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気候変動や森林伐採の影響によって、地球環境の悪化が問題となっています。
環境保全に取り組む動きが活発化している中で注目されているのが「アグロフォレストリー」です。
アグロフォレストリーが広まることで環境だけでなく、現世界で危険視されている「食糧問題」も解決に向かうかもしれません。
本記事では「アグロフォレストリー」の概要やメリットデメリット、日本や海外での具体的な事例を解説します。
目次
アグロフォレストリーとは、農業・畜産と林業を複合経営する仕組みのことです。
一つの土地の中で樹木と野菜を同時に栽培したり、樹木と家畜を育てたりしながら、農業・畜産業と林業を両立して、複合的に土地を利用することなどを指しています。
導入によって期待される効果は、下記のようなものです。
土壌侵食や地力低下で劣化した土地を再生しながら、食料の確保や収入の向上を目指す方法としても注目を集めています。
参考:環境白書|環境省
参考:アグロフォレストリーマニュアル|国際農林水産業研究センター
アグロフォレストリーを導入することによるメリットは下記の3つです。
アグロフォレストリーを導入することによって、収入源の多様化が見込めます。
農家にとっては、植林によって生産された木材が追加収入源となるでしょう。
同時に木材は自家消費用の建材、家具、木工等にも使用できるメリットもあります。
また、森林経営による副産物である、薪や原木シイタケ、はちみつなどを販売することで、収入源を増やせる可能性もあります。
参考:アグロフォレストリーマニュアル|国際農林水産業研究センター
植林することによって、強い雨風を樹木が遮るため、雨水や風による土壌侵食が軽減されることがメリットです。
土壌保全の効果によって植物が土壌に定着し、さらに土壌が安定する効果も期待できます。
参考:アグロフォレストリーマニュアル|国際農林水産業研究センター
劣化した土壌に樹木を植えることによって、地下・地上でのバイオマスが増加するのもメリットの一つです。
バイオマスとは、再生可能な生物由来の有機性資源と定義されています。
土壌にバイオマスが増加することで、土地構造が改善します。
土壌構造が改善し保水力が向上することで、土地の地力が回復する効果が期待できるのです。
参考:アグロフォレストリーマニュアル|国際農林水産業研究センター
アグロフォレストリーの導入によるデメリットは下記の2点です。
アグロフォレストリーによって、木を植えることにより農作物の生産が減少することがあります。
植林によって、単純に作付面積が減少するためです。
また作物との共生が困難な樹種もあるため、生産できない農作物が出る可能性があります。
参考:アグロフォレストリーマニュアル|国際農林水産業研究センター
樹木があることによって、大規模な農業機械の導入が阻害されます。
単一の作物を大量に生産する農家にとっては、農業機械の導入によって効率的に大量生産することが収入増につながります。
植林によって農業機械の導入が困難になれば、農作物の大量生産の障害となるでしょう。
参考:アグロフォレストリーマニュアル|国際農林水産業研究センター
アグロフォレストリーには現在、大きく分けて3種類のシステムがあります。
それぞれのシステムの概要を解説します。
農林複合システムとは、農業と林業を両立させて土地利用を行うシステムです。
農作物と樹木との共生によって「持続的な土地利用ができる土壌改善」と「生産性の向上」を目指します。
植林によってその土地のバイオマスが増加することで地力が回復するため、農作物の生産性が向上する期待ができます。
農林複合システム導入によって得られる効果は下記3点です。
参考:アグロフォレストリーマニュアル|国際農林水産業研究センター
林畜複合システムとは、同じ区画内で畜産と植林を同時に実施する仕組みです。
生産面では、樹木の育成の他、放牧用の草、飼料作物の生産が含まれます。
単一生産することと比較して、下記5点のような相互作用が期待できます。
参考:アグロフォレストリーマニュアル|国際農林水産業研究センター
農林畜複合システムとは、樹木の下で農作物と飼料用作物を交互に生産することです。
導入によって得られるメリットは、主に下記4点が挙げられます。
土地の効率的な利用と、樹木と農作物・牧草・家畜の相互作用によって、効果を最大にする仕組みと言えます。
参考:アグロフォレストリーマニュアル|国際農林水産業研究センター
アグロフォレストリーは、日本で下記のような取り組みが行われています。
繁殖牛18頭と里山20haの経営資源を用いた林畜複合経営の事例では、クヌギの切り株から再生した芽を20年かけて育て林にし、同じ土地で和牛を放牧しています。
この事例では、直接的な効果と間接的な効果が発現しています。
<直接的効果>
<間接的効果>
土地の環境にあった林畜複合経営によって、持続性の高い農林業経営をしている事例と言えるでしょう。
京都府京丹後市では、バイオガス発電と森林酪農の複合事業が行われています。
バイオガス発電施設である「京丹後循環資源製造所」の運用・管理と副生成物である液肥を利用した有機農業、さらには森林酪農を組み合わせたアグロフォレストリーです。
この事例における効果は次の通りです。
<直接的効果>
<間接的効果>
従来のアグロフォレストリーからさらに一歩進み、産業振興と自然環境保全も含めた新しい形と言えるでしょう。
参考:日本・京都府京丹後市におけるバイオガス発電と農畜産業の連携事業 |環境省
日本でのアグロフォレストリー導入には、次のような課題が考えられます。
日本の農村は、周囲の自然環境や立地条件が個々に大きく違うため、一律的な手法が導入しにくい環境にあります。
同様に、各地で確立している伝統的な農業技術に変えて、アグロフォレストリーを導入することが持続可能かどうかも考える必要があるでしょう。
参考:土地利用および伝統農業を考慮した日本型アグロフォレストリ|東京大環境治水学研究室
海外では、下記のような取り組みが行われています。
海外のアグロフォレストリーは、焼畑農業や森林伐採により荒廃した土地の回復と地域住民の生活向上を目的とする事例が多いようです。
ブラジルのトメアスー地区では、胡椒畑に発生した病害によって荒廃した土地をアグロフォレストリーの手法で回復させました。
トメアスーの人々の試行錯誤により始まった手法は「遷移型アグロフォレストリー」と呼ばれます。
「遷移型アグロフォレストリー」とは、原始林が完全に焼却された状態から長い年月をかけて元の原始林に戻るまでのサイクルを模倣したものです。
トメアスーでは焼畑後の畑に短期作物、中期作物、有用高木樹種の順番で植えることにより、畑から絶え間なく収穫があるように組み合わせた農法を確立しています。
ドミニカのサバナ・イェグァ・ダム上流域では、農地で焼き畑が行われ、放牧地では草の新芽を促すための火入れが繰り返された結果、土壌の劣化と侵食が加速しました。
現在、農地の土壌浸食を防止し、住民生活を向上させる目的でアグロフォレストリーが導入されています。
導入後は、多くの住民が生産性向上や土壌保全、収入増加となっています。
今後、継続的に活動を普及させるには、これまでの農業のやり方を変更しなければならない場面もあるでしょう。
ドミニカでのアグロフォレストリーの定着には、実践する住民の理解が必要不可欠な要素となります。
参考:ドミニカ共和国サバナ・イェグァ・ダム上流域におけるアグロフォレストリー技術とその普及に関する活動計画|熱帯農業研究
アグロフォレストリーは、同一の土地で林業と農業・畜産を複合的に経営する、土地利用の仕組みのことを指します。
農家や林業家にとっては、収入源の多様化と収入増の機会をもたらすものです。
加えて土壌保全や地力向上、生物多様化など環境問題に貢献する可能性も持っていると言えるでしょう。
日本での導入には、地域に根ざした農業技術への理解と立地条件にあった方法の模索が課題となります。
林業や農業などの第一次産業に携わる人口が減っている今、耕作放棄地や劣化した森林を回復させるための効果的なシステムになるのではないでしょうか。
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