業界レポート

記事公開:2023.8.10

ウッドショック終焉、今市場に起こっていること〜低迷する新設住宅向け木材実需〜

向井千勝

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2021~2022年にかけて起きた内外産木材価格の高騰、巷間「ウッドショック」と呼ばれた事象については皆さんもまだ記憶に新しいことだと思います。ウッドショック発生のメカニズムはここでは触れませんが、ウッドショック終焉から現在までの状況を理解する必要はあると思います。明らかなことは、実需を伴わない価格高騰の後に訪れるのは荒廃しかないということです。

国を挙げた木材利用推進の駆動力が増すなか、徒や疎かにできない「木材の需要状況」は今どうなっているのか。その根幹を占めるのは新設住宅の建築材需要です。

深刻な木造持家需要の落ち込み

このほど公表された23年1~6月の新設住宅着工戸数は40万9,549戸(前年同期比2.2%減)、同床面積は3,233万㎡(同4.7%減)となりました。新設住宅着工戸数内訳は以下のとおり。

持家貸家分譲住宅
11万254戸(前年同期比10.5%減)16万貸家16万8810戸(同2.5%増)12万7987戸(同0.2%減)

分譲のうちマンション分譲は5万8473戸(同5.3%増)、パワービルダーの主要需要分野である一戸建て分譲6万8944戸(同4.4%減)でした。

全体では小幅減にとどまっていますが、地域のビルダー、工務店が最も依存してきた持家の低迷が深刻です。改善の見込みはなく、年間でも20万5,000戸と1959年以来の低水準となる見通しです。既に2022年度新設持家戸数は24万8132戸と比較可能な1965年以降で初めて25万戸を割っています。

この新設持家着工戸数の低迷が建築用木材需要の落ち込みに直結しており、内外産木材製品価格はウッドショック時から大幅に下げ込み、品目によっては高騰前価格水準に戻っているものもあります。持家不振は住宅大手もですが、地場の工務店、ビルダーが主戦場とする住宅需要分野であり、長期化する持家需要低迷も影響して工務店、ビルダーの経営破綻が続発しています。

ゼロゼロ融資の元本返済時期の到来が経営悪化に拍車をかける

工務店にとっては新型コロナ感染症問題もあって新設住宅受注が苦戦するなかでのウッドショックに伴う木材製品価格高騰であり、ダブルパンチの様相です。さらに新型コロナ感染症問題対策公的支援として3年前に実施されたゼロゼロ融資の元本返済時期が到来しています。本来はゼロゼロ融資を活用して経営を立て直す計画だったものがウッドショックと新設持家需要低迷により経営をさらに悪化させているのが実情です。

木造戸数は21万7,638戸(同4.9%減)、木造床面積は2,024万㎡(同7.7%減)。このうち在来木造は17万509戸(同6.0%減)、2×4工法住宅は4万2,103戸(同2.0%減)でした。木造住宅の主力は持家であり、持家の低迷が木造にも色濃く影響しています。在来軸組木造全体は17万509戸(同6.0%減)で、直近ピークとなった2019年1~6月の19万6,544戸と比べ13%減です。

このうち在来軸組木造持家は8万372戸(同11.4%減)、月平均1万4,000戸弱でした。在来木造貸家は2万8,068戸(同10.0%増)、在来木造分譲は6万1,333戸(同4.8%減)で、貸家の健闘で何とか6%減にとどまっているというのが実情です。

床面積の狭小化と木材需要の縮小

新設持家の低迷は出口が見えず、23年6月まで19カ月連続月次で前年比減少を続けています。在来木造の23年1~5月床面積は1,355万㎡(同8.6%減)。月平均で271万㎡でした。これに原単位と呼ばれる日本住宅・木材技術センター調査(1993年)を当てはめると、1㎡あたり在来木造住宅木材使用量は0.191㎥(合板含まず)としており、木材需要規模は月平均で52万㎥になります。

さらに在来木造軸組持家で見た場合、23年1~5月の床面積は744万㎡、月平均150万㎡で、原単位を乗じると木材需要規模は29万㎥ということになります。

極論ではありますが、在来軸組木造持家で必要とする月間の木材製品需要規模はせいぜい30万~40万㎥。もちろん木造でも貸家、分譲、2×4、木質プレハブ等の建築需要もあり、非木造でも木材製品は必要とすることから、在来木造軸組持家だけで云々すべきではありません。しかし1戸あたりの床面積も狭小化しており、驚くほど小さな木材需要になってしまったなと感じます。

新規輸入ができない、萎縮する木材製品輸入

ウッドショック後の木材製品価格反落の最大の要因は実需不振につきます。実需不振はウッドショック前から明らかになっていたにもかかわらず、誰も経験したことのない木材製品価格高騰に興奮。海外産地からの大量買い付けに始まり、外材製品代替として国産材製品への引き合い急増が重なりましたが、実需を逸脱した買い付けの末路は、供給過剰、在庫積み増し、新規買い付けの萎縮という結果です。

内外産地への買い付け増は典型的な仮需を背景としたものであり、在庫増に伴う市場の高値敬遠が顕著となるや内外木材産地への引き合いは急減し、一気に価格反落が起きました。港頭に積み増した輸入製品在庫は甚大な評価損と保管料支払いに直面し、国産材製品も同様の流通在庫損、さらに製材事業所への新規引き合いの冷え込み、連動して丸太需要が減退し価格を反落させています。

23年1〜6月の主要木材製品輸入動向をみていきます。輸入金額は6,886億円(前年同期比20%減)ですが数量は金額以上の落ち込みです。主要品目の輸入数量は以下のとおり。

丸太製材集成材合板
107万㎥(同24%減)158万㎥(同42%減)33万㎥(同42%減)64万㎥(同39%減)

主要木材製品の輸入数量はカナダ材製材34万㎥(同36%減)、欧州産製材78万㎥(同43%減)、ロシア産製材24万㎥(同51%減)、欧州産集成材26万㎥(同41%減)です。ロシア材にいたっては半減、欧州材も40%以上の減少ですが、これは22年の輸入数量がウッドショックに刺激され異常な増加となったためで、減少幅もとんでもない数値となりました。

先行する在庫捌きと先行き不安な品不足

東京15号地をはじめとした都市港湾の外材製品輸入・在庫拠点は経験のない集中輸入が続き、一気に港頭在庫を積み増していきました。商品価格は需給で決定されます。需給逸脱を起こし目の前に夥しい在庫が積み増していったことで買い手は先安を見越し買い急ぐ必要がなくなりました。

このころ在庫された輸入木材製品のコストは産地高、海上船運賃高、為替変動などが相乗して大幅高となっています。買い手の高値敬遠も重なり在庫がなかなか捌けていかず、港頭だけでなく、割高な港頭保管料を回避する目的で都市部近郊の物流倉庫などに移送された輸入木材製品もあっという間に倉庫を埋め尽くしました。

こうした事態を受け、輸入元は新規輸入に動けなくなり、22年9月頃から輸入削減が始まります。日本側の買い付け抑制で産地価格も高値修正局面に入りますが、円安ドル高の進行で輸入コストは期待したようには下がらず、何より既に輸入した在庫を販売していくことが先決でした。

ただ、在庫分の輸入コストは高値にとどまっており、小手先の見切り売りで通用するものではありませんでした。外材木材製品輸入機運は未だに低調で、このままでは一転して品不足が懸念される状況です。

通常であれば木材製品の輸入数量がここまで大幅に減少すると品薄見通しとの判断で当該木材製品市況は確実に値上がりします。木材製品市況の現状は大底圏にあるとは思いますが、実需不振から先高気配は乏しく、ホワイトウッド集成管柱と正面競合する杉集成管柱は、大手製造元複数が6万円(オントラック、㎥)を大幅に下回る安値を打ち出し、混乱の根深さを感じさせました。1本あたり2,000円弱ですから、杉KD特等105mm角管柱製材事業所は大きなショックを受けています。

急増する建設業の経営破綻

建設業関係の経営破綻が続発しています。23年6月以降2か月の主な事例だけでも30社以上となっています。経営破綻要因は様々ですが、経営者の高齢化と後継者難、人手不足といった課題のほか、これまで指摘してきた新設住宅需要低迷に伴う仕事量の減少、ウッドショックや建材住設値上げに伴うコスト高転嫁難、新型コロナ感染症対策支援への借入返済等が重なって経営を悪化させていると考えられます。

問題は建設業の経営逆風は始まったばかりであることです。電気・燃料等のエネルギーコスト負担、ゼロゼロ融資元本返済が既にのしかかってきています。また、2024年問題と言われる建設・運輸業界の働き方改革、さらに2025年4月から施行される4号特例見直し省エネ適合義務化住宅性能表示制度における省エネ性能断熱等上位等級創設とZEHに伴う壁量計算などの建築法制度。また省エネ法制度にすべての工務店は対応する必要があり、対応できない工務店の多くは淘汰が避けられないでしょう。

少子高齢化、空き家の増加、地価高騰などを考えると新設住宅需要の減退は一過性の問題ではなく、特に新設持家、いわゆる注文住宅に依存し続けることは大手ビルダーを含めた過当競争のなかで厳しい競合を強いられるということです。自然素材系注文住宅で独自性を発揮してきた有名な工務店さえ破綻に追い込まれています。

4号特例見直しや建築法制度改正について詳しく知りたい方は、以下の記事もご覧ください。
建築基準法4号特例見直しについて
建築法制度改正ポイント①|すべての新築住宅・非住宅で省エネ基準適合を義務付け

焦眉の急を乗り越えるためには

この危機をいかにして好機に変えていくか、簡単な道のりではありませんが、上記した様々な制度変更や新たな国策の方向性を差別化の好機と受け止め、他社に先駆けて研究を進めていくことが大切であると考えます。

非住宅木造建築も大手系の専門領域ではありません。当社が懇意にしている工務店では非住宅木造建築に焦点を当て、得意とする2×4建築建て方のノウハウを生かしてCLT建て方にも参入、CLT建て方引き合いが増え、スキルもどんどん蓄積されています。「誰もやっていないからこそ好機と考えた」、最初の一歩を踏み出した当該工務店代表の声です。

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