樹木医とは?仕事内容、活動事例を解説

eTREE編集室

1991年に制度ができてから、樹木の診断や治療はもちろん、建築や都市計画、教育活動など幅広いジャンルで活躍する樹木医。
本記事では、樹木医の仕事内容や、仕事を依頼する際のメリットや注意点を解説しています。
「専門家に相談したいことがあるが、樹木医に相談すべきなのだろうか?」と迷っている方は、ぜひ参考にしてください。

樹木医とは「樹木の調査・研究などを行う専門家」

樹木医とは、樹木の調査や研究などを広く行う専門家です。
一般財団法人日本緑化センターが主催する試験に合格すると、樹木医を名乗ることができます。

樹木医といっても、業務内容や活躍の場が定まっているわけではありません。
事務所を開業している人、自治体の職員として勤務している人、造園業や住宅メーカーの仕事の中で樹木医の知識・スキルを活かしている人など活躍の場はさまざまです。

樹木医制度ができた背景

樹木医制度は、1991年(平成3年)に成立しました。
全国各地にある大きな木や歴史ある木を保全する人材を確保し、ふるさとや自然を愛する機運を高め、緑化を推進するためにできた資格です。
林野庁の補助事業として「ふるさとの樹保全対策事業」が発足し、制度の運用がスタートしました。

2004年度からは樹木医補の制度も始まり、大学等で単位を取得した人は1年の業務経歴のみでも樹木医の受験資格を得られるようになりました。
1991年11月には樹木医の1期生が76名誕生します。
その後数を増やし、令和6年6月時点では3,071人、うち431人は女性となっています。

樹木医の仕事内容

樹木医の仕事は、樹木の診断や治療から教育活動まで幅広いことが特徴的です。
関わる業界も都市環境や建築、造園、林業など多岐にわたるため、樹木医の資格を所持している人の職種も多様です。

かつては景観を意識した場所の開発の案件が多かったものの、近年は保護やケアの仕事が増えています。時代によって求められるスキルや知識も変わってきます。

樹木医の仕事は下記の通りです。

  • 樹木の診断・治療・保護
  • 建築・都市計画との連携
  • 後継樹の育成と文化的継承
  • 教育・普及活動

それぞれ解説します。

参考:桜をまもる樹木医の仕事:農林水産省

樹木の診断・治療・保護

樹木医のもっとも基本的な仕事は、巨樹や老樹、街路樹、公園樹、庭木などさまざまな樹木の健康状態を調査し、診断・治療することです。

周辺環境や聞き取り調査などを実施した後、外観診断を行います。
外観診断では、病気や損傷などがないか観察し、検査が必要な場合には機器による腐朽等の診断、病害虫の同定、土壌調査などを実施します。

総合的に判断した後、治療、回避処置、育成などを施す流れです。

治療:

  • 病害虫の防除(総合防除による対策)
  • 根・幹などの保護再生
  • 客土・土壌改良・施肥
  • 菌根菌・有用菌の施用
  • 生育環境の改善
  • 形状の把握 (灌水・排水・踏圧対策・保護柵・案内板整備等)

回避処置:

  • 支柱等の設置・補修
  • 枯枝の除去
  • 風圧・樹冠等軽減剪定
  • 倒伏危険木除去・更新

育成:

  • 後継樹(遺伝子の保存)
  • 代替樹

樹木の状態や周辺環境に合わせて、適切に処置します。

建築・都市計画との連携

樹木医は、建物周辺の環境づくりにも力を発揮します。
たとえば、風通しが悪い場所や日当たりの少ない場所など、植物にとって厳しい条件の中で、元気に育てる工夫が求められることがあります。

また、大きな木を別の場所へ移す必要がある際は、木に対し負担をかけない方法を選び、環境に合った計画を立てることも大切な役割です。

建築やまちづくりの現場では、見た目の美しさだけでなく、植物が長く健康に育つための土台づくりも重要です。樹木医は見えにくい部分にも目を向け、計画を立てることで、より良い空間づくりに貢献しています。

後継樹の育成と文化的継承

樹木医は、古くから人々に親しまれてきた木を守るだけでなく、その想いや文化を次の世代につなぐ役割も担っています。

たとえば、長寿の木や思い出の木が弱ってきた場合は、その木から種や枝を使って新たな命を育てる「後継樹づくり」を行います。
これは、木そのものだけでなく、人々の記憶や地域の歴史を残す大切な取り組みです。

また、木の守り方や育て方を伝える講座や観察会などを通じて、木と人との関わりを広める活動も行っています。
こうした働きによって、樹木医は地域に根ざした文化や自然環境を守り続けています。

教育・普及活動

樹木医は、樹木の診断や治療だけでなく、「病気や害虫に関する講習会」や「観察会」など知識を広める教育・普及活動にも力を注いでいます。

また、小中学生向けに森や木の役割を学べる環境教育プログラムを提供することも仕事のひとつです。

多くの人が樹木と向き合い、自然と共に生きる大切さに気づくきっかけをつくっています。未来の森を守るために、知識を伝えることも重要です。

樹木医に仕事を依頼するメリット

樹木医に仕事を依頼するメリットは次の通りです。

  • 総合的な判断をしてもらえる
  • 専門性の高いアドバイスを得られる

それぞれ解説します。

総合的な判断をしてもらえる

樹木医は幅広いジャンルの知識・経験があります。ジャンルを横断した総合的な判断をしてくれる点が強みです。

具体的には、以下のような知識を持ちながら総合的に業務にあたっています。

  • 環境科学
  • 植物学
  • 分類学
  • 生態学
  • 昆虫学
  • 生理学
  • 樹木文化
  • 社会学
  • 文化財
  • 肥料・農薬
  • 機械・資材
  • 生産・流通
  • 造園施工
  • 育種学
  • 土壌学
  • 動物学
  • 樹木学
  • 園芸学
  • 農学
  • 造園科学
  • 森林科学
  • 気象学
  • 菌類学
  • 植物疫病学

横断的に知識・技術を習得している樹木医のアドバイスは、頼りになるでしょう。

専門性の高いアドバイスを得られる

樹木医の資格は、民間資格の中では難易度が高く、また誰にでも受験資格があるわけではありません。知識・技術ともに専門性の高い人のみが資格を保有しています。

たとえば、樹木医の第二次審査の研修では、下記のようなプログラムを実施しています。

  • 樹木の分類 講義
  • 樹木の生理 講義
  • 樹木・樹林の生態 講義
  • 樹木の構造と機能 講義 
  • 樹木保護に関する制度 講義
  • 土壌の診断 講義と実習
  • 病害の診断と防除 講義と実習
  • 虫害の診断と防除 講義と実習
  • 腐朽病害の診断と対策 講義と実習
  • 大気汚染害の診断と対策 講義
  • 気象害の診断と対策 講義
  • 後継樹木の育成と遺伝子保存 講義
  • 幹の外科技術と機器による診断 講義と実習
  • 樹木の移植法 講義
  • 植栽基盤の調査・判定と土壌改良 講義と実習
  • 総合診断(診断に必要な知識と実践) 講義と実習
  • 適性科目 樹木の識別試験(適性試験) 実習

知識・技術ともに、高い専門性を持った人からアドバイスを受けられるのは、樹木医に仕事を依頼する際のメリットです。

引用:(一財)日本緑化センター 樹木医制度

樹木医に仕事を依頼する際の注意点

樹木医に仕事を依頼する際の注意点は次の通りです。

  • 自治体によっては信頼できる樹木医が見つからない
  • 依頼フローが不明瞭

それぞれ解説します。

自治体によっては信頼できる樹木医が見つからない

日本全体で見ると、樹木医の人数は3,071人です。
東京都には603人の樹木医がいますが、長崎県は11人、高知県は12人、和歌山県は13人と人数が限られています。

また、資格は保有しているものの、実際には樹木医としての活動を休止している人もいます。
依頼時には、実績や活動内容を事前に確認することが重要です。

引用:(一財)日本緑化センター 樹木医制度

依頼フローが不明瞭

樹木医として事務所を構えている人もいますが、全員がそうではありません。
業務が多岐に渡っているので、総合的に依頼できるのか、得意分野を中心に依頼すべきなのか分かりにくさもあります。

また、費用がはっきりしない場合もあり、依頼フローが分かりにくい傾向にあります。
樹木医への依頼は、木の伐採や移植といった単純な話ではありません。

診断から処置まで依頼する場合が多く、また診断だけをとってもどのくらい詳細に診断する必要があるのか素人には分かりにくいため、必要な作業が見えにくいのです。

気になる事業者を見つけたら、まずは連絡を取って依頼フローや料金を確認しましょう。

樹木医になるには

樹木医になるには、試験に合格する必要があります。

受験資格を持っているのは、樹木の調査・研究、診断・治療、保護・育成・管理、公園緑地の計画・設計・設計監理等に関する業務経歴が5年以上ある方です。

樹木医補の資格を持っている場合は、1年以上の業務経歴があれば受験資格を得られます。

試験は第一次審査と第二次審査があり、第二次審査では研修として16日間の講義(Web配信)と6日間の実習が義務付けられています。民間資格ではありますが、難易度の高い試験です。

年収は、樹木医として開業しているのか、造園業の企業に雇用されているのか、自治体の職員なのかなどによって異なります。造園の仕事の平均年収は約488万円となっています。

自然環境にまつわるその他の資格

樹木医以外にも自然環境にまつわる民間資格はたくさんあります。

資格役割
樹木医補所定の大学などで植物や病害虫の基礎知識を学んだ人が対象で、樹木の管理や保全活動を補助する役割を担う
自然再生士環境の回復を目指す専門家で、調査や計画、施工など自然再生の各段階で指導的な立場を果たす
松保護士松の専門家で、マツ材線虫病の防除や松の文化的価値を伝える活動を行う
緑サポーター地域住民と行政の間に立ち、緑の保全に関する相談や啓発活動などを支える

こうした資格は、樹木医と連携しながら、より豊かな自然環境づくりに貢献しています。
自然環境の保護などを全般的に考えていく際は、このようなさまざまな立場の方と協力しながら仕事をすることになります。

参考:樹木医制度/(一財)日本緑化センター

参考:樹木医補資格認定制度/(一財)日本緑化センター

参考:松保護士制度/(一財)日本緑化センター

参考:自然再生士資格制度/(一財)日本緑化センター参考:緑サポーター養成事業/(一財)日本緑化センター

まとめ

樹木医は、幅広く専門的な知識・技術を持った樹木のプロです。単なる木材の伐採や植樹ではなく、総合的な判断が必要な場面で頼りになる存在です。

一方で、資格保有者の人数が少なく、求めている知識・技術を持っている樹木医が近隣で活動しているとは限りません。まずは地域にいる樹木医や自然環境にまつわる仕事に従事している人に関する情報を集めて、どのような活動をしているか、どのような知識・技術を持っているかを把握しましょう。

この記事をシェアする

おすすめの記事

おすすめキーワード

eTREEに情報を掲載しませんか?

eTREEでは、木材関連の情報をご提供していただける
木材事業者様、自治体様を募集しています。

現在募集中の情報はこちら