植林とは?|植林を行うメリット・デメリットや現在の取り組みについて解説

eTREE編集室

日本は国土の約3分の2を森林が占める、世界でも有数の森林国です。
全国の森林のうち、約4割が植林によって造られた人工林となっています。

本記事では「植林とは何をすることなのか」「メリットやデメリットは何か」を知りたい方に向けて、植林の理由ややり方、歴史を含めて解説します。
あわせて、現在の植林が抱える課題や将来の人工林造りに向けた企業の取り組みもご紹介します。

植林とは「苗木から育てて人工林を作ること」

植林とは、伐採後の土地に苗木を植え人工林を作ることです。
苗を植えて終わりという訳ではなく、下刈りや枝打ち、間伐など手入れをすることが森林と環境の保全につながります。

現在日本で多くの面積を占める人工林は、戦後に植えた苗が十分に育ったことで本格的な「利用期」を迎えています。
これまで下刈りや間伐を中心に育成してきた人工林は、主伐とその後の再造林を通じて、循環利用を確立する段階にあるといえるでしょう。

参考:森林資源の充実とその利活用の状況|林野庁

植林する理由|産業植林と環境植林

植林には、下記の2種類に分類されます。

産業植林:主に木材を生産する目的
環境植林:森林保全を目的

産業植林は、育成が早い樹種をメインに育てることで、木材の生産性を上げられることに加え、荒廃した山の保全が比較的早くできるため、これまで広く行われてきました。

一方で、産業植林によって、杉などの単一の樹種が増え過ぎたことによるデメリットが認識されるようになった現在、生態系や環境に配慮した環境植林への転換を図る事業体も増えています。

参考:世界の森林と保全方法|環境省

植林活動をするメリット

ここでは、植林をすることで得られるメリットについて、次の4つの側面から解説します。

  • 野生生物の生息地を維持につながる
  • 土壌侵食が防止される
  • 地球温暖化対策になる
  • 林業にまつわる人々の暮らしを守る

野生生物の生息地を維持につながる

自然林に生息する野生生物にとって自然林の周囲に展開する人工林は、人間活動が行われる土地との緩衝地帯になります。

生息地である山地の森林と人間の生活地を距離的に離す機能のほか、鉄道や道路、市街地や工場などが野生生物の生息地に与える悪影響を避ける機能も含むためです。

また、荒廃した山に植林することによって、そこに住む生物に、新たな生息地を作る効果も期待できます。

参考:自然的環境に係る検討について|国土交通省

土壌侵食が防止される

土地の表面は雨や風によって、絶えず土壌が侵食されていますが、適切に管理された森林には土壌の侵食を防止する効果があります。

山地は、もともと斜面の割合が多く、土壌侵食によって膨大な量の土砂が流れ落ちる危険があります。
山の斜面に森林がある場合には、落葉落枝層と下層植生が起こり、雨が土壌に直接降ることで地面を削ることを防止する「土壌の侵食防止効果」を発揮しているのです。

参考:森林の持つ土壌侵食防止機能|岐阜県森林研究所

地球温暖化対策になる

樹木が生長にともなって、地球温暖化の要因となる二酸化炭素を吸収することはよく知られています。
伐採すると、樹木の炭素蓄積量は一時的に下がるものの、土壌の中には炭素が蓄えられ続けます。
こうした伐採と再植林のサイクルの中で、森林全体の炭素蓄積量は増大していくため、長期的に見ると、地球温暖化への対策として効果があるのです。

京都議定書においては、途上国で放置されたままの荒地に植林することが「クリーン開発メカニズム」という温暖化対策の仕組みの一つとして認められています。

参考:社会資本整備におけるCDMの活用をめざして|国土交通省

林業にまつわる人々の暮らしを守る

古くから、日本では豊かな森林資源を建築や物作りに利用してきた歴史があります。
傾斜地や谷間など、農業には向かない土地では森の恩恵を背景に、林業や木材加工、木製品の工房などの産業が発達してきました。

山に植林することによって定期的な仕事が生まれ、携わる人々の暮らしを支えるコミュニティーが形成される点は、植林におけるメリットといえます。

参考:森に育まれ、森を育んだ人々の暮らしとこころ|日本遺産ポータルサイト

植林活動をするデメリット

植林することにはメリットも多い一方で、デメリットもあります。
ここでは、植林によって発生する、次のようなデメリットについて解説します。

  • 生物の多様性が損なわれる
  • 管理不足によって水土保全機能が低下する

生物の多様性が損なわれる

これまで多くの産業植林の現場で、杉やヒノキだけ、といった単一樹種の育成が行われてきました。
しかしその結果、現在、生物多様性の側面から弊害が出ている人工林があります。

本来、生育・生息する場所の多様性が、生態系の多様性を育み、生態系の豊かさが種の多様性や遺伝子の多様性につながっています。
そのため、単一樹種が多くの面積を占める産業植林の現場では、種の多様性が悪化する傾向にあるのです。

参考:生物多様性に配慮した森林管理テキスト|森林総合研究所

管理不足によって水土保全機能が低下する

日本では、全体の森林面積のうち約4割が植林によって作られた人工林です。
人工林の育成には人の手による、定期的な保育作業が必要となります。

管理不足の人工林では良質な木材の生産が滞るだけでなく、林床植生の発達が妨げられることで水土保全機能が低下します。

総務省の国勢調査によると、林業従事者の数は長期的に減少傾向です。
高齢化率も令和2年(2020年)の段階で25%と、全産業平均の15%と比較して高い水準であるのが現状です。
さらに、林野庁が市町村を対象に行ったアンケート調査では約8割が管内の人工林が手入れ不足であると回答しています。

人手不足に伴って管理が行き届かない場合、森林全体での水土保全機能が著しく低下してしまうことが人工林のデメリットといえます。

参考:
林業労働力の動向|林野庁
森林資源の充実とその利活用の状況|林野庁

植林のやり方|苗木栽培から主伐まで

そもそも植林とは、どのような工程でおこなわれるのでしょうか。
林野庁では木材生産のための森をつくる「産業植林」の方法として、以下の工程を紹介しています。

  1. 苗木の栽培:2~4年かけて、畑で苗木を育てる
  2. 育った苗木の植え付け:針葉樹を中心に、土地にあった種類の苗木を植え付ける
  3. 下刈りやつる切り:苗木の生長を邪魔する雑草を刈る下刈りや、木にからむつるを切る作業を5~8年続ける
  4. 除伐:植えた苗木の周りに生えた木や生長の悪い木を切る
  5. 間伐(植えてから15~20年後):木の生長を良くするために木を間引いて本数を減らす
  6. 間伐(間伐材として利用):少し太くなった木を切って木材として出荷しながら、残す木の生長を促す
  7. 主伐(植えてから40年後~):すべてを切る方法と一部ずつ切って再植林する方法がある

参考:森林を育てる|関東森林管理局

日本の植林|荒廃と再生の歴史

縄文時代から森林資源が建築や木製品として利用されてきた日本の森林資源は、大量伐採からの荒廃と植林による再生を繰り返してきました。

飛鳥時代以降には大型建築物に必要な大量伐採の形跡があり、平安時代にはすでに植林が行われていた記録があります。
その後、室町から江戸時代にかけては、地方でも城郭や都市の建設のため、各地で大量の木材が伐採されました。
明治以降も、産業の発展や2度の大戦など木材の需要が増加するたびに、木材は大量に伐採され、森林は荒廃しています。

戦後、不足した木材を生産するために、成長が早く木材として利用しやすい針葉樹で次々と人工林が作られました。
現在は、この人工林が主伐期を迎え、さらなる木材利用の促進が求められている状況です。

企業や団体が行う植林への取り組み|ビジネスと環境の両立を目指す

これまで主に行われてきた木材生産のみを目的とした産業植林から転換し、環境へ配慮した植林を行っている事業体も増えています。
ここでは、下記3件の取り組み事例について解説します。

  • 持続可能な森林経営|住友林業
  • 青梅の杜21世紀計画|株式会社多摩農林
  • 森つくりからはじめる紙づくり|日本製紙連合会

持続可能な森林経営|住友林業グループ

住友林業グループが展開する海外での森林管理は下記3つのアプローチで進められています。

  • 産業植林:管理する土地を適切にゾーニングして生態系との調和を図る
  • 環境植林:森林の成立が難しい土地に積極的に植林、森林面積の拡大を図る
  • 社会林業:地域住民との連携で、地域社会での経済効果を図る

持続可能な取り組みへの関心が高まる中で力を入れているのは、木材生産だけでなく、環境や地域社会へ配慮した森林事業です。

参考:海外における森林管理|住友林業

青梅の杜21世紀計画|株式会社多摩農林

東京都青梅市にある青梅の杜は、林業経営と共に、健全な生態系の維持と多様性に富んだ森作りを目指しています。

林業経営の基盤となる針葉樹の人工林は毎年一定の面積を伐採、植林して更新することで、林齢バランスの取れた森林を育成しています。

また、環境植林のメインとなる落葉広葉樹の高木林で行うのは、保全のために必要な最低限の管理です。

その他にも、下記のような森林をバランスよく配置することで、健全な生態系と生物多様性の維持を行っています。

  • 針葉樹の巨木の杜:針葉樹の大径木を中心とした森
  • 常緑広葉樹・落葉広葉樹の薪炭林:落葉広葉樹・常緑広葉樹で構成された薪や炭の原料となる木材を採取するための森
  • 常緑広葉樹による極相林:常緑広葉樹が定着し長期的に安定した森林

参考:森林管理の基本理念|株式会社多摩農林

森つくりからはじめる紙づくり|日本製紙連合会

製紙産業では「使う原料は自分で生産する」という観点から、世界で植林を行ってきました。
海外での植林活動は、まとまった土地を確保しやすいことや、平坦な土地も多く作業効率が良いという傾向があります。

また、地元住民の雇用機会の創出にもつながる「社会的林業」への貢献にもつながります。

日本製紙連合会が取り組むのは、もともと木が育ちにくい土地に地域の特性を考慮した上で、ユーカリやアカシアなど成長の早い樹を植えながら更新していくことです。

そのおかげで、毎年の木材産出量が安定するだけでなく、森林面積が減少することなく、持続的に森林が形成されるというメリットも生まれています。

参考:森つくりからはじめる紙造り|日本製紙連合

まとめ

植林は、伐採後の土地に苗木を植え人工林を作ることで、下刈りや枝打ち、間伐などを通じて、森林や環境を保全しているともいえます。

植林には、木材の生産を目的とした「産業植林」と森林保全を目的とした「環境植林」があります。
これまで主に行われてきた「産業植林」では生育の早い杉などの単一樹種で構成されることが多く、生物多様性が損なわれるというデメリットも発生していました。
最近では、環境や生物多様性にも配慮した「環境植林」に転向する傾向も見られます。

今後の植林活動には、木材生産と環境保全を両立させたうえで、地域社会への貢献も含めた「社会的林業」の推進が期待されています。

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