商品紹介
この記事をシェアする
2023.5.10
木材の機能性向上を目的とした技術の一つに「木材の圧縮」があります。主に、柔らかいために用途が限られる針葉樹に対して、欠点を克服するために用いられる技術です。
この記事では、木材圧縮によって得られる効果、圧縮木材がもつ特長、圧縮技術の種類などを解説した上で、それぞれ特徴をもった国内の圧縮木材メーカーも紹介します。
昨今注目される、豊富な国内森林資源の活用にもつながる木材圧縮を、ぜひ押さえておきましょう。
目次
圧縮木材とは、熱と圧力をかけて、繊維に対して垂直な方向に圧縮した木材のことです。圧縮することでさまざまな付加価値を与えられた、特殊な木材ともいえます。
木材を圧縮することは「圧密化」ともいい、古くからある技術ですが、近年、スギに代表される針葉樹の用途を広げる方法の一つとして、注目されています。
一般的に、広葉樹に比べて柔らかい針葉樹は、家具や内装材に使う場合、傷のつきやすさが問題にされがちです。健全な森林の維持に欠かせない間伐で発生する間伐材は、樹齢が若くより柔らかいため、特にその傾向があります。
圧密化は、針葉樹の柔らかさを克服することで、国内人工林の用途拡大に貢献できる技術といえるでしょう。
木材の圧密化について詳しく知りたい方は、下の記事もご覧ください。
2050年のカーボンニュートラル実現のために、森林資源の炭素吸収・貯蔵作用が注目されています。その作用を最大限に引き出すためには、木材の持続的な利用と森林の適切な管理によって、森林資源の循環を促すことが不可欠です。
木材の圧縮技術は、国内人工林の大半を占める針葉樹の弱点を克服し、木材利用の拡大に貢献する、時代に求められる技術といえます。
木材を圧縮することで得られる主な効果は、下記5つです。
そのほかに、化学物質を使わずに木材の機能向上を図れることも、圧縮技術の特徴です。
それぞれ詳しく解説します。
柔らかく強度が低い針葉樹を圧密化することで、広葉樹と同程度かそれ以上の硬さや強度を付与できます。圧縮によって、木材を構成する無数の細胞の中空構造が潰れて密度が高まり、材が硬くなるためです。
本来、柔らかい針葉樹は、傷のつきやすさが嫌がられるため、家具やフローリングの材料には向きません。しかし、圧縮して表面高度・耐摩耗性を向上させることで、様々な用途に利用可能になるのです。
無垢材の欠点の一つが、寸法安定性の低さです。空気の乾湿に応じた収縮・膨張に加えて、材の場所によって変化率が異なることで、反りやねじれが生じます。圧縮木材は、圧縮によって材が均一化されることで変形・収縮を抑え、寸法安定性の向上を図れるのです。
木材の圧縮には、材の見た目の変化も伴います。圧縮加工時の熱処理によって、スギは本来の明るい色味から茶褐色に変化します。色が濃くなることで、通常のスギ材とは違った深みや高級感、重厚さが感じられ、落ち着いた印象を得られるでしょう。
木材圧縮による材の均質化は、加工性も向上させます。
スギは、春から夏に成長する早材と、夏から秋に成長する晩材の硬さの違いが大きいという特徴があります。そのため、切削などの機械加工を施すと柔らかい早材部がえぐられるなどして、加工面が荒くなるのが欠点です。
圧縮加工は、材を均質化して早材と晩材の硬さを近づけることで、加工性の向上につながります。
圧縮によって、木材の耐水性も向上します。木材の中空構造をつぶし細胞密度を高めることで、内部への水の侵入が抑制されるからです。水の侵入を防ぐには、ウレタン塗料などで塗装する方法も主流ですが、その場合、木の質感は失われてしまいます。圧縮木材には、木の手触りや温かみを残したまま、防水性を高められるというメリットがあるのです。
圧縮木材は、熱と圧力を使った加工によって作られます。化学物質を使用しない点が、接着剤を使用して作られるパーティクルボードや合板などと比較した際のメリットの一つといえるでしょう。圧縮木材を家具や内装材に使えば、シックハウスの心配が不要となります。
木材の機能性向上を目指した加工技術の中でも、木材圧縮は人にも環境にも負荷が低い方法といえるでしょう。
木材圧縮と一口に言っても、板材全体を芯まで圧縮する加工以外の方法も存在します。
特徴的なメリットをもつ木材を得られる圧縮技術は下記の2種類です。
1つずつ解説します。
木材を圧縮する際に成形金型を用い、目的の形の材を得る技術を、圧縮成形技術といいます。
最大のメリットは、切削加工の手間をかけず、任意の形状の材が得られる点です。例えば、角材を円柱状や湾曲した形状に成形したり、金型の凸凹で材表面に装飾を施したりすることが、切削なしで実現できるのです。
さらに、圧縮後は木材表面が緻密になるため研磨工程が容易になり、目止めや下塗りなどの塗装工程を簡略化できるメリットもあります。
木材圧縮には、材の厚み全体を圧縮する全層圧縮と、材表面付近のみ圧縮する表層圧縮があります。両者のうち、針葉樹と広葉樹どちらの長所も得られる加工方法が、表層圧縮です。
広葉樹と比べて細胞密度が低く空隙が多い針葉樹は、軽くて扱いやすい反面、柔らかく傷がつきやすい点がデメリットです。針葉樹の表層だけを圧縮することで、表層の硬度を向上させつつ、全層圧縮よりも軽さを保つことが可能になります。針葉樹の軽さと広葉樹の硬さを併せ持った「硬くて軽い」材質を実現できるのです。
材内部の中空構造をつぶさない表層圧縮であれば、軽さと同様、細胞密度の低さに由来する針葉樹の衝撃吸収性と断熱性の高さも維持できます。
国内針葉樹の有効活用への貢献が期待される圧縮木材技術です。技術研究を重ね、付加価値の高い圧縮木材を生み出し、それらを使った製品作りに励むメーカーが国内には複数存在します。ここからは、圧縮木材を扱う下記4つの国内メーカーを紹介します。
圧縮加工で硬質化した「LIGNOTEX(リグノテクス)」に加えて、特殊な圧縮加工によって、木目に沿って曲がる「LIGNOFLEX(リグノフレックス)」を開発したのが、名古屋木材です。
LIGNOFLEXの柔軟性を活かして製品化されているのが、木製システム手帳や木製名刺入れ、靴べらなど。ヒノキ材のLIGNOTEXでは、エレキギターの制作実績もあります。システム手帳とエレキギターは、ウッドデザイン賞も受賞しており、注目の高さが伺えます。
参考:
家具メーカーとして培った曲木の技術を基に、木材圧縮の技術研究を重ねるのが、岐阜県高山市を拠点とする飛騨産業です。開発・研究しているのは、成形圧縮による曲面加工や、プレス金型の凹凸によって材表面に模様をつける化粧圧縮などです。
木材圧縮の技術は、家具作りに生かされています。圧縮と接着によって強度とデザイン性を付与した、国産スギ柾目材を使用した家具シリーズ「KISARAGI(如月)」は、チェアやテーブル、ソファなどの豊富なラインナップがあります。
岐阜県岐阜市に拠点を置く後藤木材は、木材の圧密加工に20年以上の実績があるメーカーです。「プレス圧縮強化製法」による木材の圧縮率は、最大70%とかなりの高さを誇っています。
地域産材の圧縮加工にも対応しており、全国の官公庁や学校、公共施設などへの、地域産材を使ったフローリングや壁材の納品実績も多数あります。
表層圧密技術によって付加価値の高いスギ材「Gywood(ギュッド)」を製造・販売するのは、神奈川県横浜市に本社を置くナイス。
針葉樹の弱点である柔らかさを克服しながら、強みである軽さ・衝撃吸収性・断熱性は残した新しい木質材料を生み出しています。
建築物や家具を軽量化できる利点を生かし、天板にGywoodを使った学習机も展開しており、無垢材に触れることによる子供達への環境教育も視野に入れています。
木材圧縮は、化学物質を使わずに圧力と熱で木材の機能向上を実現できる、人にも環境にも優しい加工技術です。
カーボンニュートラルの実現に向けて推進される、国内人工林の用途拡大・有効活用に貢献できる点も併せて、時代の流れに即した技術ともいえるでしょう。
柔らかく傷がつきやすい欠点を克服した針葉樹には、家具材や内装材として新たな用途が広がります。
地域材の有効活用、ひいては林業の活性化につながる可能性も期待できます。
資源量の豊富な国内針葉樹に付加価値を与える手段の一つとして、木材圧縮を覚えておいて損はないでしょう。
森未来は木材情報を集約したプラットフォーム「eTREE」を展開しています。プロの木材コーディネーターが、あらゆる木材の調達や加工をサポートします。木材の調達・加工にお困りであればぜひご相談ください。
おすすめの記事