暮らしと自然をつなぐ「里山林」の現状とは|役割と課題、再生・活用に向けた取り組みを解説

eTREE編集室

かつては人々の暮らしと深く関わり、薪や堆肥、食材などを提供してきた「里山林」。
しかし、現代では産業構造の変化や山間地域の過疎化・高齢化などの課題に直面しており、その価値や機能が見直されつつあります。

本記事では、里山林の定義や役割、抱える課題、そして再生・活用に向けた地域の多様な取り組みについて、具体例を交えて解説します。

「里山林」とは何か

日本人の生活において馴染みの深い「里山林」ですが、そもそも「里山」や「里山林」が具体的にどのような環境であるかを知っていますか。

ここでは、里山と里山林の定義について解説します。

  • 「里山」の定義|「人と自然が共生する森林地帯」
  • 「里山林」の定義|「人の暮らしに利用され、維持管理されてきた森林」

「里山」の定義|「人と自然が共生する森林地帯」

環境省によると、里山とは「原生的な自然と都市との中間に位置し、集落とそれを取り巻く二次林、それらと混在する農地、ため池、草原などで構成される地域」のことです。

つまり、「人の暮らしと自然が共生する森林地帯」のことです。

里山は、古くから農林業などを中心に、さまざまな人のはたらきや営みを通じて、その環境が形成・維持されてきました。

里地里山の地域は、日本国土の約4割を占め、分布は北海道から沖縄まで広く広がっています。

参考:環境省 自然環境局 里地里山の保全・活用
参考:植生図から見た里地里山地域の分布|生物多様性(環境省)

「里山林」の定義|「人の暮らしに利用され、維持管理されてきた森林」

里山林は、単なる自然林とは異なり、人の生活と深く結びついた森林です。主に人間が暮らす集落といった居住地域の近くに広がります。

薪炭材や落葉など生活資材・農業用資材を供給し、地域住民によって継続的に利用されることによって、維持・管理されてきました。

里山林は、主にコナラやクヌギなどの落葉広葉樹林、アカマツ林のほか、スギやヒノキといった人工林を含む種々の森林から構成されています。

参考:令和6年度 森林及び林業の動向|環境省林野庁

里山林が果たす機能

里山林は、自然環境の保全に加え、地域の文化や暮らしを支える多様な機能を持っています。

ここでは、里山林が果たす主な役割について、次の2つの機能を解説します。

  • 生物多様性の保全
  • 地域文化・暮らし・人との関わりの場

生物多様性の保全

里山林は、多様な動植物が共存できる環境として、生物多様性の宝庫とされています。

里山林は、およそ20〜30年程度の間隔で、人の手で継続的に樹木の伐採や更新、落葉などの採取が行われることで、明るい環境が維持されてきました。

このような環境の中で、カタクリやスミレなどといった、背丈の低い植物が生育する特徴があり、これらの植物は、昆虫類への蜜供給源としての役割を果たします。

このように里山林は、人間によって適度に利用されることで特有の生態系が形成されており、生物多様性の保全という重要な機能を持っています。

自然と人との適度な関わりが、里山林の豊かな生態系を支えているのです。

参考:令和6年度 森林及び林業の動向|環境省林野庁

地域文化・暮らし・人との関わりの場

里山林は、地域の住民の生活資材・農業用資材を供給してきただけでなく、地域の伝統や暮らしに深く根ざした文化的な意味合いも持ちます。

長い歴史の中での多様な人間の働きかけを通じて、特有の自然環境・知恵や技術、自然と共生した生活文化を形成する場としての機能も果たしてきたのです。

一方で、現在では産業構造や生活様式の変化に加えて、里山を有する地域での過疎化・高齢化などに伴い、人と里山林との関わりが薄れている現状があります。

里山林の現状と課題

かつては人の暮らしと深い関わりのあった里山林ですが、現代の社会構造の変化により、里山林の管理や利用は大きな転機を迎えているのです。

ここでは、里山林が直面している現状と課題について、以下の4つの側面から解説します。

  • 需要の変化
  • 担い手の減少と高齢化
  • 土地の所有・管理の曖昧さ
  • 高木化や藪化などによる劣化

需要の変化

里山林は昔から、木材の伐採や落葉の採集、カヤや青草の採草などによる燃料、肥料、飼料、衣食住材としての利用など、幅広い分野で需要がありました。

一方で、昭和30年代以降になると、化石燃料中心の産業構造へ転換したことによって、現在では利用価値が低下し、里山林の荒廃が進んでいます。

担い手の減少と高齢化

里山林が分布する山村地域においては、地域住民の過疎化や高齢化が進行し、里山林の整備や利活用の担い手不足に直面しています。

人と里山林の関わりが薄れ、里山林の荒廃がさらに進むことによって、地域固有の文化などが失われることにもつながりかねません。

土地の所有・管理の曖昧さ

里山林の利活用の担い手減少や高齢化は、里山林の持続的な維持管理にとって大きな課題となっています。農村地域の過疎化や、都市部への人口流出によって、里山林の不在地主が増加。

所有・管理が曖昧となることで、境界線や共有地などの権利関係、管理主体が不明確な里山林も増えているのです。

この問題は、里山林整備の妨げとなり、放置や荒廃につながる原因の一つです。

高木化や藪化などによる劣化

長年手入れされなかった里山林では、高木化や藪化が進み、光が差し込まなくなるなど生態系にも影響が出ています。

人の手によって伐採・更新が行われなくなったことによって、里山林内の樹木の高木化が進み、耐陰性の高い常緑の樹種やササ類が繁茂します。

このような環境下では、生物の生育・生息環境の質の低下により、生態系への負の影響が引き起こされているのです。

また、ナラ枯れといった森林病害虫による被害も見られるほか、管理放棄された里山林は、シカなどの大型野生動物の格好の生息地となってしまいます。

里山林の再生と活用の取り組み

失われつつある里山林の価値を再び引き出そうと、さまざまな地域で再生や活用の動きが進んでいます。

ここでは、里山林の再生と活用に向けた具体的な取組例として、次の3つの事例を紹介します。

  • 里山林整備事業
  • バイオマス活用
  • 特用林産物や空間活用

里山林整備事業

林野庁では、地域住民やNPO、企業など多様な主体が連携して里山林に関わる取り組みを推進できるよう、「里山林活性化による多面的機能発揮対策交付金」などを通じて、森林づくり活動への支援を行っています。

この事業では、次の3つの支援メニューが用意されています。

地域活動型(森林資源活用)地域住民等が連携した里山林の整備と森林資源の活用を支援
地域活動型(竹林資源活用)地域住民等が連携した竹林整備等と竹林資源の活用を支援
複業実践型本格的な森林資源の活用の実践を支援

参考:令和7年度里山林活性化による多面的機能発揮対策交付金の概要|林野庁

バイオマス活用

バイオマス活用では、山形県飯豊町中津川地区において、利用が低下した里山林の樹木を利用して、木質ペレットや菌床用チップを製造することで、木質バイオマスとして活用している事例があります。

また、和歌山県みなべ町では、利用価値の少なく、大径木化するシイ類の木材を活用し、従来の製紙用チップとしての活用以外のバイオマス利用を検討。

専門家を招いた勉強会を開催し、木質バイオマスの集積基地をつくり、新たに薪ビジネスを展開するなどの可能性を探っています。

参考:里山林を活かした生業(なりわい)づくりの手引きー事例編ー|東京農業大学農山村支援センター NPO法人共存の森ネットワーク

特用林産物や空間活用

山菜やキノコなどの特用林産物の採取、あるいは里山林空間の観光や教育活用も、新たな価値創出の手段となっています。

例えば、石川県能登町(春蘭の里)では、昔から地元で食されてきた天然キノコに着目しました。

32haの里山を、民宿経営農家が共同で使える「きのこ山」とすべく整備に着手。
天然の食用キノコが増える里山環境を目指し、間伐や林内整備、地掻きなどの整備を実施しています。

また、長野県飯綱町(NPO法人大地)では、里山林を幼児教育のフィールドに活用。
「子どもの目線からの里山づくり」を念頭に、里山生活体験などのプログラムを実施し、里山の空間づくりを行っています。

参考:里山林を活かした生業(なりわい)づくりの手引きー事例編ー|東京農業大学農山村支援センター NPO法人共存の森ネットワーク

まとめ

人と自然の共生を象徴する里山林は、生活資源の供給や生物多様性の保全など、多面的な価値を持つ一方で、現在では、管理放棄や劣化といった課題にも直面しています。

こうした現状を乗り越えるためには、地域や世代を超えた連携による再生と活用が不可欠です。

里山林を次世代につないでいくため、持続可能な未来に向けて、里山林の可能性に改めて目を向けることが求められています。

この記事をシェアする

おすすめの記事

おすすめキーワード

eTREEに情報を掲載しませんか?

eTREEでは、木材関連の情報をご提供していただける
木材事業者様、自治体様を募集しています。

現在募集中の情報はこちら