CLTを使った国内・海外の建築事例を紹介!他工法と比べた特徴や気になるコストも解説

eTREE編集室

比較的新しい建築材料であるCLTを使った建物は、2010年代中頃から国内でも見られるようになりました。これまで鉄骨造や鉄筋コンクリート造が中心だった中高層建築物の木造化が可能になり、施工過程を含めて注目されるCLT建築物も珍しくありません。

そこで今回は、国内・海外に分けて集めた、CLTを利用した建築物を紹介します。CLTに興味がある、建築に取り入れたい、と考えているなら、ぜひ参考にしてください。

参考:CLT建築物の設計ガイドブック|一般社団法人日本CLT協会

CLTとは

CLTとは、Cross Laminated Timberの略称で、ひき板を横に並べ、層ごとに繊維方向を直行させて積層接着した大版のパネルです。日本語では、直交集成板といいます。

1990年代中頃から、オーストリアを中心に開発されたCLTは、現在欧米で、マンションや商業施設で広く使われる建築材料です。

日本においても、2010年頃から検討・設計が始まり、2013年にJAS制定され、2016年に建築基準法関連告示が施行されるなど、普及に向けて着実に前進しています。現在は、国内森林資源の有効活用を目指して、国産材CLTを使った中高層建築物の木造化が広がりつつあります。

参考:CLT建築物の設計ガイドブック|愛媛県CLT普及協議会

CLTの特徴

CLTは、建築材料として優れた性質を持っています。

まず、施工が容易で頑丈というメリットが挙げられます。後述のCLTパネル工法では、壁に使われるCLT自体が、柱や梁として建物を支える構造のため、施工と強度の確保、両方が比較的容易に可能です。

また、あらかじめ工場で生産・加工されたCLTの施工は、熟練工への依存が少ない上、施工後すぐに次のの作業に着手できます。鉄筋コンクリート造と比較して、工期が短く済みます

さらに、コンクリートよりも軽いCLTは、建物の軽量化を実現し、基礎工事の簡略化が可能です。ほかにも、断熱性が高い、現し(あらわし)にすれば内装仕上げが不要、製造時の二酸化炭素排出が少ない、などのメリットがあります。

参考:CLTを用いた建築物の事例について|林野庁

建築物におけるCLTの使い方

CLTを使った建築の構造方式は、主に3つに分かれます。

  • CLTパネル工法
  • CLT部分的利用
  • CLT併用構造

CLTパネル工法は、現場でCLTを床・壁・屋根として積み上げていく工法で、ホテルや共同住宅など、壁の多い建物に向いています。

CLT部分的利用は、鉄骨造・鉄筋コンクリート造・木造軸組構法において、床・壁など部分的にCLTを使う工法です。向いているのは、学校や店舗など、大スパン、中高層の建物です。

CLT併用構造は、鉄骨造・鉄筋コンクリート造との併用で、階の上下で構造を分ける立面混構造と、水平方向で分ける平面混構造があります。

参考:CLT建築事例集 2022|公益財団法人 日本住宅・木材技術センター

CLTを使った建築事例【国内編】

日本において、初めてCLT建築が完成したのは2014年です。それ以降、CLTを使った建物の竣工件数は増加し続け、令和3年に779件に達しています。この章では、国内のCLTを使った建物を紹介していきます。

参考:CLTを活用した建築物の竣工件数の推移|内閣官房

Port Plus

大林組の自社研修・宿泊施設「Port Plus」は、11階建ての純木造耐火建築物です。CLTやLVLを構造体に使い、木造でありながら鉄骨造やRC造と同様に高層・大規模化に成功しています。独自開発の技術によって、構造体の3時間耐火や、鉄骨造や鉄筋コンクリート造と変わらない強度・剛性を実現し、木材の耐火性・耐震性への課題を克服しています。

参考:Port Plus|株式会社大林組

ルピシア本社屋

お茶の専門店ルピシアは、2020年に東京から北海道ニセコに本社を移転し、2023年には木造の新社屋を完成させました。道産の木材を使用した平屋建ての新社屋は、木造軸組工法にCLT壁を組み合わせて建てられました。建物中央には、円形の開放的な空間が広がり、のびのびと働ける環境を実現しています。

参考:株式会社ルピシア 本社屋竣工​​

TDテラス宇都宮

第一生命保険、東邦銀行、清水建設が開発した「TDテラス宇都宮」は、地上4階建ての中層木造オフィスビルです。表通りに面する部分は木造、その奥は鉄筋コンクリート造で構成する、平面混構造を採用。表通りから見上げる、CLTの軒天井が印象的です。「栃木県八溝山系のスギ」や「福島県南会津のカラマツ」を使用することで、地域経済への貢献も目指しています。

参考:中層木造オフィス「TDテラス宇都宮」の竣工について|清水建設株式会社

大林組仙台梅田寮

大林組の社員寮である仙台梅田寮は、1階は鉄筋コンクリート造、2~3階が木造の混構造です。建設に採用されたのは、独自開発の「CLTユニット工法」。工場から現場に搬入するCLTユニットが、4tトラックに積載可能なサイズである点と、現場ではクレーンで吊り上げて据えつける点が特徴です。製作精度の向上と、現場での工数削減により工期短縮を実現しました。

集合住宅やホテルなど同じユニットが連続する建築物へ同工法を展開することで、非住宅の木造建築の普及につながると期待されています。

参考:ハイブリッド木造建築の高品質・短工期を実現する「CLTユニット工法」を仙台梅田寮に適用​​|株式会社大林組

昭和学院小学校 ウエスト館

千葉県市川市の昭和学院小学校 ウエスト館は、屋根・床・壁・階段にCLTを使用した、木造2階建てCLTパネル工法の校舎です。準耐火建築物の燃え代設計を適用することで、教室や階段はCLTを現し(あらわし)とし、木の存在感を全面に出した空間となっています。

参考:一般社団法人 日本CLT協会​​|利用例集(建築)昭和学院小学校 ウエスト館​​

KFC堺百舌鳥店

壁と庇にCLTを用いたファーストフード店が、KFC堺百舌鳥店です。CLTパネル工法によって、同規模の鉄骨造よりも10日以上の工期短縮が可能となりました。軒天井と壁柱のCLTは現し(あらわし)となっており、木の温もりが感じられるあたたかい空間となっています。

参考:CLT 建築事例集 2022|公益財団法人日本住宅・木材技術センター|

CLTを使った建築事例【海外編】

ここからは、日本よりもCLT普及が先行している北米の建築事例を紹介していきます。

Brock Commons Tallwood House

2017年に完成した、カナダ バンクーバー市にあるブリティッシュコロンビア大学の学生寮「Brock Commons Tallwood House」は、18階建ての木造ハイブリッド構造です。耐火性能をクリアするため、鉄筋コンクリートとの混構造が採用される一方、主要構造にはCLTを始めとした多くの木材を使っています。

参考:強く、安全で、環境にやさしい。サステナブルな社会を実現するのは次世代 “木造” 建築、先進国カナダの取り組み​​|AMP

BMW Alpenhotel Ammerwald

ドイツBMW社が経営する、オーストリアの5階建てホテル「BMW Alpenhotel Ammerwald」は、1〜2階は鉄筋コンクリート造、3〜5階がCLTの混構造です。構造材でありながら、現し(あらわし)で用いられるCLTのおかげで、客室を含め建物内側からも木の存在を十分に感じられる、癒しの空間を実現しています。

参考:CLT視察ツアー in ヨーロッパ 2015 報告書|一般社団法人日本CLT協会

G3 Shopping Resort Gerasdorf

オーストリアで2012年に完成した「G3 Shopping Resort Gerasdorf」は、鉄骨柱に木造の梁・屋根を組み合わせた構造の商業施設です。高さは最大20m、屋根面積6万m²の大空間となっています。宣伝効果を狙うオーストリアのCLTメーカーが、資材を提供して建設されたという経緯があります。一部天井はCLTの現し(あらわし)となっており、木の存在を感じられる空間です。

参考:CLT 視察ツアー2019 in 欧州 報告書|一般社団法人日本CLT協会

CLT建築のコスト

メリットの多いCLT建築ですが、建築コストの高さはデメリットの一つでしょう。他工法とのコスト差を埋めるため、国が補助金を出し、 先導的・実証的なCLT建築を推進しています。ここからは、CLTの製品コストと、他工法と比べたトータルの建築費用について、解説します。

製品価格

CLTの普及を阻む一因に、1㎥あたり15万円といわれる製品価格の高さが挙げられるでしょう。国は、将来的に7〜8万円まで価格を引き下げることを目標としており、さまざまな施策を実施しています。

  • 公共建築物へのCLT活用による需要創出
  • CLT工場の生産能力向上
  • 標準化・規格化されたCLTパネルの普及
  • 低コストな接合方法の普及

また、CLT建築における、材料調達費・設計費・建築費などに対して、複数の助成制度が用意されています。利用すれば、コスト面のハードルが下がるでしょう。

建築費用

一般的に、CLTパネル工法は他工法よりも建築コストが高いといわれており、日本住宅・木材技術センターが行ったコスト分析でもそれを裏付けてけています。一方で、岡山県が実施したコスト調査では、CLT造・鉄骨造・鉄筋コンクリート造の建築コストはほぼ同額との結果が得られており、工法ごとのコスト比較に関しては更なる検証が期待されます。

以上より、CLT建築物の普及の観点からは更なるコストダウンが望まれるでしょう。そのために、CLTパネルの標準化・量産化、施工方法や対応金物の合理化、工法の確立・周知が求められています。

まとめ

木造建築の可能性を広げるCLTパネルは、欧米で先行普及した後、国内でも広がりつつあります。国内森林資源の有効活用を進めたい国も、CLTの利用促進を後押ししており、補助事業も盛んです。

設計・施工に関する情報不足やコスト面の課題は残されているものの、工期の短縮や環境負荷の低減など、時代に求められるメリットをもったCLT建築は、今後ますます注目されるのではないでしょうか。

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