[eTREE TALK vol.2] Part 1/JASの課題、そしてJASの意義とは

2020年5月14日

オンライン開催

5/14(木)、eTREE TALK vol.2「木を空間で使うクリエイターの裏話」をオンラインにて開催いたしました。今回はそのなかでも議論が白熱した後半部分から抜粋して、トークセッションの様子を全三回に分けてお送りいたします。

vol.2でゲストにお迎えしたのは、アトリエフルカワ一級建築士事務所 主宰 古川様、埼玉県秩父より株式会社金子製材 金子社長。お二人は、これまでわらしべの里共同保育所(790㎡)桑の木保育園(442㎡)など中規模木造建築でタッグを組んで来ました。JAS構造材や製材所の実態の話題を絡めながら、木材業界のリアルを熱く語り合います。
( 進行:株式会社森未来 代表取締役 / 浅野純平)

JASの課題、そしてJASの意義とは

進行/浅野(以下、浅野): JAS認定をさらに広めるにあたって、どういったところが課題なのでしょうか。

金子さん(以下、金子): 一つ目は価格の問題です。構造計算が必須である中大規模の木造では強度など品質性能がはっきりしているJAS構造用製材の需要がありますが、現状では、製材の多くは、例えば木造2階建て住宅など、構造強度の審査が省略される建築に使われます。非住宅の中大規模建築に木造が増えなければ、JASの格付けをした木材は、そのような一般の市場に流れることになります。しかし、一般の市場では、JASであろうがなかろうが、それほどの価格差は出ないんです。

二つ目は維持の負担です。JASは取るのも大変ですが、取ってからも監査があり、年間に数十万単位で経費が掛かります。JASを持っているというだけで。

ですから、JASを取れば利益が出る、とは言いづらいところがあります。JAS取得という高いハードルを乗り越えた後にも、ちょっとどうかな、となってしまう。

これから、税の投入の影響もあり、各産地からおそらくかなりの原木が出てくると思います。ところが、住宅はご存じのように右肩下がりで、着工件数が減っています。期待されているのは非住宅です。

原木はたくさん出てくるのに、住宅が減るということは使われる木材の総量は減っている計算になります。そうなると、かなり厳しいことは厳しいと思いますよ。JASを取っても厳しい、取らなければ非住宅にはなかなか使ってもらえない。一概には言えないです。

左上:古川さん  右下:金子さん  左下:浅野

古川さん(以下、古川): 現状ではJAS認定が取得しやすいかどうかといえば、どうしてもJASのコストや敷居が高いっていう話になる。でも今、議論しなくちゃいけないのは、僕ら木材を提供する側、つまり、バケツリレーのように山の恵みをエンドユーザーまで運ぶ人たちが、木材の品質についてどう考えているかって話だと思います。そこを適当でいいと言ったらおしまいだし、適当でいいわけがないから議論する。議論したうえで、コストが問題ならばコストがかかりすぎないようにという話を林野庁ですればいい。

重要なのは、僕らがいったい何をエンドユーザーに届けるか何を価値にしていくかです。そこを議論しないと、JASが面倒くさい、JASはお金かかるといった話で終わってしまう。でも、JASにも良いところがたくさんあるんです。JASだから、安心して使える。そこをちゃんと理解したうえで、本当にちゃんと運用していくためにどうすればいいかを考えなくてはいけない。

JASは敷居が高いとかそういう話をするよりも、木造建築を作るときの木材の品質をどうやって考えればいいか、その議論を一番初めにしなくちゃいけない。そうじゃないと、山で林業をして良い木を育てようとしている人も浮かばれない。この気持ちをみんなが持ってバケツリレーをやらないと、結局制度が悪いで終わってします。そういうことではない。僕らはアクションしなくちゃいけない、行動しなくちゃいけないですから、その時に山の価値をどうやってちゃんと評価していくかを、みんなで一緒に考えていかなくてはいけない。その時に、僕はJASがすごく有益だと思っています。エビデンスがどうでもいいってことは絶対にないので。それがどうでもいいことになってしまうと本末転倒で、かえって山の価値を下げてしまうことになると思います。

浅野: 実際、JAS認定を機械等級(*)で取っている製材所はどれくらいあるんでしょうか。

JAS構造材には機械等級区分と目視等級区分の二つの基準がある。機械等級区分では専用のグレーディングマシンで木材の強度を測定するのに対し、目視等級区分では節の有無など見た目で判断して強度を推定する。

古川: 今の登録で78ぐらいあると思います。

金子: ただ、もう17年くらい経っている中での78社です。一番初めに取ったときは、零細会社のうちを含めて機械等級は四社から始まったんです。十数年経っているのに100社ないということは、どれだけの需要があったのかということになるわけですよ。でも古川さんがおっしゃるように、日本で唯一の全体を通しての基準、格付けなんです。JASを取っていれば安心といえるのなら、多くのところに取ってもらいたいとは思うんですよね。コストなどの問題は確かにありますが。

古川: やっぱり、JASは山の価値を上げていくための一つだと僕は思っています。山とエンドユーザーをつなぐ、いわゆる川中のみなさんが頑張ってくれるからJAS材は安心して使えるし、価値が高まっている。経済的な価値が高まるところまでは、残念ながら、至っていないかもしれないけれど、価値は高まっている。それはとても重要なことだと思います。

金子: 山を一生懸命育てている人たちの木材を他とどうやって差別化するか。たとえ高いお金を払ってもそれを使いたい、そうなるためには、何かの付加価値を作っていかなければならないじゃないですか。例えば伊佐ホームズさんの取り組みは良い例だと思います。

浅野: そうですね。伊佐ホームズさんが主体となって立ち上げた、森林パートナーズという団体では、顔の見える木材とQRコードによるトレーサビリティを特徴にした新しい流通システムを確立しています。金子さんも団体の役員をなさっているそうですね。

金子: 一般的には林業家から木を買うのは素材生産業者で、そこから流通業者、製材所など、木材は工務店に渡るまでに何段階もの業者を通過します。しかし、森林パートナーズの取り組みでは、世田谷のハウスメーカーである伊佐ホームズが直接山の木を買うんですよ。そうするとかなり選別をしないといけません。例えば、10本の柱が必要だとします。でも、山の木を10本伐ったら10本の柱になるってもんじゃないんです。乾燥させるときに曲がってしまったり割れてしまったりねじれてしまったりしますし、虫が食っているかもしれない、腐っているかもしれない。だから、10本の柱をとるために20本の木を伐る必要があるかもしれないんです。でも、もしそれがいい手入れをされている山だったら、10本ほしい時に10本の木があれば足りるかもしれない。

浅野: この流通システムは、きちんと手入れをされた山の木でないと成り立たない。逆に、ちゃんと木を育てている山はちゃんと評価される、ということですね。

金子: はい。山主が立派に育てた木をそれなりの価格で買おうとする動きを、僕は今重視しています。これはJASにも言えることで、手入れされた山の木は、節穴の少なさなどから、強度も高く出るんです。その差別化をしている部分はJASの良さだと思います。

・アトリエフルカワ一級建築士事務所
主宰 / 古川泰司

武蔵野美術大学建築学科卒業後、’88年筑波大学院芸術学系デザイン専攻建築コース修了。建築事務所や工務店に勤務後、’98年アトリエフルカワ一級建築士事務所設立。林業、製材、職人をつないだ、地域の木を生かした建物の設計を行っているほか、最近では、住宅医の資格を活かしながら、空き家活用で地域の空間資源再生を通した地域再生やコミュニティづくりにも関心を向けている。

・金子製材 株式会社
代表取締役 / 金子真治

1944年 現在所在地に金子道造が金子製材所創業
1953年 法人組織 金子製材株式会社とする
1988年 取締役会長に金子尚市、代表取締役社長に金子真治就任
1989年 天然乾燥材「エコドライ」の商標権取得
2002年 民間の製材所で始めて高周波乾燥機稼動
2003年 JAS人工乾燥構造用製材
2004年 JAS展 農林水産省消費安全局長賞受賞
2005年 JAS展 林野庁長官賞 受賞
2006年 JAS展 農林水産大臣賞 受賞
2007年 JAS展 農林水産省消費安全局長賞受賞

■PART2「製材所の規模から見えてくる、木材業界のリアル」はこちら

■PART3「木材の未来」はこちら

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