グリーンインフラとは?国内外の事例や課題、取り組み方法を解説

eTREE編集室

気候変動や災害リスクが高まる中、自然の力を利用した「グリーンインフラ」が注目を集めています。

災害の被害を低減させるという実利的な面でのメリットのほか、景観が良くなったり、さまざまな活動を通して住民同士のつながりが生まれたりと、複数の視点から見た時にメリットがあることが特徴的です。

本記事では、国内外の事例や課題、森林との関係性などをわかりやすく解説していきます。

グリーンインフラとは「自然の力を活用して、社会課題の解決などを目指す考え方」

グリーンインフラとは、森林や湿地、水辺といった自然の機能を活かし、災害や環境、景観など複数の社会課題に対応するインフラ整備の考え方です。

たとえば、豪雨対策として都市の緑地や農地を活用すれば、雨水を吸収・浸透させることで洪水リスクを軽減できます。

さらに、CO₂の吸収や生物多様性の保全といった環境価値もあわせて実現できます。

こうした多機能な自然資本を社会基盤として再評価し、活用するのがグリーンインフラの特徴です。近年は国土交通省もその導入を推進しており、政策的にも重要性が高まっています。

参考:環境:グリーンインフラ推進戦略 | 国土交通省

グリーンインフラと森林分野との関係性

森林は、保水や土砂流出防止、気温調整、炭素吸収といった多様な機能を備えるグリーンインフラの中核です。こうした機能を「流域治水」や「山・里・川・海の連環」の中で活用することで、広域的な災害対策や生態系の保全が可能になります。

さらに、グリーンインフラという概念があることで、林業や森林整備が公共性の高い事業として再評価されつつあります。防災・観光・教育といった多目的利用の視点から森林空間を設計することも重要です。

今後は、流域管理や都市との連携を通じて、森林の社会的価値をより明確に打ち出していくことが求められています。

日本国内のグリーンインフラ事例3選

日本国内のグリーンインフラ事例を3例ご紹介します。

  • 岐阜県郡上市:里山資源と流域管理の連動
  • 東京都練馬区:雨水流出抑制と緑ゆたかな場づくり
  • 長野県千曲川流域:治山・保安林と都市計画の統合

岐阜県郡上市:里山資源と流域管理の連動

岐阜県郡上市では、森林資源の安定供給と地域経済の活性化を両立させるべく、川上から川下までを統合的に管理する体制が整備されています。

背景には、製材工場の新設による木材需要の高まりと、民有林率97%という地域特性が存在します。

市民・林業者・行政が連携して、航空レーザー測量や高性能林業機械の導入、配車体制の改善を通じて生産から流通までを最適化してきました。

再造林や獣害対策も推進されており、郡上市の取り組みは持続可能な林業の先進モデルとして他地域からも注目を集めています。

東京都練馬区:雨水流出抑制と緑ゆたかな場づくり

都市部でも自然との調和を図るグリーンインフラの導入は重要です。

東京都練馬区では、学生寮の整備にあたり、雨水の流出を抑えつつ、生態系と共生する「みどりの拠点」づくりが行われました。

寮生による花壇づくりや中庭での養蜂活動が始まり、地域の環境意識向上や生物多様性への理解を促す場となっています。

こうした取り組みは、自然と人の交流を生み出すだけでなく、地域全体に潤いを与える効果も期待されます。
今後、都市部における緑の再生と雨水管理の先進事例として、多方面での活用が進むでしょう。

長野県千曲川流域:治山・保安林と都市計画の統合

長野県の千曲川流域では、森林の保水力や土砂流出抑止機能を活かしながら、治山と都市開発を一体で進める「流域治水」の実践が行われています。

上流では保安林の整備や治山ダムの設置により、急傾斜地からの土砂災害を抑制し、下流の都市部では河川の改修や緑地整備と連動させて安全性を高めています。

これにより、豪雨時の流量を平準化し、洪水被害の軽減につながっています。

さらに、緑のネットワーク強化によって生態系保全や景観形成にも貢献しており、防災と環境保全を両立させるモデルケースとなっています。

海外におけるグリーンインフラ事例3選

海外のグリーンインフラ事例を3例ご紹介します。

  • アメリカ・ニューヨーク市:グリーンストリート計画
  • ドイツ・ベルリン:都市の緑とブルーを活かすネット
  • シンガポール:雨水管理と景観形成を一体化した公園整備

アメリカ・ニューヨーク市:グリーンストリート計画

ニューヨーク市では、都市型洪水の抑制と都市景観の改善を目的に、グリーンストリート計画が進められています。

この取り組みでは、バイオスウェール(植栽帯)やレインガーデンを街路や交差点の隙間に設置し、雨水を一時的にためて地中へ浸透させることで、排水設備への負荷を軽減しています。

その結果、局地的な浸水リスクの低減に成功しつつ、緑豊かな空間が都市に潤いを与えています。

さらに、植栽による生物多様性の確保やヒートアイランド対策としての効果も注目されています。都市の課題に自然の力で応えるグリーンインフラの象徴的な事例といえるでしょう。

ドイツ・ベルリン:都市の緑とブルーを活かすネットワーク戦略

都市部でも自然との共生を目指す取り組みは進んでいます。

ドイツ・ベルリンでは、都市に残された緑地や水辺を「緑とブルーのネットワーク」として有機的につなぎ、生態系と都市機能の両立を図っています。

グリーンベルトや湿地、公園などを結ぶことで、動植物の生息環境を確保しながら、ヒートアイランド現象の緩和や洪水リスクの軽減にもつながっています。

こうしたインフラ整備は、市民の暮らしの質を高めると同時に、気候変動への適応策としても有効です。

ベルリンの事例は、自然と都市のバランスを保ちながら、持続可能なまちづくりを実現する先進的なモデルといえるでしょう。

シンガポール:雨水管理と景観形成を一体化した公園整備

都市の水資源管理と自然共生を両立させる施策として、シンガポールの「ABC Waters Programme」は注目されています。

貯水池・湿地・水路・公園を一体化させた設計により、雨水の貯留・浄化と同時に、景観形成や環境教育、レクリエーションの場としても機能しています。

たとえば、ビシャン・アンモー・キオ公園では、直線的だった排水路を蛇行する水辺空間に転換し、親水性と治水能力の両方を向上させました。こうした取り組みは都市環境の質を高め、市民と自然の新たな接点を創出します。

シンガポール全体での普及も進み、国をあげた持続可能な水インフラ戦略の一翼を担っています。

グリーンインフラ導入の課題

グリーンインフラを導入する際の課題を5つ解説します。

  • 効果の定量評価が困難
  • 維持管理の責任主体が不明瞭
  • 部門間の縦割り構造が進行を妨げる
  • 土地利用調整の困難さ
  • 住民の理解・参画の不足

効果の定量評価が困難

グリーンインフラは多機能性に優れますが、その価値を数値で評価するのは簡単ではありません。
森林や湿地の炭素吸収や保水機能、景観価値などは貨幣換算が難しく、事業評価や予算化に壁が生じます。

こうした課題を解消するには、環境経済学的な評価指標の導入や定量化手法の確立が不可欠です。

維持管理の責任主体が不明瞭

導入時には補助金や行政主導での整備が行われても、その後の草刈り、樹木の手入れ、施設の補修などの維持管理が属人化・曖昧になるケースが多く報告されています。
結果として、景観や防災機能が低下し、住民からの不満が生じることもあります。

地域に応じた維持モデルや役割分担の仕組みを早期に設けることで、長期的な効果の確保につながるでしょう。

部門間の縦割り構造が進行を妨げる

グリーンインフラはその性質上、農林、水資源、都市計画など多くの行政分野にまたがります。
しかし、現実には縦割り行政の弊害により、部門間の連携がとれずにプロジェクトの統合設計が進みにくいという声もあります。

調整役の不在が地域全体の合意形成を遅らせる要因となっており、横断的な会議体や計画策定組織の設置が必要です。

土地利用調整の困難さ

都市部においては、限られた土地にさまざまな利害関係者が存在するため、グリーンインフラ整備に伴う地権者や関係機関との調整は複雑化しがちです。

さらに、都市計画法や建築制限などの制度的制約も多く、構想段階から法制度との整合性を検討しておく必要があります。
計画段階から土地利用の透明性を確保することが円滑な実施のカギとなるでしょう。

住民の理解・参画の不足

グリーンインフラの価値を最大限に発揮するには、地域住民の協力が不可欠です。
しかし、「自然を活かすインフラ」という発想が伝わりにくく、住民にとっての実感が薄いまま計画が進むと、参加意欲が低下し、維持管理体制が形骸化する恐れもあります。

対話の機会を増やし、地域活動と連動させるなど、主体的に関わってもらえる工夫が必要です。

官民連携によるグリーンインフラ推進のポイント

官民連携のうえでどのようにグリーンインフラを推進すべきか5つの観点からご説明します。

  • 地域の将来ビジョンの明確化
  • 様々な地域主体の創意工夫を活かす連携・推進体制の構築
  • 効果の可視化
  • 柔軟な資金調達・官民連携による事業の促進
  • 持続的な維持管理・マネジメント

地域の将来ビジョンの明確化

グリーンインフラを効果的に導入するには、地域の将来像を明確に描くことが出発点となります。
具体的には、流域単位や自治体単位での課題を踏まえた計画に位置づけ、関係部局の動機付けと連携体制を確立することが必要です。

そのうえで、地域ごとの主体が担う役割や技術的手法を明示し、ビジョン実現に向けた行動指針とすることが求められます。

様々な地域主体の創意工夫を活かす連携・推進体制の構築

グリーンインフラの推進には、従来の土木や土地利用部門に加え、市民協働、福祉、教育など多様な分野との横断的な連携が不可欠です。

部署間の壁を越えて知恵や工夫を持ち寄り、柔軟に協力できる推進組織を構築することで、実効性の高いプロジェクトが生まれます。地域ぐるみの体制づくりが欠かせません。

効果の可視化

グリーンインフラの意義を社会に伝えるには、環境・経済・健康などに与える効果を「見える化」することが重要です。
効果が明らかになることで、行政の事業評価や、地域住民・企業・教育機関など多様な主体の参画意欲が高まります。

また、投資効果を定量化できれば、資金調達の面でも説得力が増し、導入が進みやすくなります。

柔軟な資金調達・官民連携による事業の促進

限られた地方財政のなかでグリーンインフラを進めるには、多様な資金調達手段が求められます。
官民連携の仕組みや、民間資本の活用により、事業の持続性と実行力を高めることができます。
行政と民間が協調し、リスクと成果を分担するモデルが今後ますます重要になるでしょう。

持続的な維持管理・マネジメント

グリーンインフラは整備して終わりではありません。
自然環境の保全・拡充とその機能の活用には、定期的かつ柔軟な維持管理が欠かせません。

管理主体の明確化と、地域の協働体制づくりにより、自然と人の関係性が長く保たれます。
持続的に機能を発揮させるためには、運用段階の設計こそが成功のカギになります。

まとめ

グリーンインフラは、自然の力を活用しながら災害対策や環境保全、地域活性化を実現する持続可能な取り組みです。

森林をはじめとする自然資本を活かすことで、多機能なインフラ整備が可能になります。

今後は、効果の見える化や維持管理体制の整備、地域主体の連携がさらに重要となっていくでしょう。制度や知見を活かし、地域に根ざした実践を進めていくことが求められます。

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