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森林は、私たちの暮らしを支える重要な場所です。豊かな生態系を育む場所であるだけでなく、空気を浄化し水を蓄えるなどさまざまな役割を担っています。しかし、その貴重な森林が今、危機に瀕しています。なぜ森林は大切なのか?どんな問題に直面しているのか?森林について知ることは、地球の未来を考えることにつながります。今回は「森林」をテーマにその定義や課題、保護に向けた取り組みなどについて解説します。
目次
森林法において、森林は「木竹が集団的に生育する土地とその上の立木竹」と定義されます。木竹の集団的生育に供される土地、つまり植林で作られた人工林も森林に含まれます。ただし、農地や住宅地は果樹を収穫する目的で植えられた樹木の集まりのため、森林にはなりません。また、同じ法律で森林所有者は、正当な権利に基づき森林の土地上で木竹を所有・育成できる者と定義されています。
参考:森林法
森林は所有者や成立の仕方によって分類されます。この分類は森林の管理や利用方法、生態系の特徴などを理解する上で重要です。それぞれの分類について詳しく見ていきましょう。
森林は所有者によって国有林と民有林に分類されます。国有林は国が所有する森林や分収林を指します。民有林はそれ以外の森林でかつ、近接する森林と森林施業上の関連を有しない0.3ha以上の森林です。
民有林については、全国158計画区に分けられた森林計画区ごとに、5年ごと10年を1期として地域森林計画が立てられます。地域森林計画は都道府県知事が策定するもので、地域的な特性に応じた森林の整備と保全の目標を明確にするものです。所有者による森林の分類は、森林の管理や利用政策に大きな影響を与えています。
参考:森林とは|岐阜県
森林は成立の仕方によって原生林、天然林、人工林の3種類に分類されます。それぞれ、次のような特徴があります。
現在、原生林の割合は世界的に見てもごくわずかです。この分類は森林の生態系や保全の観点からも重要です。
参考:森の基礎知識シリーズ 「原生林」と「自然林」って、どんな森? どう違うの?|オカムラグループ
森林は地球環境の保全や木材生産だけでなく、さまざまな機能を持っています。森林が持つ8つの働きは、次のとおりです。
それぞれについて簡単に説明します。
森林は遺伝子、植物、動物、菌類の保全に貢献し、河川や沿岸の生態系も保護します。多様な生物の生息地として重要な役割を果たしています。
二酸化炭素を吸収し、化石燃料の代替エネルギーを提供することで地球温暖化を緩和します。地球の気候システムの安定化にも寄与しています。
表面侵食や表層崩壊を防止し、落石や土石流、飛砂を抑制します。土砂流出を防いで生産力を維持し、雪崩や強風、高潮などの自然災害も防いでいます。
洪水を緩和し、水資源を貯留します。水量を調節し、水質を浄化するのも森林の持つ機能です。安定した水供給に重要な役割を果たしています。
気温を調節し、大気を浄化したり。塵埃を吸着し、汚染物質を吸収して快適な生活環境を形成します。また、騒音防止効果も期待できます。
リハビリテーションや療養の場を提供し、休養やリフレッシュの機会を与えます。森林浴や散策、スポーツ、釣りなどのレクリエーションの場としても機能します。
美しい景観を形成し、学習や教育の場を提供します。芸術や宗教、祭礼の舞台となるだけでなく、伝統文化を育み、地域の多様性を維持する風土形成に貢献します。
木材、食糧、肥料、飼料、薬品などの工業原料を生産します。また、緑化材料や観賞用植物、工芸材料なども提供し、多様な産業を支えています。
森林は地球環境の保全に対して重要な役割を果たしています。森林の持つ機能を経済的に評価すると、社会にもたらす恩恵の大きさが明確になるでしょう。樹木には大気中の二酸化炭素を吸収する特性があります。特性の評価額は、代替手段の二酸化炭素回収コストに換算すると年間1兆2,391億円にものぼります。
また、木材の利用は化石燃料の代替となり、年間2,261億円分の炭素放出量の削減にも寄与する重要な要素です。
さらに森林の存在は地表の安定性にも重要で、表層崩壊を防止する機能を持ちます。年間で8兆4,421億円の土砂災害による工事額を軽減する試算となっています。森林の多面的な価値を理解し、その保全に努めることが私たちの責務と言えるでしょう。
世界の天然林は急速に失われており、その影響は深刻です。国連の報告によると世界では年間約10万平方メートルにも及ぶ森林が失われています。特に熱帯地域での森林破壊が顕著で、農作物や木材の需要が主な原因です。生物多様性にも重大な脅威をもたらしており、多くの野生生物が絶滅の危機に追いやられています。また、森林破壊により生息地を失った野生動物が人里に出没し、そこに暮らす人々の生活に被害をもたらす例も増えています。
適切に保護されている森林地域は不十分で、早急な対策が求められています。加えて森林は人間の暮らしにも不可欠で、失われることは生活基盤を脅かします。実際、森林破壊は気候変動を加速させ、異常気象の増加につながっていると言われています。大量の二酸化炭素を蓄えている森林が失われていることで、地球温暖化が加速していると言えるでしょう。森林保護は、生態系や人類の生活、そして地球環境全体の健全性を維持するために不可欠です。
多様な機能を持った森林を守るために、さまざまな取り組みが行われています。ここからは森林保護に関する国としての取り組みを3つ、ご紹介します。
グリーン購入法は、合法的に伐採された木材の「調達」を推進するための法律です。世界の各地で違法伐採が問題となっています。違法伐採とは、各国の法令に違反して行われる森林の伐採のことで、森林破壊や生態系破壊の主要因の一つです。日本では、グリーン購入法を通じて違法伐採問題に取り組んでいます。グリーン購入法は、国の公的機関が率先して、環境への負荷が少ない製品の調達を推進することを目指すことが目的です。さらに、木材製品については合法性が証明されたものを優先的に購入することを定めています。違法伐採された木材の市場を縮小させ、持続可能な森林管理を促進することを目指しています。
参考:世界の森林を守るために|環境省
グリーン購入法について|環境省
クリーンウッド法は、合法的に伐採された木材の「利用」を促進するための法律です。木材関連事業者に対して、取り扱う木材・木材製品の合法性の確認を求めると同時に、適切な事業者を登録する制度も設けています。これにより、サプライチェーン全体で違法伐採木材の排除を図り、合法的に伐採された木材の流通を促進しています。消費者の意識向上や、持続可能な森林経営の支援にもつながる重要な取り組みと言えるでしょう。
森林認証制度は、持続可能な方法で管理された森林を第三者機関が認証する仕組みです。その主なものが、FSC(森林管理協議会)やPEFC(環境森林認証プログラム)などです。これらの制度は、環境保全、生物多様性の維持、地域社会への配慮など、厳格な基準に基づいて森林を評価します。認証済みの森林から生産された木材製品には特別なラベルが付けられ、消費者が環境に配慮した選択をしやすくなります。森林認証制度は、持続可能な森林管理を経済的にも成立させる重要な取り組みと言えるでしょう。
森林は生物多様性の保全、地球環境の維持、水源涵養など多様な機能を持ち、私たちの生活に不可欠です。しかし、世界の森林、特に熱帯地域で急速な破壊が進行しており、生態系や気候に深刻な影響を与えています。この危機に対し、違法伐採対策や合法木材利用促進、森林認証制度など、様々な取り組みが行われています。
森林の適切な保護と管理は、地球環境の安定、生物多様性の維持、そして人類の持続可能な未来のために極めて重要です。私たち一人ひとりが森林の価値を理解し、その保全に貢献することが求められていると言えるでしょう。
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