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書評:山本美穂編 「しいたけと 3・11」藤原敬 林業経済研究所フェロー研究員

eTREE編集室

1. はじめに

編者から標記著書をいただいた。
「3・11」2011 年 3 月 11 日に発生した 15 年前の東日本大震災と「しいたけ」?

(キャッチコピーは)
「原発事故におる広範囲に及ぶ森林の放射線汚染は、農林業の在り方にどのような影響を与えたのか」
「里山空間の多様性、循環性、持続性を示す存在である広葉樹を用いたしいたけ生産の現場の声を拾い、絶望的状況での筆舌に尽くしがたい苦闘をみつめ、不可視化されてきた、深刻な被害の諸相をあきらかにする。」

すごい!!

森林と原発事故問題については、
事故で放出された放射性元素のうち、セシウム 137 は半減期が30.1 年と長いので、これらの汚染が長期間問題となる。」
「 森林の放射能汚染の影響は広範囲に及び、かつ長期間続くことが予想される」
などと言われている(金子真司(森林総合研究所 放射性物質影響評価監)「森林における放射性物質の汚染の現状と課題」)。
その中で、「しいたけ」を切り口にした著作。概要を紹介しよう

2. 本書の構成と執筆分担

(1) 本書の構成

序章 なぜ原木しいたけに着目するのか——研究の背景と本書の目的
第1章 放射性降下物は樹体内をどのように動いたか——宇都宮大学農学部船生演習林にみるコラナと原木しいたけへの影響
第2章 放射性降下物は森林内をどのように動いたか
第3章 北関東(栃木県)にみる原木しいたけ生産の変容—中・低線量地帯の 10 年
第4章 東北(岩手県)におけるしいたけ原木流通の変化—原発事故の「視えざる影響」
第5章 激甚被害地(福島県)におけるしいたけ生産の変化と対応
第6章 九州から栃木県へのしいたけ原木の供給—原発事故が九州の産地に与えた影響
コラムA 「下野菊花炭」とクヌギと原発事故…
コラムB 里山のコナラ利用をつないだ葉たばこと原木しいたけ
コラムC 森林の高齢化とナラ枯れ
終章 福島原発事故後の広葉樹利用と森林管理

(2) 本書の執筆者と執筆分担

(編者)
山本美穂―宇都宮大学農学部教授(序章、第3章、コラムA、コラムB、終章)
(執筆者)
飯塚和也―宇都宮大学名誉教授(第1章)
大久保達弘―東北農林専門職大学教授(第2章)
山本信次―岩手大学農学部教授(第4章)
小野滉翔―元岩手大学農学部(第4章)
髙田乃倫予-岩手大学農学部助教(第4章)
早尻正宏―北海学園大学経済学部教授(第5章)
佐藤宣子―九州大学農学部大学院農学研究院教授(第6章)
石原昌宗―元九州大学農学部大学院生物資源環境科学府修士課程・日本製紙木材(株)北海道支店旭川営業所(第6章)
福沢朋子ー秋田県林業研究センター環境経営部研究員(コラムC)

3. 本書が明らかにしたこと

(1) 15年前の原発事故が森林に関連する社会諸相に様々な影響をあたえている

半減期が30年のセシュウム137。原発事故などで放散されるものの多くは流出されるが、森林の降下したものは森林の中にとどまりつづけて、数年で安定化するそう。
もちろん被災地では今まで使っていたナラなどの原木はシイタケ生産のホダギにつかえないので、原木は他の地域から(多くは九州から)調達。
「地域に資する特用林産物」なのに遠方資源に依存せざるを得ない「異様な状態が構造化」している。(序章、第3-6章)

(2) 遠距離輸送をささえる東京電力の補償

しいたけ原木の供給が難しくなった原発被害地域への原木の供給について、大分県をはじめ、九州地区が多くの量になっている事例が栃木県を例に示されている(第3と6章)。

この切っ掛けが、林野庁が 2012 年に特用林産施設体制整備復興事業によって、全国森林組合連合会が実施主体となって全国の森林組合と調整を行ったことであった。
被害地域で利用されている原木の形態に応じて、それぞれの地域で実施している広葉樹の流通の実態にあわせて知恵を絞って供給が行われており、旧来の地元への供給と調整がおこなわれ円滑に実施されているようである。

供給側の気持ちの中に「被災者支援」という思いがあり素晴らしいことだが、この復興事業を支えているのは「東京電力ホールディングスからの損害賠償」(復興事業は賠償責任が認められた経費をベースに行われることが一般的)である。
「当該事業の買取価格が地元より高い」という供給側の地元の関係者を支えている事業の背景でもある(第6章)。
関係者によって構築され安定してきたシステムの大きな課題だろう。

(3) 問題点を見えにくくしている構造

①時間がたてば他の災害もあって、3.11 の事故が忘れられる「時間的見えにくさ」、②激甚地に隣接する地域では、行政的は(他の事案もあり)大部分の森林が手つかずという「空間的見えにくさ」、➂里山の事業は様々な主体が関係する複雑な実施主体があり、補償の対象にならない事案をどのように問題にするかといた、問題を解決する主体がない、「構造的見えにくさ」、という「重層的見えにくさ」がある。(序章、第 3-4 章)

この著作をつくりあげたプロジェクトのように学術関係者ががんばらなければならないだろう。

4. 今後に向けての期待

もともとローカルなシイタケ原木の課題について、日本の各地の執筆者が協力したネットワークが生み出した、貴重な著書。以下のような重要な可能性を持っているので、この作業をさらに広げていただきたい。

(1) 国内政策の視点:人と森林をつなぐツールは広がっている

本書は、原発事故について、シイタケ原木をという、人と森林をつないできた重要なツールを通じて議論している。だが、最近森(もり)業など、森林の空間利用などを通じた「人と森林をつなぐ機会の大切さ」が再認識され、施策の議論が発展している。

林野庁は森業ポータルサイトを開設している(下の QR-code)。

今年の林政ジャーナリストの会の年間テーマも「森林業のニューフロンティア」である。そういう視点らみると、原発事故問題は何十年も森林空間利用を妨げることとなり、森業の発展の障害になるだろう。
だが、このような視点では東京電力ホールディングスからの損害賠償のコンセプトからははずれるだろう(多分)。

「人と森林をつなぐ」という日本の森林政策の根幹にかかわる考え方と、東日本大震災の原発事故の関係は、ますます重要な研究視点となるだろう。
本著書をきっかけにして新たな出発点となることを期待したい。

(2) グローバルな政策視点:原発と人類はどのように共存していくか

原発と人間はどのように付き合っていくか?
地球環境の視点から未来に向けて人類が直面している重要な課題である。

3.11 を経験した「日本の」、そして、当面の課題だけに制約されない活動領域をもつ「学術研究者が」様々な側面から情報収集し分析しなければならないだろう。

本著書は、この人類が直面しているテーマにとって、森林分野の情報がいかに重要か指摘している。
本著作に貢献した日本の森林分野の学術関係者が、是非グローバルな情報発信を視野に入れて、ネットワークを広げ、進めていただきたい。

(新泉社、2026年5月 204頁 2500円+税)

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