNFDの解説|環境省

②Evaluate:診断

EvaluateフェーズはLocateによって特定された自然との依存関係やインパクトを詳細に分析する段階です。「分析対象となる組織活動は何か」「その活動と自然との依存関係はどのようなものか」また「与えるインパクトは何か」について特定し、その規模や範囲を測定します。経済活動と自然との依存関係やインパクト分析をすることで、組織活動が自然に与えるリスクや機会を正しく理解できます。

参考:LEAP/TNFDの解説|環境省

③Assess(評価)

Locate・Evaluateのフェーズで特定・分析された内容をもとに、組織に関連するリスクと機会を評価するフェーズです。組織に関連するリスクや機会を特定し、組織の管理プロセスとの適合と調整を図ります。開示の必要がある重要なリスクと機会を客観的に評価します。

参考:LEAP/TNFDの解説|環境省

④Prepare:準備

評価結果を踏まえ、開示内容を決定し公表するのがPrepareフェーズです。Locate・Evaluate・Assessの段階を踏まえて、組織としてどのように対応するべきか、何を開示するべきかを社内の利害関係者に報告し議論します。最終的に、TNFDの枠組みに沿った情報開示の作成と公表までを行います。

参考:LEAP/TNFDの解説|環境省

TNFDの開示に取り組むべき理由とメリット

企業は多くの組織活動において、自然を資本としています。自然環境の保護が叫ばれる中、企業は自然環境保全や生物多様性の保護に積極的に取り組む必要があると言えるでしょう。企業がTNFDの開示に取り組むべき理由と得られるメリットについて、次の3点を解説します。

  • 地球環境保全のため
  • ESG投資家の評価を高めるため
  • 社会的評価を得るため

地球環境保全のため

気候変動への対策や生物多様性の保全を目的として、森林を育成したり管理したりという活動を行う企業も多く見られます。TNFDの開示に取り組むことで、企業は自然環境への影響をより深く理解し、積極的な保全活動を推進できます。地球環境保全に積極的な姿勢は、企業の顧客・取引先に対して好印象を与えられる可能性もあるでしょう。最近では、就職活動の際、企業の環境に対する取り組みや姿勢に着目する学生も増えているため、TNFDの開示によって、人材獲得のチャンスにつながる可能性も秘めています。

参考:TNFDとは?|株式会社エスプールブルードットグリーン
参考:TNFDとは? TCFDとの違いや企業に求められる取り組みをわかりやすく解説|エナリス

ESG投資家の評価を高めるため

ESG投資とは、環境や社会に配慮した事業を適切なガバナンスに基づいて行っている企業に投資しよう、とする考え方です。2006年に国連のアナン事務総長が「責任投資原則」(PRI)を提唱したことで大きく注目を集めました。

「責任投資原則」(PRI)とは、投資の意思決定プロセスにESGを組み入れることです。PRIに多くの機関投資家が署名したことにより、ESGに消極的な企業は投資対象から外れるリスクが、広く認識されるようになりました。また、2022年には東証プライム市場の上場企業において、TCFD提言に基づく開示が義務化されました。環境破壊の進度によっては、TNFDの情報開示が義務化される可能性も考えられます。今からTNFD開示に取り組むことで、投資家に対して企業の長期的な持続可能性と環境や社会への貢献の姿勢を示せるでしょう。

参考:TNFDとは?|株式会社エスプールブルードットグリーン
参考:TNFDとは? TCFDとの違いや企業に求められる取り組みをわかりやすく解説|エナリス
参考:「金融機関におけるTCFD開示に基づくエンゲージメント実践ガイダンス」の公表について|環境省
参考:今、注目のESG投資とは?|三菱UFJ銀行

社会的評価を得るため

TNFDの開示に積極的に取り組むことで、企業は環境に配慮した責任ある企業としての社会的評価を得ることにつながります。消費者や地域社会、NGO(社会問題や事件問題の解決に取り組む団体)など幅広いステークホルダーからの信頼を獲得できることで、企業のブランド価値が高まるためです。最近では、就職活動の際、企業の環境に対する取り組みや姿勢に着目する学生も増えているため、TNFDの開示によって、人材獲得のチャンスにつながる可能性も秘めています。

参考:TNFDとは?|株式会社エスプールブルードットグリーン
参考:TNFDとは? TCFDとの違いや企業に求められる取り組みをわかりやすく解説|エナリス

TNFDを開示している企業実例

2021年に設立されたTNFDは、2023年に最終提言となるv1.0を公開しました。そして、すでにTNFDを開示している企業もあります。ここからは、TNFDを開示している下記3企業の実例を紹介します。

  • NTTdocomo
  • SMBCグループ
  • キリンホールディングス

NTTdocomo

NTTdocomoは2023年3月に公表されたTNFD β v0.4に基づく開示を行っています。開示の中で、コスト上昇や通信機器の供給の不安定化などを引き起こす可能性があるリスクとして次の3点をあげています。

  • 保護価値の高い土地の開発
  • 周辺生態系への影響
  • 資源採掘

これらのリスクを踏まえた取り組みの一環として、2023年1月に企業・自治体等が参加する「30by30アライアンス」に参画しました。「30by30アライアンス」とは、2030年までに陸と海の30%以上を健全な生態系として保全することを目標とした企業間の提携です。また、高齢化や担い手不足が問題となっている林業分野において、通信システムを活用したスマート林業の推進に向けた実証実験にも取り組んでいます。

参考:TNFD提言に基づく情報開示|NTTdocomo

SMBCグループ

SMBCグループは、TNFDフレームワークに基づいた分析の結果として、食料・農業分野で生産向上を目的とした、デジタル活用によるイノベーションの支援に取り組んでいます。農産物生産にかかる温室効果ガス排出量の削減と土壌・水管理の改善を通じた生態系サービスの強化が主な目的です。また、森林資源の保全に向けた取り組みとして、紙資源の削減と育林・植林の推進と合わせ、持続可能な森林経営への支援も行っています。

参考:2023 TNFDレポート|SMBCグループ

キリンホールディングス

キリンホールディングスは、2023年にTNFDに準拠した情報開示を行っています。キリンホールディングスがTNFDの中で開示しているリスクは大きく分けて、下記4つです。

  • 生物資源
  • 水資源
  • 容器包装
  • 気候変動

その中で事業への影響が最も大きい場所として絞りこんだスリランカの紅茶農園では、持続可能な農業を推進する「レインフォレスト・アライアンス認証」の取得支援を、2013年から実施しています。また、水リスクが最も高い場所となっているオーストラリアの工場流域では、集中豪雨による洪水と深刻な渇水への対応について目標の設定を進めています。

参考:TCFDフレームワーク・TNFDフレームワーク案などに基づいた統合的な環境経営情報開示|キリンホールディングス

まとめ

TNFDの開示は、企業にとって重要な取り組みです。自社の活動における自然環境への影響を深く理解し、積極的な保全活動を推進することで、地球環境保全に積極的に取り組む企業姿勢を顧客にアピールできます。ESG投資家からの評価向上や、幅広いステークホルダーからの信頼獲得にもつながるでしょう。すでに開示している企業の事例からも分かるように、TNFDの開示は企業の持続可能性と社会的責任を示す重要な機会となります。将来的な規制強化も見据え、早期に取り組むことで長期的な企業価値向上につながるのではないでしょうか。

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