木材加工

2022.12.23

CLTとは?集成材との違いや建築事例について解説

eTREE編集室

環境問題が大きく叫ばれる中、日本でも森林資源の有効活用を巡ってさまざまな取り組みがおこなわれています。その中で、建築物の木質化を実現する技術のひとつとして、CLTパネルの活用が有力視されています。

ヨーロッパなどですでに普及しているCLTとは、どのようなものなのでしょうか。この記事では、CLTの活用について、海外での事例や日本の取り組みを含めて解説します。

CLT材とは何か?

CLTとは、Cross Laminated Timberの略称で、日本ではJASの規格にもとづいて「直交集成板」と呼ばれます。ラミナ(ひき板)を繊維方向が直交するように積層接着した木質材料で、厚みのある大きな板になることが特徴です。

欧米を中心にマンションや商業施設の壁や床、構造体として普及しています。日本では2013年にJASの製造規格が制定され、本格的な普及に向け動き始めました。材積の多いCLT普及は国産針葉樹の需要拡大につながるとして、期待が寄せられています。

集成材との違い

集成材は、ラミナが繊維平行になるように積層接着するのに対し、CLTはラミナの繊維方向が直交方向になるように積層接着させる点が大きく違います。集成材は造作用と構造用の2種類に分けられ、造作用は主に家具や内装に、構造用は柱や梁に使われます。

また、集成材は柱や梁などの軸材として使われるのに対し、CLTは床や壁などの面材として使われます。

CLTの特徴

CLTは板の幅や厚みの自由度が高く、構造躯体としての利用も可能です。さらに断熱性や遮炎性、遮熱性などにも優れているという特徴があります。また、CLTはラミナ品質のばらつきを平均化できるため、製材用には向かない曲がりなどのあるB材も利用でき、森林資源の有効活用という点でも期待が持たれています。

施工の早さ

CLTは、パネルを工場内で組み立ててから現場に搬入し組み立てるプレハブ工法のため、工期を短縮できるメリットがあります。さらに欧州では接合金具がシンプルなため、熟練の職人でなくても施工が可能であることも特徴の一つです。実際に、欧州において9階建ての集合住宅を4名の技術者が9週間で施工した事例があります。同じものをRC造で建築した場合、プラス20週間分の納期がかかると言われています。

参考:CLT工法(CLT建築推進協議会)

軽量性

CLTのもう一つの大きな特徴として軽量であることがあげられます。RC造と比較した場合、重量が5分の1以下、同じ大きさのプレキャストコンクリートパネルと比較しても4分の1程度の重さになります。その結果、建物の基礎工事を簡素化できることによるコスト削減や材料輸送時の費用軽減につながるのです。

事実、CLTで建築された木造学校校舎のGHG排出量は同仕様で建築された鉄骨造、RC造よりも少ないことが明らかとなっています。また、軽量であることから、地震の揺れを軽減したり、地震被害そのものを減少させたりできる効果も見込めます。

参考:木材学会誌 66 巻 2 号

CLTパネル工法

CLTパネル工法とは、大型で軽量なCLTパネルを工場であらかじめ組み立ててから現場に搬入し、マニュアルに沿って施工する工法です。シンプルな工法のため施工期間が短くすむことや、CLTパネルの優れた断熱性や強度の高さなどから、さまざまな建築に活用が可能です。

その工期の短さから、緊急を要する災害時の仮設住宅が建設された事例もあります。海外ではすでに、中高層の木造建築物にもCLTパネル工法が積極的に使われています。

住宅への活用

CLTパネル工法を住宅へ活用するメリットは優れた断熱性や省エネ効果、強度などの仕様面だけでなく、デザインの自由度にもあります。CLTパネルは木目を生かした仕上げ材として「現し」で使うこともでき、マザーボードから必要な部分を切り出す際、曲線にしたり、大開口にしたりなど、設計の自由度があがるのも特徴です。

その強度を利用して階上の床を片持ちにして、はね出しの床を作ることもできます。デザイン面での魅力は、CLTパネル普及の大きな推進力となることでしょう。

参考:CLT建築事例集2021

他にも、CLTと同じ工法でつくった木質建材もあります。内装や家具などにも利用でき「無垢と合板の間」のような建材です。気になる方は、下の記事も参考ください。

CLTはヨーロッパ発祥の工法

CLTパネル工法は1995年ごろドイツで誕生し、その後、オーストリアを中心に発展しました。現在ではイギリスやスイス、イタリアなどヨーロッパ各国を中心に、さまざまな建築物に利用されています。もともとヨーロッパではパネル工法が用いられていた経緯があるため、その親和性の高さから普及が進んだのでしょう。

最近になって、カナダやアメリカ、オーストラリアといった地域でもCLTパネルを使った高層建築の開発が進むなど、世界各国で急速に普及が進んでいます。

参考:一般社団法人 日本CLT協会

海外でのCLTの建築事例

CLTパネル工法が普及している海外では、現在、集合住宅や福祉施設、商業施設など、大規模で高層の木造建築物の開発が進められています。海外での事例からは、木質化によるぬくもりがもたらす効果と林業活性化への糸口がつかめるのではないでしょうか。

Murray Grove・ロンドン

Murray Groveは、2009年にロンドンで完成した9階建ての高層住宅で、その特徴はCLTパネルを利用したハニカム構造になっている点です。1階がRC造、2階以上がCLTパネルを用いた木造建築です。同様の建築物をRC造にすると工期が72週間程度かかるところ、Murray Groveは49週間という短期間で完成しました。

世界に先駆けて建築されたMurray Groveは、CLTがRC造に取って代わる可能性を示唆し、イギリスにCLTパネルの普及を促したと評価される建築物です。

参考:CLT木材推進メディア~CLTs~

G3 Shopping Resort Gerasdorf・ウィーン

G3 Shopping Resort Gerasdorfは2012年にウィーン郊外にオープンした商業施設です。オーストリアのCLTメーカーがプロモーションのために資材提供をおこない、8,000立方メートルのCLTが用いられています。最大の特徴は、軒下や天井の一部などにCLTを「現し」で使っている点です。

建物全体で木のぬくもりが感じられる癒やしのデザインは、地元民に愛される人気の商業施設となっています。CLTパネル活用のさらなる可能性を見ることができるでしょう。

参考:東京理科大学工学部建築学科校友会

Forte・メルボルン

Forteは、2012年にオーストラリア・メルボルンに建設された、10階建ての高層住宅です。

1階部分はRC造、2階以上がCLTパネル工法で建築されています。オーストラリアでは、地球温暖化防止への対策として木造建築の重要性に注目しており、その一環としてCLTに着目、建設が進められました。Forteで使用したCLTパネルはオーストリアからの輸入材ですが、将来的にはオーストラリア産ラジアタパイン材でのCLT生産も見据えていることでしょう。

参考:木材工業

国内でのCLT建築事例

現在日本でもCLTの普及に関して、法整備を初めとした各方面からの取り組みがおこなわれています。現在はバス停などの小規模なものから、施設など大規模な建物まで国内で、400件ほどの実例があります。

100%木製箱型ユニット「CLTセルユニット」

CLTセルユニットは、国産CLT材100%のパネルを日本の伝統技術である「蝶蟻」で接合して造られた箱形のユニットです。組み合わせ方によって用途に多様な点が特徴です。ユニット単体で使用すれば小規模な店舗にも使え、重ねたり、他の構造と組み合わせたりすることでオフィスビルや大規模な商業施設としても利用できます。近年では、複数並べて、仮設の医療検査施設としても利用されている事例もあります。

参考:CLT CELL UNIT

新潟県少年自然の家宿泊棟

2019年に竣工した新潟県少年自然の家の宿泊棟は、木造軸組工法で建築された2階建ての建物で、床や壁、屋根や階段の主材料としてCLTパネルが採用されています。建築基準法の関係で、CLTの「現し」部分が多くできなかったことから、階段の段の部分にCLTパネルを重ねて利用することで、パネルの積層部分の「見える化」をはかっている点も特徴的です。

新潟県産材CLTパネルを使った建物として、地域材活用などの面からも注目度が高い事例と言えます。

参考:一般社団法人日本CLT協会

いわき CLT 復興公営住宅

2018年2月に完成した福島県いわき市のいわきCLT復興公営住宅は、CLTパネル工法で建てられた3階建ての建物です。この復興住宅で使用したCLTパネルに使われたのは、樹齢50~60年のスギ、約1万2000本分です。

この住宅は、入居時期が決められていたため、短い工期を実現することが求められていました。建設を通じて、工期の短期化には「パネルを大きくして数を減らす」「工区ごとに建て込みをまとめ、順番を管理する」ことが必要とわかりました。今後、さらなる短工期化の実現につながる事例と言えます。

参考:はじめるCLT建築

CLT普及に向けた各種助成金について

CLTの普及や需要拡大に向けて、関係各省庁から補助金や支援金、助成金など環境の整備が進められています。CLTを用いた建築物に取り組みやすい支援について、代表的なものをご紹介します。

CLT等木材利用への支援予算

・CLTを活用した建築物等実証事業:林野庁

先駆性や普及性のあるCLT活用を計画する事業体に対して、設計・建築費の3/10以内の助成がおこなわれます。

・サステナブル建築物等先導事業:国土交通省

先導的な木造建築を計画する事業体に対して、調査・設計費の1/2以内、建設工事費の15%以内(上限5億円)が助成されます。

・建築物等の脱炭素化・レジリエンス強化促進事業:環境省

ZEB化に資する設備の導入を計画する事業者に対し、工事費・設備費の2/3以内が助成されます。なお、CLTを用いる事業については優先採択されます。

参考: CLTを活用した建築物への主な支援制度

CLT建築物での活用も可能な予算

・住宅・建築物需給一体型等省エネルギー投資促進事業費補助金:資源エネルギー庁

ネット・ゼロ・エネルギー・ビル(ZEB)を計画する建築主に対し、建築費の2/3以内の補助が出ます。CLTを用いた事業について優先採択されます。

・学校施設環境改善交付金:文部科学省

学校施設の老朽化や耐震化などの環境整備や、老朽施設の改善などを計画している地方公共団体に対し、必要経費の1/3が支援されます。

参考:令和4年度CLT公的助成制度 概要 

まとめ

ヨーロッパで開発されたCLTパネルは建築のさまざまな面で、従来の工法に取って代わる可能性を秘めています。それだけでなく、CLTパネルの生産が普及することで、日本で主伐期をむかえている多くの森林資源および生産された木材の有効利用に効果的であるとも言えます。

CLTの歴史はまだ浅く、日本国内でCLTを生産・加工する事業所は多いとは言えません。今後、CLTパネルの生産とCLTパネル工法の普及のためには、仕様とデザインの両面からの訴求と、行政支援の積極的な活用がポイントとなるのではないでしょうか。

あわせて、CLTのより専門的な内容が知りたい方は以下もご参照ください。

【徹底解説】CLTの特徴・活用事例|建築家のためのCLT入門①

なぜ今、木材建築?木造のメリットと将来|建築家のためのCLT入門②

CLTは普及するのか?日本の現状と課題|建築家のためのCLT入門③

CLTの調達方法&コスト|建築家のためのCLT入門④

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