SHK制度とは?森林業界の脱炭素経営に活かすための最新動向

eTREE編集室

脱炭素経営を進めるうえで、自社の温室効果ガス排出量を正確に把握し、社会に公表することは避けて通れません。その中心的な制度が「SHK制度」です。

森林業界や木材関連の事業に携わる企業にとっても、この制度を理解しておくことは重要です。
この記事では、SHK制度の概要や背景などを整理し、脱炭素経営に役立つ視点を提供します。

SHK制度とは「温室効果ガス排出量算定・報告・公表制度」の略

SHK制度は正式名称を「温室効果ガス排出量算定・報告・公表制度(Santei, Hokoku, Kokyo)」といい、環境省が運営しています。

一定規模以上の事業者に対し、温室効果ガス排出量を算定し、報告・公表することを義務付けています。

英語では「Greenhouse Gas Emissions Calculation, Reporting and Publication System」と呼ばれます。

森林業界でも製材や木材加工などの大規模事業者は対象となる可能性があり、制度理解が不可欠です。

参考:SHK制度の概要 | 林野庁

SHK制度の目的と背景

日本政府は地球温暖化対策の一環として、2006年度にSHK制度をスタートしました。根拠法は「地球温暖化対策の推進に関する法律(温対法)」です。

目的は、事業者ごとの排出量を「見える化」し、削減行動を促すことにあります。SHK制度によって事業者ごとの温室効果ガス排出量を算定し、国が集計して公表しています。

これにより自社の排出量を把握したり、他社と比較してどのような立ち位置にいるかが分かるのです。

参考:SHK制度とは|基礎知識・対象者・令和7年度報告の変更点も解説 | 自然電力の脱炭素支援サービス

GHGプロトコルとの違い

GHGプロトコルは国際的な算定基準で、企業や組織が温室効果ガスの排出量を測定し、報告するためのものです。

世界資源研究所(WRI)と世界経済人会議(WBCSD)が共同で開発しました。

一方、SHK制度は国内法に基づいた制度であり、算定範囲や報告様式に違いがあります。

国際的な枠組みと国内法の位置づけを理解することで、自社の開示情報の整合性を確保できます。

参考:温室効果ガス(GHG)プロトコル | 環境省

温対法・省エネ法との違い

温対法は温室効果ガス削減を目的とし、省エネ法はエネルギー消費効率の改善を目指しています。

SHK制度は温対法のもとで運営される仕組みであり、省エネ法と連動しながら排出削減を促進します。両者を区別しつつ理解することが、法令遵守の基盤となります。

参考:地球温暖化対策推進法と地球温暖化対策計画 | 環境省
参考:省エネ法の概要 | 事業者向け省エネ関連情報 | 省エネポータルサイト

SHK制度の対象事業者と業種

SHK制度の対象となるのは「特定排出者」と呼ばれる事業者です。

令和3年の報告集計の結果では11,963事業者が特定事業所排出者、1,321事業者が特定輸送排出者となっており、合計13,284事業者に報告の義務が課せられています。

燃料や熱の使用量をCO₂に換算し、年間排出量が基準値を超えると報告義務が発生し、森林業界では、大規模な製材工場や木材加工場などが該当する可能性があります。

規模が一定以下の事業者でも、取引先から算定協力を求められるケースがあるため、制度を知っておくことが重要です。

参考:SHK制度の概要 | 環境省

排出量の算定方法と排出係数

排出量は、環境省が公表する「排出係数」をもとに、燃料や電力使用量から計算します。

Scope1(直接排出)、Scope2(間接排出)が中心ですが、近年はScope3(サプライチェーン排出)への注目も高まっています。

自社の立場に応じて、どの範囲を把握すべきか整理する必要があります。

Scope1:伐採機械やボイラー燃料の燃焼による直接排出

Scope1は、自社の事業活動で直接発生する排出を指します。森林業界では、伐採機械や乾燥炉の燃料使用が典型例です。

ボイラー燃料や発電設備での燃焼も含まれます。これらは事業者が直接コントロールできる排出源であり、削減対策を講じやすい領域です。

参考:Scope1、2排出量とは | グリーン・バリューチェーンプラットフォーム | 環境省

Scope2:購入電力による間接排出

Scope2は、外部から購入した電気・熱・蒸気の利用によって発生する排出です。
例えば乾燥炉や加工機械に使う電力が該当します。

発電所での燃料燃焼が排出源となるため、自社では直接コントロールできませんが、再生可能エネルギーの導入によって削減が可能です。

参考:Scope1、2排出量とは | グリーン・バリューチェーンプラットフォーム | 環境省

Scope3:木材運搬や製品販売までのサプライチェーン全体の排出

Scope3は、自社の事業活動に関わるサプライチェーン全体の排出を対象とします。

原材料調達や木材運搬といった上流工程、製品利用や廃棄といった下流工程を含みます。

森林業界では物流や住宅建材利用など幅広い領域が関わり、可視化と管理が難しい一方で、環境価値を示す上で重要な指標となります。

参考:Scope3排出量とは | グリーン・バリューチェーンプラットフォーム | 環境省

森林業におけるSHK制度の活用とJクレジット制度

Jクレジット制度とは、省エネルギー設備の導入や再生可能エネルギーの利用によるCO2等の排出削減量や適切な森林管理によるCO2の吸収量を「クレジット」として国が認証する制度です。

本制度により創出されたクレジットは、経団連カーボンニュートラル行動計画の目標達成やカーボン・オフセットなど、様々な用途に活用できます。

森林吸収源活動や木材利用によるCO₂削減量を定量化することで、Jクレジット制度の活用が可能です。

排出削減義務だけでなく、森林資源を活かしたカーボンクレジット取引に結びつけることで、新たな収益機会を生み出せる可能性があります。

参考:Jークレジット制度とは | J-クレジット制度

SHK制度改正のポイント

令和7年度から温室効果ガスの報告制度が大きく変わりました。

工場や機械で直接出る排出と、電気の利用によって間接的に出る排出を分けて報告する仕組みに改められました。

つまり、Scope1とScope2を分けて報告することとなり、Co2排出源がより明確になります。

また、再生可能エネルギーの利用や環境に配慮した証明書の取得が排出量に反映されるようになりました。

さらに、二酸化炭素を回収して燃料として使う「カーボンリサイクル燃料」が新たに対象となり、海外との取引制度も強化され、国際的な取り組みも一段と進んでいます。

参考:SHK制度とは|基礎知識・対象者・令和7年度報告の変更点も解説 | 自然電力の脱炭素支援サービス

企業の先進的な事例

先進企業は環境に配慮した取り組みを多数行っています。
環境に配慮した取り組みをしている下記3社の取り組みを紹介します。

  • 住友林業株式会社
  • デジタルグリッド株式会社
  • エコワークス株式会社

住友林業株式会社

住友林業グループは、国際基準である「GHGプロトコル」に基づき、排出量をスコープ別に算出しています。

木質バイオマス発電の開始で一時的に排出量は増えましたが、石炭使用の削減や海外工場での再エネ導入により、2024年度は前年比23.4%減を達成しました。

さらに住宅事業では省エネ住宅の普及を進め、暮らしの中の排出削減に注力。算定範囲も拡大し、排出量をほぼ網羅的に把握する体制を整えています。

参考:業種別取組事例一覧 | グリーン・バリューチェーンプラットフォーム | 環境省
参考:事業活動に伴う温室効果ガス排出|住友林業

デジタルグリッド株式会社

デジタルグリッド株式会社は、電力を自由にやり取りできるプラットフォームを運営し、需要家と発電家を直接つなぐ仕組みを提供しています。
天候に左右される再生可能エネルギーを安定的に活用するため、デジタル技術を駆使して「エネルギーの民主化」を目指してきました。
さらに、再エネ利用を支援する国際NGO「CDP」から認定を受け、国内でも数少ない再エネプロバイダーとして高く評価されています。
森林業界においても、Scope2(購入電力に伴う排出)の削減手段として応用が期待されます。

参考:電力DX のデジタルグリッド 2023 年「CDP 認定再生可能エネルギープロバイダー」に継続認定 | デジタルグリッド株式会社
参考:デジタルグリッド株式会社 | 会社情報 | デジタルグリッド株式会社

エコワークス株式会社

エコワークス株式会社は「自然素材でつくる、自然エネルギーで快適に暮らす」を掲げ、省エネ住宅の普及に取り組んできた地域の工務店です。
2025年までに二酸化炭素などの排出量を2018年の半分にする目標を立て、国際的な基準の認定も受けています。
電力は再生可能エネルギー100%に切り替え、社用車を電気自動車へ移行する計画も進めています。
また、木材を自然乾燥させることで余分なエネルギーを使わずに排出を減らす工夫も実施。
加えて、暮らしの中で使うエネルギーを大幅に減らす省エネ住宅の普及を進め、地域から脱炭素化をけん引しています。

参考:2024 年 1 月 エコワークス株式会社は、社名の「環境活動」が示す通り、設立以来、国が目指す | エコワークス株式会社

まとめ

SHK制度は、企業の排出量を「見える化」し、脱炭素経営を後押しする仕組みです。

森林業界においては、排出削減だけでなく、森林吸収源としての価値を示す重要な基盤となります。

国際基準との整合を意識しつつ、制度改正への対応を継続することで、企業の信頼性と競争力を高められるでしょう。

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