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2025.12.20
街路樹は、都市の道路沿いに植えられた木のことを指します。見た目の美しさだけでなく、夏の強い日差しをやわらげたり、ヒートアイランド現象の緩和に役立ったりと、さまざまな働きを持っています。
排気ガスやほこりを減らし、歩行者にとって快適な空間をつくる役割もあります。
こうした機能を十分に発揮させるためには、樹種の選定や剪定の方法、安全性の診断などを担う専門職の存在が欠かせません。
林業や木材に関わる仕事をする方は、樹種の特徴と管理の考え方を押さえておくことが大きな強みになります。本記事では、街路樹の代表的な樹種や専門資格に触れながら、実務的な視点で整理していきます。
目次
街路樹は、市街地の道路に沿って計画的に植えられた樹木です。道路空間の一部として扱われ、景観形成や暑さ対策、騒音や粉じんの低減など、多面的な役割を果たしています。
国土交通省は街路樹診断マニュアルを作成し、街路樹の健全度や倒木リスクを評価するための考え方や手順を示しています。
この指針に沿って、剪定や更新、伐採の判断を行うことで、安全性と景観を両立させることが必要です。
全国調査によると、街路樹としてよく使われているのは、イチョウやサクラ、ケヤキなど都市環境に適応しやすい樹種です。
これらは病気に強く成長が安定しており、景観的な魅力も備えています。
街路樹の種類には多様な候補がありますが、実際に選ばれている樹種には、都市空間で長く育てやすいという共通点があります。代表的な樹種と選定理由は以下の通りです。
参考:国土交通省 国土技術政策総合研究所 | 道路緑化樹木の現況まとめ・図表一覧
イチョウは、街路樹と聞いて多くの人が最初に思い浮かべるであろう代表的な樹種です。秋の黄葉は都市の景観を象徴する存在となっており、観光資源としても価値があります。
排気ガスに強く、枝を切り戻しても再び枝葉を伸ばしやすいため、交通条件の厳しい都市部でも安定して育てやすい木です。
幹と根がしっかりしており、強風にも耐えやすいため、安全面から見ても信頼度の高い街路樹だといえます。
サクラは、春の開花によって地域の人々を集め、交流や観光のきっかけをつくる樹種です。日本各地の道路沿いで桜並木が形成されており、地域の象徴的な風景になっている場所も少なくありません。
これまでソメイヨシノが多く植栽されてきましたが、近年はその土地の気候や病害に適したヤマザクラやカンザクラなど、別の品種への切り替えも進んでいます。
テッポウムシなどの病害虫対策や老木の更新計画が必要になりますが、適切に管理すれば長く地域に親しまれる街路樹になります。
参考:公益財団法人 日本さくらの会 さくら | さくらの基礎知識
ケヤキは、枝葉が大きく広がるため、夏場の強い日差しを和らげる役割に優れています。地上から見上げたときに、アーチ状に連なる並木をつくりやすく、都市のメインストリートなどでよく採用されてきました。
成長が早く、一定の樹齢までは樹形も整いやすいため、街路樹用の高木として使い勝手のよい樹種です。
その一方で、枝張りや根の広がりが大きくなるため、歩道の幅や建物との距離など、設計段階での検討が欠かせません。
ハナミズキは、春の花と秋の紅葉が楽しめる小ぶりな樹種です。樹高は5〜8メートル程度に収まることが多く、歩行者空間のスケール感とよくなじみます。
大木になりにくいため、電線や建物との距離があまり取れない道路でも導入しやすい点が強みです。病気に弱い一面もありますが、定期的に樹勢を確認し、早めに対処することで安定した管理が可能になります。
住宅地に近い道路など、やわらかなイメージをつくりたい場面で選ばれやすい街路樹です。
トウカエデは、秋の紅葉が鮮やかで、四季の変化をはっきりと感じられる樹種です。
樹形が比較的コンパクトにまとまり、剪定もしやすいため、歩道の幅が限られた市街地でも導入しやすいという利点があります。
海外原産の樹木ですが、寒さや乾燥に強く、都市部の厳しい環境にもよく耐えることが分かってきました。管理コストを抑えつつ、景観性の高い街路をつくりたいときに候補に挙がりやすい木です。
クスノキは、一年を通して緑の葉を保つ常緑樹です。温暖な地域では街路樹としてよく見られ、ボリュームのある樹冠が、夏は日陰を提供し、冬も街路の寂しさを和らげます。
葉や材にはカンフルと呼ばれる成分が含まれており、防虫や防腐の効果が期待されてきました。
根が強く伸びるため、舗装の持ち上がりや周辺構造物への影響に注意が必要ですが、根の広がり方を想定した植栽帯の計画や根域の制御によって対応することが可能です。
カエデは、紅葉の美しさで知られる樹種です。街路に植えることで、秋には鮮やかな色彩の並木をつくることができます。成長が比較的早く、植栽から数年で緑陰や景観効果を実感できる点も魅力です。
一方で、落ち葉や実の清掃に手間がかかるため、周辺環境や住民の理解を得たうえで導入する必要があります。
景観性を重視した街路や公園へのアプローチとして、ポイントを絞って採用されるケースが多い木です。
ナナカマドは、寒冷地に適した樹種で、赤い実と紅葉が特徴的です。冬場にも枝先に実が残ることが多く、雪景色と組み合わさると印象的な景観をつくります。
病害虫が少なく、剪定や維持にかかるコストが比較的抑えられる点も、管理側にとっては大きな利点です。
実は鳥に好まれ、種子が運ばれて別の場所で芽生えることもあります。そのため、生態系の一部として都市の中の自然環境を支える役割も期待できます。
モミジバフウは、北米原産の樹種で、日本では街路樹や公園樹として多く利用されています。
成長が早く、樹勢も強いため、都市部でも比較的管理しやすい木です。何よりも、秋の紅葉の鮮やかさが大きな魅力で、赤や橙色に染まる並木は街のイメージを印象づける力を持ちます。
根が地表近くを横方向に広がりやすく、舗装の持ち上がりなどのトラブルが生じることもあるため、植栽帯の幅や土壌条件を考慮した設計が求められます。
クロガネモチは、常緑で一年中緑のボリュームを保てる街路樹です。排気ガスや剪定にも強く、都市の厳しい環境に耐えやすい点が評価されています。
冬になると赤い実をつけるため、寒い季節にも華やかさを添えてくれる樹種です。
病害虫の発生が比較的少なく、管理コストを抑えやすい一方で、実を食べた鳥が種子を運び、意図していない場所で芽生えることがあるため、発生場所の確認や抜き取りなどの対応が必要になる場合もあります。
街路樹を選ぶ際には、樹木の高さや葉の落ち方など、いくつかの基準で分類して考えることが重要です。
高木は大きな日陰をつくるのに向いており、低木は視界を妨げずに足もとを彩る役割を持ちます。
常緑樹は一年中緑を保ち、落葉樹は季節の変化をはっきりと見せてくれます。
たとえば、狭い歩道で視界や電線への影響を抑えながら緑を確保したい場合は、低木で常緑の樹種が選ばれやすいです。
一方、広い道路で並木の景観を重視する場合は、高木の落葉樹が候補に挙がります。樹高や枝張りだけでなく、根の広がり方や剪定の頻度、交通安全や標識の見え方なども含めて、総合的に判断する必要があります。
街路樹を安全に長く利用していくためには、定期的な診断と計画的な管理が欠かせません。街路樹診断マニュアルでは、樹木の健康状態や腐朽の有無、倒木の危険性などを評価し、その結果に応じて剪定や支柱、伐採、更新といった対応を決める考え方が整理されています。
こうした計画を立てる際に中心的な役割を果たすのが街路樹診断士です。街路樹診断士は、樹種選びから設計、維持管理、更新計画まで、街路樹のライフサイクル全体に関わる専門職です。造園技術者や樹木医と協力しながら、安全性と景観性、コストのバランスが取れる街路づくりを支えています。
参考:一般社団法人 街路樹・都市樹木診断協会 | 街路樹診断士
街路樹管理の仕事は、都市環境と人々の暮らしを支える公共インフラに関わる仕事です。やりがいが大きい一方で、現場での負担や責任も小さくありません。仕事として向き合うためには、良い面と大変な面の両方を理解しておくことが大切です。
街路樹管理に携わる最大のメリットは、地域の景観や環境を自分の仕事を通じて良くしていける点にあります。
道路空間は多くの人が日々利用する場所であり、そこで感じる暑さや眺めの良さ、安心感は、街路樹の状態に大きく左右されます。設計や剪定、診断などのスキルを磨くことで、自分の判断が街の快適さを支えていることを実感しやすい仕事です。
自治体、造園会社、道路管理者など、さまざまな主体と連携しながら長期的な仕事を続けていけるため、専門職としてのキャリアを積み重ねやすい分野だともいえます。
一方で、街路樹管理は、維持のための作業量が多く、季節によっては業務が集中しやすいという側面があります。剪定や落ち葉の処理、倒木の危険性がある木への対策、根の隆起による舗装の補修など、日常的に対応しなければならない課題が次々に発生します。
屋外作業が中心のため、猛暑や寒波の影響を受けることも避けられません。また、景観と安全性、住民の意見、予算の制約など、複数の要素を調整する場面も多くなります
それでも、長期的な計画と丁寧なコミュニケーションを重ねていくことで、持続可能な街路樹管理の体制を整えていくことが可能です。
街路樹は、都市における小さな森林のような存在です。環境負荷の軽減や景観形成、防災機能の向上など、多くの役割を同時に担っています。
気候変動の影響が強まるなかで、今後は気温上昇や豪雨に耐えうる樹種の選定や、在来種の活用を見直す動きがさらに進むと考えられます。
センサーや画像解析といったデジタル技術を活用した診断手法も登場し、管理のあり方は少しずつ変化しつつあります。
植えて終わりではなく、育て続けることを前提に、森林、造園、道路管理の担当者が連携しながら、より良い都市環境づくりを進めていくことが求められています。
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